第34話「葛藤」

(忘れてた…ヴォーグは最強のドラゴンなんだ…。)


『…なぜだ、なにも焼き払う必要は…。』

 といおうと思った。

 が、鋼華はヴォーグの上で震えながら、言おうとした言葉を必死に飲み込んだ。


(当たり前だ、ヴォーグの行動は当たり前…、僕が人間よりだから今の行動を悲惨だと思うだけだ。勇者だって、こんなに魔族を殺している、くっそ、すごく文句を言いたいが、必死にこらえろ。)


「…エコーがやられたか…。」


「…うん、でも…勇者を倒せた。無駄な死じゃないよ。」

 すっきりした顔で、ヴォーグはそういった。


「あぁ、そうだな、エコーはよくやってくれた。」

 実際エコーがアサマ軍のハングライダー部隊を倒したおかげで、ヴォーグはここにたどり着いたといえる、そう鋼華は思った。


 しかし、すぐに考え直した。


 果たしてそうだろうか、いままで、ヴォーグが力を発揮できなかったのは、たまたま、状況がそれを許さなかったからだ。

 あのとき、ママオラ海峡の時に、僕がヴォーグを止めたのは、対空攻撃が強力だったからで、それを無視して、全力でヴォーグに全力を発揮したなら、あるいは艦艇をあっさりつぶしたかもしれない。


 別にエコーが出向かなくても、ヴォーグだけでも勇者を倒すことはできた。


 あぁ、もし僕が覚悟を決めて、ヴォーグとドラゴンの力でアサマ軍をつぶしに行く覚悟を決めてれば。たぶんそれでもアサマを止めることはできたのだ。

 それをしなかったのは、僕がすでにヴォーグの力を知っていたからだ。

 

 もし、この無慈悲なドラゴンが本気ならば、容赦なくアサマ帝国の人間は死ぬと思ってしまった。

 だから、僕はドラゴンの介入を避けた。


 ちがう!!


 それすら欺瞞だ!


 僕は、戦術でこの戦況を戦いたかった、いや遊びたかったんだ。

 部隊を操ってゲームする自分に酔いしれていた…。


 ヴォーグが炎を吐いておしまい。

 

 そんな戦いじゃを僕はつまらないと思ってしまったんだ。


 最も合理的に考えるなら、空魔団など送り込まず、ヴォーグとドラゴンの軍団で全力でアサマを襲って、脅威を与えて引かせるべきだった、そして僕がアサマを直接支配すればよかったのだ。


 中途半端に戦いなき平和を目指した結果、僕は死者を増やした‥‥。

 

 エコーも、勇者アサヒも、シャフト軍も、アサマ軍も死なずに済んだ人たちはたくさんいた。


 僕のせいで、僕のせいで、僕のせいで、僕のせいで、僕のせいで…!!



 あぁ、わかったよ。覚悟を決めた、僕は世界を支配する魔王になろう。

 それが、もっとも世界を幸せに導く方法だ。


 みんなを幸せにするため僕は世界征服をする。

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