第2話:マリアンナの回想 中編
GM:では、一旦ここでシーンを切って……。次のシーンは、十年ほど経った頃になる。十代後半くらい。
マリアンナ:わかったわ。
十代の半ば頃から、マリアンナは徐々にラヨンヴォロスの仕事を手伝うようになった。恩返しをして、セルの助けになりたいという気持ちがあったからだ。
もっとも、マリアンナに回される仕事は、”お使い”の延長線上にあるような、オーヴァードであれば些細な内容だった。
だが、その日のラヨンヴォロスに届いたのは他セルの防衛作戦への緊急参加要請。マリアンナ以外に戦闘ができる人員は出払っており、彼女は出撃を決意した。
――が、緊張感を以て臨んだ割には、拍子抜けするほどあっさりと片が付く。
セルを襲ってきたUGNのエージェントたちは、マリアンナの力に恐れをなして、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
マリアンナ:「ふぅ……」
そして、報酬を受け取ってラヨンヴォロス・セルに帰宅する直前――忙しない様子で教会の扉を開く、ニーナと出会った。
ニーナ:「……マ、マリアンナ!?」
大きなガンケースとファーストエイドキットを肩に下げた彼女は、マリアンナの姿を認めると、急いで駆け寄る。
ニーナ:「マリアンナ、怪我は無い!? UGNと戦ってるって聞いたけど!」
マリアンナ「……大丈夫です。簡単な作戦だったし、さっさと終わらせて帰ってきたわ」
ニーナ:「そっか……良かった。まあ、無事で帰ってきたなら何より。疲れたでしょう。早く教会に入りなさい。ご飯用意する」
マリアンナ:「ありがとう、ニーナ姉。……リーダーは?」
ニーナ:「いっけね。あいつ防衛要請出した支部へすっ飛んでるわ。入れ違いになってるわね多分」
マリアンナ:「あらら。私が迎えにいく?」
ニーナ:「あー、あたしから携帯にメールしとく」
教会に帰宅してすぐ、湯気立つボルシチが手製の一枚板円卓に乗せて供される。
ニーナ:「全く驚いたわよ。あたしがいない間に、緊急依頼を請け負って出撃しちゃうんだもん」
マリアンナ:「私だって、もうお守りされるだけの子供じゃいられないわ。皆に恩返しもしたいし……」
ボルシチを木のスプーンで口に運ぶと、さして美味しいわけではないが、安心感のある温かみが体に広がる。
マリアンナ:「ニーナ姉、料理して長いはずなのに……味が昔っから大雑把よね」
ニーナ:「うっさい。黙ってありがたく食う」
マリアンナ:「はいはい、ニーナ姉の料理は今日も美味しいデスヨー」
ニーナは味覚に異常があるわけではないが、昔のセルにいた頃はサプリメントなどだけで過ごしていたらしい。
だとしても、これだけ長い間、炊事を担当しているのに上達の兆しが見えないのはいかがなものか。
ニーナ:「まあ、出撃したことに関してはいいとしてさ……無理だと思ったら、逃げてよね。マリアンナがいないと、お姉ちゃんめっちゃ寂しいし……」
マリアンナ:「ええ。ニーナ姉やお父さ……コホン。リーダーに恩返しできるまで死ねるもんですか」
ニーナ:「お、今リーダーをお父さんって言いかけたなー?」
マリアンナ:「うっさいバーカー!」
ニーナ:「うぇーん妹が反抗期だー」
ニーナは両手で顔を覆うが、明らかにウソ泣きだ。
すぐに手を降ろして、マリアンナと目を見つめ合う。どちらともなくおかしくなって、同時に小さく吹き出す。
ニーナ:「……ふふっ。まあ、あんたの気持ちもわからなくはない。このセルに恩返ししたいって気持ちは、あたしも同じだもん。でもね……聞いて」
マリアンナ:「……何?」
ニーナ:「あたしが同じように……戦闘依頼を請け負って出撃したあと、リーダーから聞いた話。リーダーって、元はUGNの支部長だったらしいの」
マリアンナ:「……そうだったの。道理でRCの訓練が厳しいと思った」
ニーナ:「けど、あるとき、奥さんがジャームを倒すために実施されたUGNの爆撃に巻き込まれて亡くなったんだって。お腹にいた子供も……」
マリアンナ:「……その出来事があったから、こっちに?」
ニーナ:「きっかけはそれだけど、でも、怨念返しのためにUGNを裏切ったわけじゃなくて、本当に守りたいもの、やりたいことのためにFHになった……とかなんとか」
「あたしには、そういう難しい考えはよくわからない。けど、リーダーはそのとき言ってたんだ。”心に従え”って……」
ニーナ:「それでね……自分を思い返してみて、私の心に
マリアンナ:「”心に、従え”……」
言葉を刻み付けるよう、それを反芻する。
ニーナ:「あーもう! な、なに言ってんだろ、あたしったら恥ずかしいなもう! ボルシチ、冷めないうちに食べちゃって!」
マリアンナ:「……私も」
ニーナ:「ん?」
マリアンナ:「私も、この場所を護りたい。この暖かくて、優しくて、”甘い”ひと時がいつまでも続けばいい……そう思うわ」
ニーナ:「わかった。それがあんたの
マリアンナ:「いいじゃない、私たちは異端なんですもの。これくらいの
今更ながら、恥ずかしいセリフを言ったな――と、マリアンナは面映ゆくなった。
マリアンナ:「……いただきます」 照れ隠しをするように、赤面したままボルシチの残りに手を付ける。
ニーナ:「めしあがれ」
穏やかで、暖かな時間。
しかし、あの忌まわしい瞬間は、刻一刻と迫っていた。
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