第2話:クライマックス(3/4)

 心の中に、うめくような声が響く。

 思い出せ……お前の本当の正体を。

 そして、探し求めるものの”真実”を。



GM:Eロイスの効果により、イワンの「自分の記憶」のロイスを[○P渇望/N恐怖]に書き換え。これでイワンは記憶を取り戻すことを”拒めなくなる”。

 続けて【Dロイス】《記憶探索者》の効果を発動。ここは特殊な裁定と処理になるが、イワンはタイタスをひとつロイスに戻し……。

イワン:いや何何何何!?

GM:イワンの封じられた記憶を”強制的に復活させる”。

イワン:は!? ゃ、やめ……やめろ!

GM:ここでレッドラバー死亡。


 脳髄が熱を持つ。揺らぐ意識の中、イワン/一人は声を耳にする。

「思い出せ、選抜検体2号(ドヴァー)……」

 そして彼は、”真実”を思い出した。

 ”ゾーン”の中に探し求めるものの正体を。それが、他ならぬ自分自身であることを。


イワン:「……――ッ!」 自分のこめかみに銃を突きつけてしまうな……。

GM:どうする? RHOを公開してから回想するか。公開前に回想するか。

イワン:回想してから開示しましょう。

GM:はい。


イワン:「いやそんなはずはない。嘘だ。僕は、僕は違う!」

マリアンナ:「……イワン!?」

イワン:「僕はドヴァーじゃない!! ドヴァーは僕以外の誰かだ! 騙そうとするなぁ!!」 滅茶苦茶に取り乱して辺り構わず撃ち回る。

美裂:「落ち着いて! ……最後になにをしたっていうのあいつは!」

アンゲリーナ:「っ……リディア少佐の危惧が当たったか……!」

イワン:「何処だ!! 何処にいるんだ!!」

GM:だが、キミはドヴァーの顔を思い出せない。……いや、実のところ。誰より知っている。当然だ。自分自身のことなんだから。

イワン:「……僕なのか……。僕自身だったって言うのか……?」


 そう呟き、熱に焦がれる意識の中で――彼は回想する。


 * * *


 ”ゾーン”でマリアンナに回収されたその日のこと。

 イワンは誰にも告げることがなかったが――目覚めたときからある衝動が心中に渦巻いていた。

 

 ――”ドヴァ―”を殺せ。


 理由はわからない。しかしそれは、抗い難い言葉となって突き刺さる。

 UGNへの協力を受諾したのもこの衝動が一番の理由だ。”ドヴァー”は、ノビンスクに存在するという確信があったのだから。

 ……思い返せば、当然の帰結だった。他ならぬ、自分自身なのだから。


GM:「どうしましたか? 気分が優れませんか?」


 検査入院のため、医療機器に繋がれて病院のベッドに横たわっていると、男性の看護師が声をかけてくる。

 ちらと横目で見る機器の数値は正常だが、よほど思いつめていた表情をしていたのだろうか。


イワン:「んぇ、あぁ、いえ……まだちょっと、頭が痛くて……」

GM:「そうですか。無理もありません。記憶喪失ですからね……」

イワン:「ご迷惑お掛けします……記憶を取り戻すことが出来れば、もっと役に立てるとは思うのですけどね」

GM:「ふむ……もしかしたら、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれませんし……」


 看護師が一旦退室してしばらくすると、ポリ袋をふたつ台に載せて帰ってくる。

 透明な袋の中には、拳銃と青い造花が個別に納められている。


GM:「こちらをお返しします。検査は終わっています」

イワン:「……銃……?」

GM:「検査の際に携帯端末と一緒に回収されたあなたの持ち物です」


 少なくとも、記憶を失う前には持っていなかったものだ。

 自分の記憶の手がかりであるのは間違いなさそうだが――なぜか、それ以上に……不思議な感覚が喚起される。

 悲しみか、怒りか、それとも……。


GM:「ちなみにレネゲイド反応があります。レネゲイドで精製されたもの、でしょうか」

イワン:「……そうでしたか……では、受け取ります」

GM:「記憶が戻るといいですね。お大事に」


 看護師は、そう言って病室を後にする。彼は間違いなく、善意でこれらを返却したのだろう。

 だが――。


 イワンは、ポリ袋から拳銃――ワルサーP99を取り出してポリマーフレームのグリップを握る。

 新品の肌触りでないことは直感的に理解できた。少なくとも、これを一度は手にしていたらしい。


イワン:「…………」


 他のオーヴァードとは違うんだと、自分に言い聞かせてきた。

 超人的な身体能力も、魔法のような異能も、そして武器さえも持たないどこにでもいる”名無しイワン”の男でいたかった。

 だが、その夢は脆くも崩れ去った。

 だから彼は、その元凶と思しき存在を――”ドヴァー”を討ち果たして、自らの命の幕引きを望んだ。


 彼の近くには、とても綺麗な死に様を与えてくれる女性がいたから――潔癖な彼は、一層渇望するようになった。

 かくして……今に至る。


 * * *


 イワンは、驚くほど簡単に「記憶探索者」の効能を受け入れた。そして思い出し、確信に至ったのだ。自分こそが、殺意の対象である”ドヴァー”である、と。

 頭に鈍痛が圧し掛かる。手元には、ワルサーP99がある。この衝動から解放される術は、簡単ではないか――。


イワン:「ゥ”ア”ァ”ァ”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”!!!!!!!!!!!」

 銃を、地面に叩きつける。

 「僕はジャームじゃない!!!! 自分で自分を殺す真似はしない!! マリアンナさん、僕を殺してくれ、今すぐ!」

マリアンナ:「……アンタ、なんで死にたいのよ」

イワン:「だって仕方ないじゃないか! もう僕は”武器を持ってしまった”! 何発も撃った!


 ――言ったところで、理解が得られるはずはない。自分勝手にもほどがある理由。

 それでも言葉が口を衝く。

 

イワン:「誰も傷付けないことで清くいようとした僕が、醜い存在になってしまった! 唯ひとつ、『ジャームの子』である僕が唯一つ持った美点のはずがッ!」

GM:混迷する状況だが、イワン、RHOを公開してくれ。(※リプレイではこのページの最下部に表示)

イワン:(RHOを公開しながら)ずっと……ずっと自分の事を探し続けていた……その結果がこれだ。嗤えよ。罵れよ。


イワン:「……ハハッ……良いよもう……」


 投げ捨てた銃を、再び拾い上げる。そして、自分のこめかみへ突き付ける。


イワン:「ドッチにしろ、こんな醜い僕……」


 引き金に力を籠めようとして、直前で指が震えて止まる。

 

 ――……先に行け。ここは俺が食い止める。お前は嫌がるだろうが、これを持って行け。

 ――賭けですが、空気を圧縮し、レネゲイド濃度を高めて”転移”を発生させます。一人さん、あなたはそれで逃げてください。


 脳裏に、声が響く。

 指に少しだけ力を入れれば、この地獄は終わるというのに――踏み切ることができない。


GM:では戦闘処理を続行する。理由は、Rハンドアウトの通りだ。

マリアンナ:これはどこから再開になるの?

GM:先ほどの戦闘ラウンドの続き。

マリアンナ:……となると、私たち3人は行動済みと。

イワン:そう言えば僕……『待機』してたね……。ねぇ、このまま自分に射撃してさぁ? HP0になるじゃん? そして、復活を選ばなかったとしよう。どうなるんだろうねぇ?

マリアンナ:戦闘不能、ね。


 そしてEロイス「加虐の宴」の効果を受けているキャラクターが、戦闘不能になって復活しなかった場合……

 そのキャラクターはエンゲージに5D点のダメージを与えて、死亡する。

 本来であれば使用者が死亡した時点でこのEロイスの効果は解除されるが、今回はエンディングまで継続する効果になっている。


アンゲリーナ:「……イワン、そんなに死にたいの」

イワン:「あぁ、そうだ。この際誰でも良い。僕を殺して、全部無かった事にしてくれ」

アンゲリーナ:「そう……わかったわ。マリアンナじゃなくて悪いけど……今、この場で――私が楽にしてあげる」

マリアンナ:「……アンゲ?」


 密かに、リディア少佐から託された秘密武器――”レネゲイド鎮静弾”をヴィントレスVSSに番え、その照準を寸分の狂いなくイワンの眉間に合わせる。

 しかし発砲直前の瞬間――せせら笑うような声が、響いた。


「……ふん、心にもないことを」


シームボル:「まあ、僕としても、ここで彼に死なれては困るからいいのだけどね」 


 その言葉の先にいたのは、中世的な一人の少年と、少女。

 体つきや髪形を除けば、一卵性双生児の如く似通った容姿をしている。


マリアンナ:「……誰よ。こっちは立て込んでるんだけど」

シームボル(GM):「はじめまして。僕はシームボル。革新者だ」

リェチーチ(GM):「フナマタとは久しぶり――と言えなくもないんだけどね。あたしはリェチーチ」

イワン:「……お前が、此処の……」

美裂:「さっきから黙って聞いてれば次から次へと……いきなり出てきてなんですか?」

シームボル:「実に簡単だ。僕たちは彼を回収しにきた。彼をこちらに引き渡してくれないかな?」

美裂:「何故でしょうか? 全く理由も意味も分からないんですけど。それすら教えてもらえないって言うんですか?」

シームボル:「世界の停滞を破り、人類を革新に導くため。――残念だが、彼が自殺する前に行動が必要なんだ。あまり話している余裕はない」

GM:さて、ここでPLの皆様に選んで頂きましょう。

マリアンナ:ふむ……。


GM:彼らの妨害を受けながらイワンを回収するか、それとも彼らに引き渡すか。

 前者の場合を選んだ際は、戦闘処理を続行します。後者の場合は、その時点で戦闘処理が終了します。

 どっちの場合でも、ちゃんとイワンは最終話に参加できます。導入は変化しますけどね。

美裂:私の性格的に、引き渡す意味がわからないのよね。

マリアンナ:でも、前者ならまず間違いなく大変なことになるわね。


 ”レッドラバー”との戦闘で、既に侵蝕率も危険な領域に達したPCたち。

 PL一同は高い侵蝕率や少ないロイス残量のこともあって悩んだが……最終的には危険を承知でイワンの回収を選択した。


美裂:うん、あんな意味のわからない戯言を言われて、引き渡すわけないわ。引きずってでも帰るわよ。

マリアンナ:迷ったときは、”心に従え”……よ。


シームボル:「……武蔵美裂。答えを聞こう」

美裂:「そんな曖昧で不審な理屈が通ると思ってるんですか? イワン、私は今からあなたを連れて帰ります。異論は認めません。文句は後で聞きます」

マリアンナ:「そうよ。こいつら何わけの分からないこと言ってるの。そいつには私の先約があるの。横入りなんてさせてたまるかってのよ」

アンゲリーナ:「はいそうですかと連れて行かせるほど、私たちは薄情じゃないの……。やらせないわ」

シームボル:「残念だ。だったら……力ずく、となるか」

リェチーチ:「馬鹿しかいないのかしら。ま、いいわ。時間かけてられないし、ささっとやっちゃいましょう」


アリサ:「おい、UGN――仲間想いなのは結構なことだが、ベロニカお嬢さんは早いとこ設備の整った病院に送らないとまずいぞ」

アンゲリーナ:「……それは」

アリサ:「……しょうがねえ。柄じゃねえが、あたしが運んでおいてやる。ただし、そっちの男のことは、そっちで片づけな」


 そう言うと、アリサは気絶したベロニカを連れてシーンから退場。

 残されたのはPCたち四人と、謎の乱入者の男女ふたりとなった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


●PC①用Rハンドアウト

ロイス:ドヴァー 推奨感情 P:任意/N:殺意

公開条件:ドヴァーを発見したとき。もしくはGMの指示


 目覚めたときからずっと、キミの心の中には、ある強い衝動が渦巻いている。

それは、明白な殺意だ。


「ドヴァーを殺せ」


 脳裏に声が響く。キミはドヴァーと呼ばれる人物を殺さなければならない。

 そして、ドヴァーはノビンスク……RZの内部にいる。何故だかわからないが、キミはそう直感した。

 故に、キミはUGNに協力するという形で、RZ内部に足を踏み入れるのだ。



【特殊効果】

 あなたは「ドヴァー」と呼ばれる対象に殺意を抱いている。

 もしも「ドヴァー」を見つけた場合、ただちに戦闘処理に移行し、あなたは対象にBS:憎悪を受ける。

 これは対象に攻撃した後も効果が継続し、ロイスのタイタス昇華、アイテム、エフェクトで解除できない。

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