第36話「恋愛」



「なんか、ずっと一緒にいますね、魔王様と私。」


 デザスに向かう途中のドラゴンの背中の上でピアニッシモはそう言った。

 たしかに、二人で竜に乗ることがとても多い。


 竜に乗る構造上、乗るときはいつもピアニッシモが鋼華の背中にしがみつく感じになる。いわゆるダンデム走行で、ピアニッシモのあまり大きくない胸の感触が鋼華の背中には常にあった。

 最初は興奮したが今はもう慣れた。


「まぁ、ピアニッシモがいないと困るしな。」


「私が必要ってことですね?」

 ピアニッシモは目を輝かせる。


「いや、ピアニッシモが必要っていうか、連絡役が必要…。」


「そんないいかた、わざわざしなくても、私が必要でいいじゃないですか。」


「うーーん、あんま、ほらそういう恋愛要素とかもういらないと思ってな。」


「‥‥?どういう意味です。」


「ルーシアがいるからさ、ピアニッシモに変な期待させるのも悪いだろ。」


「…?ますます、わかりません。」


「いや、俺はルーシアと付き合ってるからさ、他の女と恋愛しないってことだよ。」


「…うーん、恋愛ってセックスのことですよね。ルーシアさんとやってるから私とできないってことですか。」


「恋愛イコールセックスじゃないと思うが、そういうことだ。」


「何それ、最近、ゴーガ様、本当に変。ルーシアさんとやってたらなんで、他とやっちゃだめなんですか。」


「や、だって、そんな堂々と浮気したらルーシア怒るだろ?」


「お、怒るって?ルーシアさんが?そんなわけないじゃないですか。大体なんでそんなこと気にするんですか。魔王様、こういっちゃなんですが最近本当変です。」


(なんか、ぜんぜん話が通用しない、これはあれか僕が魔王だけに、徳川将軍みたいな地位なのか、側室がいて当たり前的な?あるいは魔族が全体的にビッチなのか、あるいは両方?」


「要はさ……、ピアニッシモが俺とやりたいってこと?」


「えっ、逆に何のために私を連絡役として近くに置いてるんですか。」


「そりゃあ、かわいいし、聡明でひらめきに結構助けられてるし・・・。」

「やだ…、うれしい…。」

 背中に預けてる身体をさらにぎゅっと押し付ける。


「…で、なんで私はあのリゾートホテルの魔王様の隣の部屋で、放置なんですかね。」


「放置っていうか、連絡役だから近くにいるんじゃないのか。」


「もうこの際はっきり言いますけど、嫌がらせですよ。とうとう、一度も部屋に来なかったし。」

「…。」

「だいたいそのルーシアさんに言われましたよ、魔王様は最近なんか私とばっか一緒にいるけど、たまにはピアノちゃんのところにも来るのって?で、今んとこ何もないって言ったら、すごい笑われちゃいましたよ。」

「笑われた?」


「何のために隣の部屋にしたのかしら、ひょっとしてピアノちゃんに私たちのエッチな声を聞かせたいのかしらねって。」

(そんな趣味はない…。)


「友達にだってね、例えばシトラスにも言われるんです。ピアノは大出世だねって、クール様付から魔王様付に代わるなんてすごいーって言われてるのに‥‥、でも、何もないなんて恥ずかしくて言えないですよ!」

 ピアニッシモはもう感情があふれてしまって、言葉が止まらなかった。

(ん、クール様付?)


「ひょっとしてだが、クールと寝たことあるのか。」


「ひょっとしてもなにも、当たり前じゃないですか。」


「当たり前なのか…。」

(なんだって、あのかっこつけ、緑はげの野郎、ピアニッシモになんてことを。)


「そもそも2年前、クール様と私で一度子供出きましたって報告したじゃないですか。去年の感じだと私のこと覚えてなかったみたいですけど。」


「はっ!?子供、誰の?」


「私の。」

「誰と?」

「クールとの。」


(な、なんだ。どうなってんだ、どういう神経なんだ?えっ、なになにピアニッシモって子持ちなわけ。)


「えっ、じゃあピアニッシモはクールの女なんじゃないの?」

(結婚って概念があるかは知らんけど、人妻なんだよな。)


「その表現がわからないですけど、子供はクール様の子です。」


「じゃあ、お前が今、俺とやりたいとか言い出してるのおかしいだろ。」


「別におかしくないですよ。ってだからやりたくて私を今そばに置いてるんじゃないんですか?」


「…そんなこと言ったって、今クールとの関係は、どうなってんだよ。」


「まぁ、もちろん、魔王様付になった時点でクール様とは何もないですよ。そんな不義理なことをクール様がするわけないじゃないですか。」


「クールはそれでいいのかよ。」

(あいつはどんな気持ちなんだろう。ごめんなクール。寝てないのに寝とったみたいになってる…。)


「いいもなにも、もちろん喜んでますよ。」


「喜んでる?」


「魔王様の役に立てたっていってます。」


(魔族って、どうなってんのよ…。)


「そ、そっか…。て、おい子供はいいのか。」


「‥‥?そういや最近顔見てないかな、たぶん仲間がうまく育ててます。」


(何その雑な感じ。)


「ということで、魔王様そろそろお願いします。魔王様の子供欲しいです。ダークエルフの仲間がまだーって、いつも聞いてくるんで。」


「…いや子供はルーシアと作るから…。」


「…ルーシア様と作らないから、私を選んだんじゃないんですか?」


「ん。どういうこと?」


「どういうことって、だって作るつもりないですよね。」


「そんなことないが…。」

(いっそできたほうが、この世界に残る覚悟決まるぜって思ってる。)


「…、そ、そんなルーシアさんそれ聞いたら悲しみますよ。いやむしろ喜ぶのかな。でもルーシアさんなら迷わず産んじゃうし…、いや、絶対今のことルーシアさんに言わないでくださいね、私ルーシアさん大好きなんで、子供は私とアイシーンさんで産みますから!」


(全く、話が見えない…っ?)

「ア、アイシーンってあの蛇女?」


「言い方ひどいです、そういえばアイシーンさんも最近ご無沙汰って怒ってましたよ。」

(えっ、アイシーンもそういう役だったの…。)

「そういえば、フォルトナも…。」

(誰だ…。)

「リナも…。」

(えっ‥‥。)

「アイリスも…。シャミールも…、チョージャク、シリガール…‥


(何人囲ってるんだよ俺…いや、‥…魔王ゴーガのバカヤローー―!!)





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る