第5話「魔王の策略」
「ゴーガ様少しお時間よろしいでしょうか。」
会議を終えて軍団長がすべて退席した後、鋼華も席を立とうとしたときに、再び部屋の戸を開けて、銀髪のダークエルフピアニッシモが入室してきた。
「なんだ。」
鋼華は少しづつ魔王風のしゃべり方に慣れてきていた。
「シュタントを進軍することになったと思いますけど…。」
「…そうだな。」
「…、その大丈夫ですかね?」
「どういう意味だ?」
「ご存知の通りシュタントは非常に強い魔力の国です。だから、私たちも全貌を把握できてません。」
「それはさっき聞いたな。」
「…正直、メンフィスを支配したとはいえ、シュタントとまともに戦うには…力不足というかなんというか‥。」
言いづらそうではあるが、はっきりと魔界軍団が弱いというようなことを言った。
黙ってなかったのは、隣にいたルーシアだ。
「ちょっと、ピアノ!何言ってんの魔界一の美女とか言われていい気になってるんじゃないの?ゴーガ様がシュタントに負けるっていうの?」
ルーシアは自分の胸くらい、頬を膨らませて怒っている。
「…その負けるっていうか、情報部隊としてはちょっと怖いなってことなんです。まったくシュタントは情報の入ってこない国ですから、我々としては不安で…。」
ピアニッシモは落ち着いている。
「ピアノ!いい加減にしてよ!そんなの、ゴーガ様には関係ないわよ!」
ピアニッシモに反して、ルーシアは全く冷静さを保ててない。
さて、ここで鋼華は冷静に考えなければいけない。
果たしてピアニッシモは何が言いたいのか。
「ピアニッシモは何か情報を抱えてるから、進言に来た。そういうことか?」
なにか。鋼華にはピンとくるものがあった。
先んじて、そのセリフを言ったことでピアニッシモは驚いたように言った。
「さすが、魔王様です。」
ピアニッシモは目を輝かせた。
「そうです、いまコルド帝国で勇者コロナが皇帝に向けて反乱を企ててるという情報手に入れてます。」
コルド帝国は森と魔法の王国シュタントの北に位置する帝国で、国土の多くが雪に覆われている非常に生産力の乏しい国である。多少の植民地を抱えてるもののそれでも国民の多くを豊かにするには至らず、食にも困る国民がいるという。
ただし鉄壁の軍団をかかえてるといわれ、強靭な意思を持つ兵士たちは他の国の一人の力の3倍の力を持つといわれている。
しかし、度重ねる重税にそろそろ国民が限界を迎えるだろうと情報部の間では最近ずっと話題になっていたのだった。
「勇者コロナは、ずっと国民から立ち上がることを切望されていたのですが、いよいよ準備が整ったようです。このまま、勇者コロナが立ち上がれば民衆はほぼ勇者の味方につき帝政は崩れるでしょう」
ピアニッシモは早口にそして楽しそうにそれらを伝えた。
「それが、シュタント攻略と何の関係があるのよ。」
訳が分からないといった風にルーシアは言う。
鋼華は昨日、ルーシアから聞いた情報を整理する。
シュタントとコルドはずっと敵対関係にある。
敵対というよりコルドが一方的にシュタントをねたんでるだけだが、シュタントの豊富な資源に目を向けたコルドは、常にシュタントの領土を手に入れようと侵攻を繰り返していた。
しかし、常に返り討ちにあい、それがまたコルドの財政を圧迫するという悪循環に陥っていった。
コルドにとってシュタントは羨望の的であり、同時に憎悪の対象でもある。
コルド皇帝にとっての敵とは魔族ではなく、シュタント王国だといえた。
「勇者コロナの反乱の鎮圧に、我々魔族が手を貸すということか…。」
鋼華はそうつぶやいた。
「そうです!そうです!さすが魔王様!それを私も思いついたんです。作戦担当ではないので口に出すわけにはいかなかったのですが。さすが魔王様です!」
最高の笑顔でピアニッシモは言った。
なるほど確かにピアニッシモファンが魔族に多い訳だと鋼華も思った。
そのくらいの魅力的な笑顔だった。
「ゴーガ様、私は全然わかりません、どういうことですか。」
ルーシアは不満そうに鋼華を見つめる。
「…コルド皇帝に勇者の鎮圧に手を貸してやると進言するのさ。通常魔族と手を組む人間などいないが、コルド皇帝はいま自分の地位が危うい状態だ。そんな奴なら悪魔にでも魂を売るさ。」
自分の地位を守るためなら、何でもする人間は多い。鋼華はそれを学んでいた。主にビジネスマンガで学んだのだが…。
「そうです、いまコルド皇帝は疑心暗鬼です。きっと我々魔族との取引に応じるでしょう。」
「そこで、鎮圧した後、コルド帝国に先陣を切らせシュタントを攻めさせ、シュタントの情報が丸裸になった後に我われがシュタントに攻め入ればいいというわけだな。」
勇者コロナ、コルド王国、シュタント王国をすべて一気に攻略できるという魔族にとってはこれ以上ないプランであった。
しかしここで、調子の乗って魔王を演じ過ぎたことに気づいた。ついつい楽しくなって意見に乗っかってしまったが、魔族に有利に働くということは、勇者を追い詰めることにほかならず、自分の首を絞めるだけなのだ。
ましてや、自分にとっては何の恨みもない、コルド、シュタントの民を苦しめることになる。特に圧政に苦しむコルドの民の反乱を鎮めることは、自分の主義からは到底離れたものである、どちらかというと鋼華は反体制が好きであった。
(何とかこの意見を叩き潰さなければ…、あぶないあぶない。これが会議の場でなくてよかった。ピアニッシモ一人の意見なら覆すのは難しくない。幸いルーシアはあまり頭がよくない。)
と思っていたところ、会議室のドアが開いた。
「さすが、ゴーガ様です。途中から盗み聞きする形になってしまいましたが、私クールもその意見に大賛成であります。ゴーガ様の力が十分であれば小細工など不要ですが、そうでない今打てる策は打つべきと思われます。本来なら私が進言すべきでした。無能をお許しください。」
すっと、そんなことをのたまいながら魔導団長クールが入ってきた。鋼華にとって最悪のタイミングだといえた。
「うむ、自分も同感です。」
さらに、一つ目巨人ダンヒルが続き
「ぐぉーーーっ」
ドラゴンのヴォーグが続き
「わたくしめが、シュタント侵攻を焦りすぎましたな。申し訳ありませぬ。」
結局亀のミネも話を聞いていたようだった。
(こりゃ、意見は覆せないな)
こうして、勇者コロナの反乱鎮圧戦が始まることになった。
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