第2話:オープニング01

◆ Opening01/Scene Player――イワン(一人) ◆



 舟殳一人ふなまたかずとこと通称イワンが赴いたのは、イノベーションセンター「スコルコヴォСколково」の一角に存在する、モスクワ支部付属のアールラボ(UGNの研究機関)だった。

 白衣の職員たちの注目を集めながら研究室に入ってきたイワンは、一台の携帯端末を手渡される。

 立ち会っているレーラ評議員の説明によると、この端末は発見時にイワンが所持していた物品らしい。

 端末内に残された情報の一部に生体認証のロックが施されており、それを解除するために呼び出された、というのがここを訪れた経緯だ。


レーラ:「事前に書面で確認は取ったはずだけど、もう一度言うわよ。生体認証のアンロックは、あなたが自分の意思で行うもの。それによって得られたRZに関する手がかりは、個人情報であっても軍とUGNで共有する。問題ないわね?」

イワン:「えぇ、問題ありません。では早速――」


 文字列のパスワードは、既に解除済みのようだ。

 あとは、端末の画面に指を触れるだけ。少しだけ逡巡して、人差し指をそっと置く。


イワン:「……ん、ん? これって」


 表示されたのは、一枚の画像データ。この端末のカメラ機能で撮影されたと思しきものだ。

 瓶詰の青い造花を持つイワンを挟むように、眼帯をつけた若い男性と、陰のある微笑を浮かべた黒髪の女性が映っている。


GM:そして、その造花に、キミは見覚えがある。何故ならそれは、キミが時たま何の気なしに眺めたりしているものだからだ。

イワン:「じゃあ――」


 ――この男女は一体?

 イワンがふたりの男女の姿を手がかりに、記憶の糸を辿ろうとした瞬間、鈍い頭痛に襲われる。

 声にならぬ声をあげて、うずくまる。すると、脳裏に泡沫の如く言葉が浮かんいく。


「――……男性に花を贈るというのも、少し変な気がしますけど」写真の女性が、苦笑して微笑む。

「――俺も手伝ったんだぜ、それ」写真の男性が、得意げに言う。


 ノイズが、走る。


「――……満足か。そんな世界……俺は……イヤだね……」男性の声がする。しかし、キミの視界に彼の姿はない。

「――”転移”を発生……逃げ……」そう言って、糸が切れたように倒れていく女性。


 ”何か”が、決壊して、溢れ出しそうになる。そのまま意識を滂沱ぼうだとして流されてしまいそうになった瞬間――

 誰かが、自分の手を握ってくれることにイワンは気づいた。

 朦朧もうろうとする視界がはっきりしてくると、真っ白なLED照明と、心配そうなレーラの顔が目の前にあった。イワンの手を握ったのは、レーラの手だったのだ。


レーラ:「大丈夫イワン? 今、医療班が到着するわ。頑張って」

イワン:「……大丈夫です、収まってきました……」

レーラ:「そう。でも、念のためUGNの病院に検査入院しなさい。命令よ」

イワン:「……はぃ」


 先端技術を集められたモスクワの病院で検査を受けるイワンだったが、身体への影響は認められず――

 本人の強い希望により、数日中にはノビンスク支部に合流するのであった。


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