第47話「考える魔王(真)」

 <コルド帝国内ファウスト要塞>


「いよっ、久々だなヴォーグ。」


「…お前は誰だ、ケント副団長は?」


 ヴォーグが、アサマ連邦を制圧して、バーラキ条約の調印を見守った後、ファウストに帰ってくると、ケント副団長がすわるはずのイスに、知らない男が座っていた。


「だから、久々っていってるだろ。俺は魔王ゴーガだよ、お前の大好きなゴーガ様だ…。」

 ゴーガはたっぷりと優しさを込めてヴォーグにそう言った。


「…に、人間が、なにを訳の分からないことを、殺してやるぞ。」

 ヴォーグは別に気が長くない、この無礼な人間をさっさと焼き殺そうと思った。


「ヴォーグ、本当なのよ。」


 見知らぬ男の隣にいるルーシアが口を開いた。


「ルーシアさん、一体何を言い出すんですか。……!?おまえ、ルーシアさんに何をしたんだ。」

 とっさにヴォーグは、魅了テンプテーションに近い何かをかけられてるのだと思った。

 そしていうとすぐに、周りに影響を与えないような小さな炎のレーザーを男に向かって放った。


 しかし、その炎はゴーガが放った高圧水竜ドラゴンオブケルヒャーによって打ち消された。


「そ、そんな僕の炎が水に負けるなんて!」


「火遊び好きだな相変わらず、昔もこうやってお前がところかまわず放火するから、消化大変だったんだぜ。泣く代わりに炎はくんじゃねぇよ。」


「…なんで、そんなこと。」


 ぱっと、ヴォーグはルーシアの方を見る。


 ルーシアは『ううん』と首を振った。


「…カプリ達を助けに行ったとき思い出すよなぁ。泣いてるドラゴンいたからよ、理由聞いたら、独りぼっちが寂しいからとか、わけわかんねぇこといいやがってよ。」


「なんでカプリのこと…?」


「捕まってる竜たちを助けに行くって安請け合いしたら、なんだよ、あの砦!さすがにあんだけ手練れがいたら、正直死ぬかと思ったぜ。」


「お前はあの時がかっこよかったって言ってるけどな。」と付け加えるゴーガ。


 一緒に戦った2人にしか分からない思い出を知ってる…。

 そして声こそ違うものの、二人の時しか話さないこの兄貴肌の乱暴なものの言い方。

 まさか本当に…。


「ゴーガ様なんですか‥‥?」


「あぁ、そうだよ。俺が本物のお前の愛してくれた魔王様だ。」


「…ゴーガ様!ごーがさまぁぁぁぁがぁ!」


 思わず懐かしむあまり、ヴォーグは泣き出してしまった。


「相変わらず、泣き虫だな…。」


「ぐっ、ひっぐぅ…でもなんで人間の姿になってるの?この間まで姿、魔王様だったのに‥。」


「いやいや、そうじゃなくて…、お前らに魔王様とか言ってた俺の姿してたやつ、あれは偽物なんだよ。力なくしたとか言ってたそうじゃないか。」


「言ってた…。」


「戦い方も違かっただろ、しゃべり方も…?」


「違う…。」


「ほかにもいろいろあったろ?」


「いっぱいあった…、闘いの話しかしてくれなくなった。冷たくなった。」

いつの間にか、戦闘要員としか扱われてないような気がしていた。


「…で、そんだけちがうってのに、なんでルーシアもミネもお前も全部信じてんだよ!!本当に頼りねぇ連中だぜ全く!」


 ヴォーグに会うまえにミネも真相を聞かされて納得していた。

 

 ゴーガは、自分の仲間のあまりの人の見る目のなさにがっかりしていた。



「ぐるぅつつつ、じゃああの魔王は僕らをだましてたのか?許せない!!」


「まぁ、そうだな。お前は騙された。」


「くっそお。許せない―――っ!はやくあいつを殺しに行きましょう。僕とゴーガ様ならたとえ敵が何匹いたって楽勝ですよ――。」

 口に火をためて、足をじたばたと踏み鳴らす赤いドラゴン、居ても立っても居られないようだった。


「…相変わらずだなぁ…。まぁさすがにそんな単純じゃねぇよ。シトラスとか言ったっけ?もう俺がここにいることとか、ぜんぶピアニッシモに伝わってるんだろう?」


「…はい、まだ私も勇者ハイネケンがまさかゴーガ様だなんて思いもしなかったんで…。ピアニッシモには、ハイネケンの魔術に騙されてるのよって言われました。それっきり私とか、ファウストのエルフの通信は、外部とはできなくなってしまいました…。」


「もう、ピアニッシモちゃんも単純だなぁ。確かクールの嫁だったよな。あんま顔覚えてないけど。…ん、偽魔王のお気に入りなんだ?そりゃあクールの顔が見てみたいわ、あいつどんな気持ちなんだろ。」


「ゴーガ様、相変わらずクールいじるの好きなんですね。」

 隣でルーシアがぼそっと言った。


「おぉそんなことはどうでもいいんだよ。…で、ということで向こうもさすがにこっちの情報知ってるだろうし、偽野郎も対策立ててくんだろ。すでに、アサマとかコルドとかは情報回してるっぽいしな。」

 ゴーガは敵ながらあっぱれっといった表情で、両手を広げて、やれやれというポーズをとった。


「で、なんかドラゴンを撃ち落とす銃とかも開発してあるらしいじゃん。まぁさすがに一筋縄ではいかねぇかなぁ…。地上から行くには、巨人軍団が邪魔だし、いくらおれでも巨人1000体とか相手にすんのきっついわ。心苦しくもあるしな。」


 そうか、偽物を倒すためにはかつての自分の仲間をかなりの数、殺さなければならない…ヴォーグも改めてそれがわかった。

 どちらかというと、ヴォーグに対する配慮なんだろう、果たしてヴォーグは味方に火を向ける覚悟はあるだろうか。


「ま、足りない頭で考えたんだが、コルドを攻めることにするぜ。」


「コルドですか。」

 今までじっと聞いてたミネが聞き直した。


「なんかアサマ連邦とか支配下に置いてんだろ、そしたらそこを落とせば、偽物はめちゃくちゃ焦るんじゃないか?」


「少なくともアサマにコルドを味方する義理はなくなりますな。」

ミネはそう答えた。


「数で考えたら、コルドとアサマがなくなったら、偽物の手駒はすげぇ減るだろ。絶対にコルド防衛に本気になるぜ、メンフィスから引っ張り出しちまえば楽勝ってなもんよ。コルド帝国攻略が天王山ってやつだな。」


「おぉ、さすがは魔王様。」

 ミネが感心したかのように言った。


「おまえ、絶対それ偽物にも言ってたよな。」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る