第5話「オリオンの議」

「開き直るんですか、オリオン候補」

 意外な展開に、平和党候補ロバート=ギアも言葉が出てこず月並みな言葉しか出てこなかった。


 悪びれることなくオリオンは答える。

「確かに、私はあの場でオリオマイトの軍用実験をした。それは、魔族を倒すためであり、そして防衛隊をより強くするためである。」


「だから、それは憲法違反だと。」


「憲法違反ではない、ギア候補が何を言おうと、魔族は魔族!勇者オリオンは魔族を倒すために生まれてきたのだ。それの前にギア候補の建前など何の意味もなさぬ!」


「それを開き直りというのです。」


「そして国民のみなさまに改めてご報告したい。わたし、オリオンは今回のママオラ海峡事件で、銃撃によってドラゴンを撃退することに成功した。」


 その事実は国民に公表されていなかった。


 『おぉ、すげぇ。』

 『防衛隊がドラゴンを倒せるのか。』

 一斉に観衆がどよめいた。歓喜のどよめきである、軍事的成果というものはいつの世も観衆を興奮させる、みな勝ちたいのだ。

 その成果の発表によって、先ほどまでのオリオン圧倒的不利の空気が変わってきた。


「ドラゴンの皮膚を貫通する銃弾、が完成したと今改めてここで発表させていただく。」


 さらに観衆がざわつく、今まで防衛隊といえば弱小の部隊にすぎず、ドラゴン退治など夢のまた夢だった。しかし、それが可能だということは、シャフト国民にとってのビッグサプライズである。


 パチパチパチパチパチパチパチ!!

 と、一斉にに拍手が鳴り響いた。


 両手をあげて、オリオンは観衆の歓声に答えた。


 焦っているのはギア候補だった。先ほどまでの空気が一変してしまった。憲法違反で攻める手がこれでは使えない。まったくの予想外だ。


「さらに、オリオマイトの軍用実験だが、なんと10㎞先まで攻撃する射程能力を持つことを証明できた!皆さん、弱い防衛隊の時代は終わろうとしてるのだ!」


 『すげぇな。』

 『もう、アサマに従ってる必要ないんじゃないか。』


 観衆の中でも特に男性陣の関心は高い様だった。


 しかし、ギアも黙ってるわけにはいかない。攻めるならここだとギアは思った。


「待ってください、今日は演説ではなく討論です。勝手に成果を発表されても困りますな。観衆の方もどうか冷静になっていただきたい。」


 その一言に、ざわついていた観衆が少し落ち着きを取り戻す。


「さすがに、10㎞先への遠距離攻撃が可能な武器はやりすぎではありませんか。それは、あきらかに防衛隊に認められた自衛権の範囲を逸脱する開発です。オリオン候補は本当に魔族討伐が目的なのですか。他国に侵略する気なんじゃありませんか。」

 

 会場の反応は様々だ、いろいろな意見が会場が舞う。

 『たしかに防衛のためなのかな。』

 『いや、我々には必要だよ。』


「あなたは、シャフトの防衛隊たちの若者の命を、他国侵略のために使おうとしてるのではありませんか。」


 さらに追撃をするギア候補。今ギアの手は一点しかない、オリオンに対する人格攻撃である。

 一方で、オリオンの覚悟は決まっていた。人格攻撃をもう受け入れて、政策と成果を前面に押し出す手である。


「否定しない、侵略する気などはないが、防衛官というのはみな命を覚悟しているものと私は認識してる。また、私も勇者として、魔族に立ち向かうためにすでに命を懸けている!」

 オリオンのこの言葉は民衆、特に男たちの心をくすぶった。

「そうだ、戦士っていうのはそういうものだな。」「オリオン様かっこいい。」「魔族討伐のために武器を開発するのは当然じゃないか。」「なんだよ、魔族のアイドルって、よく考えたら下らねぇ。」


 観衆はオリオンに傾き始めていた。


(くそう、まずい、正直に心の内を言うことで人格攻撃がきかなくなっている。)

しかしそれでも何とかギアは、オリオンを追求した。


「……ですが、オリオン候補にはコルドのスパイとの不倫疑惑があります。英雄色を好むですか?不倫自体も勇者としてどうかと思いますが、軍事機密をコルドに流してるという噂はどうですか、それがきっちり国民にされない限り、先ほどの言葉も国民には届きませんよ!」


「下らん質問だ、正直男女関係はあった。妻には申し訳ないが、熱くなってしまった。きっちり謝って、妻には許してもらっている。つぎ、浮気したら股間の勇者をちょん切るといわれたよ。」


 ははははははっと、観衆から笑い声が聞こえた。

 オリオンは正直にすべてを話し、さらにジョークを交えることで、浮気のバツの悪さの印象を薄くさせた。それはオリオンは狙ったわけではなかったが。


「軍事機密に関しては論外だ、君が仲良くしているコルド帝国を私はちっとも信用していない。そこと協力するなど全く考えられん。ギア候補の方こそ、むしろ何かあるんじゃないかね。」


 「いい対応ですね。」後ろで責任党の幹部たちが談笑してる。「あぁ、これは勝っただろう。」「平和党には理念も政策もありませんからな。」「オリオンは開き直ったことで政治家になったな。」


 感触としてはスーパーサンデーはオリオンの圧勝であった。ギアも正直、敗色濃厚だと感じていた、人格攻撃に徹したために政策や理念を打ち出せず、ただの引き立て役になってしまった。





 ピアニッシモは現場のダークエルフから受けた報告を鋼華に伝えた。

「という感じで、ギア候補は不利な感じですよ。」

 

 ピアニッシモはいかにも不安そうだった。


「…思ったよりオリオンはいい政治家だが、まぁ関係ないな。」


「えっ、関係ないんですか?」


「見てれば分かるよ。」



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