第1話:ミドルフェイズ03

◆ Middle03/Scene Player――マリアンナ ◆



 美裂が講師役を終えて支部に帰還したタイミングを見計らい、マリアンナは支部長用の執務室に向かった。

 半ば確信に近い気持ちが、数日前から、マリアンナの中でくすぶっていた。

 彼女は”何か”を隠している――。それを問い質すのだ。

 

 自分も他人をどうこう言えた義理ではないが、もしそれが己の”欲望”の障害になるのであれば、そのときは――。



GM:それでは次は誰が行く?

マリアンナ:特に希望がないなら私が行くわ。

イワン:何かやりたそうにしてましたからね。

GM:いいよ。イベントカードは使う?

マリアンナ:ここは使わず、ロールプレイのみで。美裂、同伴願えるかしら?

美裂:はーい。

GM:イベントカードを使わない場合は、シーンに登場するPCは全員侵蝕率を上昇させる。シーンの描写もマリアンナに一任するよ。

マリアンナ:7点……今日は登場侵蝕が高めだわ。

美裂:8点上昇。さっき1点だったし、問題ないわ。

マリアンナ:では……そうね。美裂が青空教室から帰ってきたところを見計らって、こちらから執務室に行くわ。「美裂、いま暇?」と一応ノックして声をかけるわね。

美裂:「はいはーい。あら、マリちゃんじゃない。どうしたの? 珍しいわね」と応えて招き入れるわ。

マリアンナ:「まぁね。ちょっと気になってたことがあるのよ」

美裂:「およ? なんの話だろ」

マリアンナ:「いつまでも有耶無耶うやむやにするのはしゃくだから、直截に聞くわ」


 マリアンナはつかつかと美裂に迫る。逃がさない、と含意がんいをこめて。


マリアンナ:「アンタ……あのジャーム、”オーボロテニ”と因縁でもあるの?」

美裂:「……どうしてそんなこと聞くの?」

マリアンナ:「どうして……と聞かれると、単純に気になっただけよ。でもね、アンタ、あいつのことを話すとき、妙にタメを作ってる。まるで……それを自分に言い聞かせるみたいにね。それで疑うな、というのも無理な話じゃない?」

美裂:「……因縁があったとして、それが私たちの使命に何か関係あるの? ”アレ”は倒さなくてはいけない人類の敵。そうでしょ?」


 マリアンナが支部長用のデスクに平手を叩き付ける。琥珀色の瞳が、剣呑けんのんな光を帯びる。


マリアンナ:「はぐらかすな。私は因縁があるかどうかを聞いてるの。UGNの理念とかはどうでもいい。元FHの私にとって、ジャームは目障りになるようなら殺す――その程度の認識しか持たないの。アンタが何を考えていようと、ね。さあ、どうなの?」

美裂:「返答は変わらないわ。人類の敵であり、仇成す存在。であるなら私はこの手で切り伏せる。それがノビンスク支部長としての意思であり、これまで生きてきた私自身の信念でもある。因縁があろうとなかろうと――結果は同じなの」

マリアンナ:「……あっそ。綺麗事ご馳走様。じゃあ、因縁があるのは”否定”しないということね」

美裂:「そうね。特段”肯定”するつもりもないけどね」


 そう言って彼女を見つめ返す藤色の瞳には、揺らぎがない。


マリアンナ:「……ふん。どうやら、私には関係ない話だろうからこれ以上詮索はしないわ。ただし、それで足を引っ張ることがあれば……」


 デスクに身を乗り出し、美裂を見下ろして口の端を吊り上げる。

 狂犬を連想させる獰猛どうもうな笑み――。


マリアンナ:「……後ろくびを噛まれないよう、精々気を付けなさい? ここは、いつ何が起こっても可笑しくないのだから」

美裂:「……ご忠告ありがと。支部長として肝に銘じるわ。美しい硝子職人さん」

GM:……では、話が終わったところでシーンを切ろう。

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