第2話:ミドルフェイズ08(1/2)

◆ Middle08/Scene Player――マリアンナ ◆



 一行はマインドジャマーの発信源を目指して地下通路を進むうちに、”生きている設備”を発見する。

 言うまでもなく、ノビンスクはインフラが完全に絶えている。

 いぶかしんで設備が繋がる先を探り、時にはマリアンナの《壁抜け》で無理やり壁面を貫通して進むと、やがて広い空間に出た。

 そこは、明らかに人工的な施設だった。壁には、かすれた文字で「ソ連医学アカデミー」とある。旧ソ連時代の遺物なのだろうか。



GM:さて、ここからは情報収集フェイズだ。これから項目を提示するけど、「何かの実験データ」は調べずともシナリオクリアに支障はない。


▼「この施設について」 <情報:軍事、ノビンスク>難易度8


▼「重要区画について」 <情報:軍事、FH>難易度10


▼「何かの実験データ」 <情報:軍事、FH>難易度10


美裂:じゃあ、私から判定。「この施設について」、要人への貸しも使って(ダイスロール)……クリティカルして達成値は19! よしよし!

GM:成功だね。情報開示して、新たな項目を追加する。



▼「この施設について(1980年代の記述)」 <情報:軍事、ノビンスク>難易度8

 ※誰かの備忘録のようだ。

 大祖国戦争(対独戦)において、労農赤軍(ソ連地上軍の旧称)は、超人兵士と呼ばれる武装SSの部隊と遭遇した。

 彼らは一般人を無力化する特殊な物質の散布や、腕を獣のそれに変化させるなど、にわかには信じ難い能力を備えていた。

 戦後、司法取引によってドイツからアーネンエルベの学者を招聘し、超人兵士のような存在を研究するために設立されたのがこのソ連医学アカデミーの実験施設「ラボX-18」である。


 近年は、神話に登場する英雄や神々の正体が超人だったのではないかという研究が行われている。

 それを裏付けるように、ソ連西部の遺跡から”超人の力を宿す宝石”が発見されている。神話の英雄は、この宝石を媒体に能力を得たり、増幅していたとの見方もある。

 科学的無神論を標榜する我がソ連邦にとって、神話を科学的に解明できるこの研究の重要性は言うまでもない。

 もっとも、研究が完了するかは怪しいと言わざるを得ない。ソ連は財政破綻寸前で、予算も減額の一方である。


〇新規項目「2000年代の記述」追加。



GM:要するにここはオーヴァードの実験施設だったようだ。レネゲイド解放以前から存在しているが、この記録が残された当時はソ連崩壊(1991年)の直前なので、財政状況が悪いと。

美裂:「なるほどね。まだオーヴァードと呼ばれるようになる前の……」

マリアンナ:「……あっきれた。ここ、かなりの重要施設じゃないの」

美裂:「財政破綻で研究も頓挫か。まぁ当時じゃ仕方ないかもね」

イワン:「それが、何故今になって……って所ですか」

マリアンナ:「アンゲ、何か知らないの? アンタ軍人でしょ」 ぶっきらぼうに。

アンゲリーナ:「待ってちょうだい、今、調べてるところだから」

美裂:「もう少し探してみましょ。まだ色々あるかもしれないしね」

GM:ソ連崩壊と共に、色んな資料が失われたので、崩壊以前のことは現役の軍人であっても知らないことが多いだろう。次、誰が行く?

アンゲリーナ:では次、私が「2000年代の記述」いってみましょうか。要人への貸しを宣言して(ダイスロール)……12、成功ね。



▼「2000年代の記述」 <情報:軍事、FH、ノビンスク>難易度10

 再び、研究所が再開する日が訪れるとは。もっとも、出資者はFHに(もっと正確に言えば、都築京香に)移り変わったが。

 「世界の停滞を破り、来るべき革新へ」というのが、この組織の標語であり目的だ。


 追記:都築京香が日本の面影島で行方不明となり、代わりに現れた少年が指揮をすることになった。都築京香は、この事態を見越していたらしい。


〇新規項目「2010年代の記述」追加。



GM:DXの世界観の説明も兼ねて解説するね。まず都築京香は昔、FH日本支部長だった。しかし面影島を舞台とした2ndのシナリオ集でPCに倒され、行方不明になる。そして数年後3rdになってFHを脱退し、ゼノスの代表に収まって今に至る。つまりこの記述は都築京香がFH日本支部長時代~面影島事件の頃のものです。

マリアンナ:「……ふぅん。じゃあ今のここはFHの施設ってわけね。しかもつい最近まで稼働してた……と。いや、今もかしらね?」

アンゲリーナ:「”世界の停滞を破り、来るべき革新へ”……ものは言いようね」

美裂:「都築京香の後任の少年……ね」

マリアンナ:「……次、行きましょう」 ずいぶんと喰いついて情報を集めている。

GM:では、次は誰が行きますか?

マリアンナ:私が行くわ。「2010年代の記述」について挑戦。技能はFH、要人への貸しを使って判定。(ダイスロール)……技能値足して20、後半が不安になる出目ね。



▼「2010年代の記述」 <情報:軍事、FH、ノビンスク>難易度11

 非人道的な実験が行われている。世界の停滞を打破するための犠牲として目を瞑ってきたが、もう耐えられない。

 ジャームを統率するための衝動制御装置は、ソラリス能力者が用いられている。強力なテレパスによって”衝動”を制御するのだ。

 ……しかし、この哀れなソラリス能力は”扱いやすいように”脳だけとなって幻覚作用のある薬品を投与されながら装置に繋がれている。

 もう彼らの美辞麗句は信用できない。だが、研究は完了寸前だ。例の計画を実行に移す。

 研究所の重要区画に行くためには、パスコードとあの非人道的実験を主導した主任研究員のコードネームが必要だ。パスコードを入手しなければ。



マリアンナ:「”衝動制御装置”ね。まぁ、同郷の奴らなら確かにやりそうな手段かしら……私は大嫌いだけど」

イワン:「何時ぞやのUGNの計画が思い出されますね……マインドジャマーの正体は、この装置を転用したものでしょうか――……」


 イワンたちが得られた情報を見分していた、そのとき。


 ――”じゃり じゃり”


 生きていた端末の情報を調べていた彼らの耳朶に届いたのは、砂利を鳴らすような耳障りな音。

 即座に音の方向に意識を転換し、戦闘態勢をとる。

 この場所に進入する際、マリアンナが硝子化して砕き散らした壁の破片を誰かが踏んで近くまで迫っている、と推理するのは容易だった。


「……誰?」


 いつでも硝子片を生成できるように準備を整えたマリアンナが闇に誰何する。

 その呼びかけに姿を現したのは、自分たちと同じく精神防護ヘルメットを装備して、大剣を担いだひとりの少女。

 そして、少女――アリサ・トツカは、野趣ある笑みを浮かべて、一行に軽薄な挨拶を交わす。


「よう、UGNと裏切り者の御一行さん」


アンゲリーナ:「その大剣……噂に聞く”始末屋”かしら」

イワン:「……FH、か」

美裂:「これはこれはどうも。ちょっとお邪魔させてもらってますよ」

マリアンナ:「アンタ……何の用よ? 気でも変わったの?」

アリサ:「まっ、そう構えるな。と言っても、難しいか。あたしがマリアンナの殺しを依頼された”始末屋”ってのは、聞いてるだろうしな」

アンゲリーナ:「……初耳ね、マリアンナ。そんな危ない立場にいたなんて」


 結局マリアンナは、”始末屋”に狙われていることを、誰にも告げていなかった。

 面倒くさいことを言われたな、と渋面になる。


美裂:「なに? うちのマリちゃんに手を出すっての? ちょっと聞き捨てならないんだけど」

アリサ:「おやおや……この分だと、何も伝えていなかったようだな、マリアンナ」

マリアンナ:「どうでもいい情報を拡散して、場を混乱させて、私の”欲望”に支障が出たら問題だもの。言わないわよ」

アリサ:「へぇ。UGNに泣き付かず、自力で何とかするつもりだったのか。少し見直したぜ」


 美裂たちに睨まれても、無造作な姿勢を崩さず、くつくつと笑うアリサ。


マリアンナ:「お褒めにあずかり恐悦至極。んで? 何の用よ。まさか私の足を引っ張るために姿を現した訳でもないでしょう?」

アリサ:「ああ。あたしがここに来た理由は戦いじゃない。聞きたいことがあってな」

マリアンナ:「内容は?」

アリサ:「あたしの依頼者……”レッドラバー”のこと、そしてお前のいたセルのことが聞きたい。あんたがあいつと因縁浅からぬ仲だってのは、おおよそ調べがついている」

マリアンナ:「……”それ”をアンタに話したときの、私のメリットは?」

アリサ:「ひとつ、”レッドラバー”に関する面白い情報を教えてやる。どうするかは、そっちの勝手だが」


 押し黙って逡巡するマリアンナ。彼女の動向に、全員の視線が集まる。

 そのまま、緊張感をはらむ重い沈黙がしばし続いたあと――


マリアンナ:「……わかったわ。話しましょう。でも、その前に」


 ぐるりと振り返り、イワンたちを見渡す。


マリアンナ:「いい、アンタら? 今後も私は私の為に動く。これはどうあっても変わらない」

イワン:「初めからそうでしょう。あなたは何処にいてもFHだ」


 ここで言うFHとは、組織ではない。己の欲望ねがいに殉じる在り様を指しているのは、明白だった。


マリアンナ:「ええ。だから、これだけは言っておく。もし私の”願い”の邪魔をするなら……殺すわ。アンゲ、それがアンタの友達だった奴かもしれなくてもね」

 言葉を区切って全員を見回す。

「それが許容できる奴だけ残って頂戴。私の内情を知って、悲観的になられても迷惑だからね」


 下手な同情や慰めなんていらない。事情を知ったぐらいで、勝手にこっちの気持ちを理解したつもりになって、恨み切れないような半端な”優しい”人には、聞かれたくない。

 彼女の憎悪はそれほどまでに深く――そしてその闇の穴底で、いまだ音を立てて炯々けいけいと燃え続けているのだ。

 自身の身体と精神を、薪としてくべながら。


イワン:「ご心配なく」


 さらりと、しかし軽んじる様子はなく、イワンが言う。


アンゲリーナ:「……私は残るわ。ベラのこと、マリアンナのこと、RZのこと……私は、真実が知りたい」


 真実の探求者として、碧眼に意志を宿すアンゲリーナが言い放つ。


美裂:「事情を聴かなきゃお話にならないじゃない。どうあれ私はきちんと聞かせていただきます。一応上司ですからね?」


 いつもと変わらない”人の良さ”と”お節介”を顔と声にみなぎらせて、美裂が告げる。


マリアンナ:「……そう」


 それだけ短く言って、マリアンナはアリサに向き直る。


マリアンナ:ここでロイスの感情を変更するわ。イワンとアンゲに取得しているロイス感情を、両方ネガティブからポジティブ表に変更。

GM:わかりました。

マリアンナ:ふぅ……やっとここまで……。GM、アレの公開、問題ないわよね?

GM:問題ありません。回想シーン後に公開しますか? それとも前に?

マリアンナ:では後で。



 最後に残った懊悩を捨て去り、決心を固めるために数秒の沈黙を置いて――彼女は、ようやく口を開く。


「……あれは、随分と昔のことよ」


 そして、はじめて語られる――。

 誰にも明かされなかった彼女の物語が。


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