イツワリの終章
第46話「魔王の苦悩(偽)」
<魔族本国メンフィス城内>
「ゴーガ様、ファウストが勇者ハイネケンに占領されました!」
とんでもない一報がピアニッシモからもたらされたのは、はオリオンとの話が一通り済んだ時だった。ファウストとは、コルド帝国内の魔族の巨大要塞である。
「な、なんだって…もう一度言ってくれ…。」
「…ハイネケンによってファウストが攻め込まれて、それでそのまま、ファウストの魔族たちがハイネケンの傘下に入ることになったと…、わたしにもさっぱりわからないのですが…。」
「攻め込まれたって…あそこには70000以上の兵がいるんだぞ…。だって確か、攻め込んできたシュタントは1000とかだっただろ!?それがなぜ?」
「…それが、ほとんどハイネケンたった一人にやられたようです…。」
言いづらそうにピアニッシモは鋼華に伝えた。
「たった一人だと…。」
鋼華の憔悴は計り知れなかった。
(勇者ハイネケンってやつは、そんなに強いのか。たった一人で、あの要塞を落とすなんて、今までの戦略なんて何の意味もないじゃないか…。)
「傘下に入るってどういうことだ?魔族が勇者のいうことを聞いたっていうのか。」
いままで鋼華は、少なくない人間を魔族の支配下に置いた、しかし逆ってことがあるんだろうかとそう思った、そしてなんとなくの悪寒を体中に感じていた。
「…それが、ハイネケンはその俺が本当の魔王ゴーガだと名乗ってるそうです。」
…まずいっ!!
まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、
まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!!
これは、まずいっ!
とうとう、僕のうそがばれる!
報告を聞いた瞬間に、全身を悪寒という悪寒が走りまわり、そして体中の血の気をひいていくのを、まるで他人ごとのように感じていた。
しかし、鋼華は、いっそ倒れこんで、そしてすべてを叫んでしまいたいというような感情を必死に抑え、必死におさえ、冷静を保とうとした。
「…ハイネケンの魔術ということか…。」
必死でその一言を絞り出した。
とっさに鋼華が考えたこと、それはもうハイネケンが魔族全体に
しかし、もちろん鋼華は気づいている。
その勇者ハイネケンは間違いなく本物の魔王ゴーガなんだろうと。
しかし、まだ、しかし、まだ自分は魔王を演じ続けなければならなかった。
気になるのはピアニッシモの反応だ、こいつさえ何とかできれば。
ここで、口を開いたのは意外にも勇者オリオンだった。
「そういえば、聞いたことがあるな。勇者ハイネケンの得意技である広範囲テンプテーションのうわさを。サキュバスのそれと違い相手を問わず、無条件に相手の信頼を得てしまうという、まさにカリスマ的な能力だよ。」
もちろん、これはオリオンの嘘だ。
オリオンもまた今の話を聞いて真相に気づいた。間違いなく、ハイネケンの正体は魔王ゴーガだろう。
そうなれば、今ここにいる偽物の地位は危うい…。
オリオンにとっても、鋼華の魔王たる地位だけは守らなければいけなかった。
『助かったぜオリオン。』と鋼華は思った。
「…やはり、そうなんですか。なぜファウストの仲間たちがみんな裏切ったのかと思いましたが、恐ろしいですね勇者ハイネケン…。」
ピアニッシモは、恐怖というよりは少し安堵したかのような表情だった。ファウストの勇者ハイネケンの魔法による仕業だという情報を聞けたからだろう。
自分はただ、目の前の魔王についていけばいいと気持ちを新たにできたのだ。
よしっ、ピアニッシモはこちらの味方だ。
鋼華は一瞬にして気持ちを切り替えた。この辺はもともとの性格でもあるが、魔王生活に慣れたせいでもあるだろう。
「ピアニッシモ、混乱を広げるな。すぐに、コルドのベベルに連絡しろ。ファウストからの連絡はすべて勇者の罠だと伝えるんだ。シャフトや、アサマ連邦にも同様だ。」
すぐさまにピアニッシモに指示を出す。
「は、はい!!」
「頼むぞピアニッシモ、俺はオリオンと相談がある。」
「わ、わかりました。早急に連絡を回します。」
「それから、悪いが、コルドの情報部、シトラスとかの情報は信用するな。すでにハイネケンの罠に落ちてると思え…。」
「…は、はい‥。」
ピアニッシモは不服そうではあるが、うなずいた。
鋼華とオリオンはピアニッシモを部屋から追い出し、二人きりで話し始めた。
「ふふふ、とっさにしちゃ、うまく状況をカバーしたな、田中君。」
「教授がとっさに嘘をついてくれたおかげです。僕一人では信用を得られたかどうか。それと呼び名は一応、魔王とオリオンで行きましょう。万が一も怖いです。」
今この場の声が漏れてるとも限らない。可能な限りひそひそと鋼華は話した。
「そうだな。…ま、話を聞く限り、ハイネケンの身体に魔王が転生したってことだろう、全然あり得る話だ。むしろ今まで考え無かったのか?」
「オリオンはそれを考えましたか?」
「ふふ、もちろんないよ。だから、そうなると本物のオリオンと、ハイネケンもどこかにいるんだろうな。」
「…それにしても、めちゃくちゃに強い。たった一人で70000はくだらないファウストを落とすなんて…。」
そんな奴が、今すぐにでもここを攻めてきたらあっという間にメンフィスは落とされてしまうと鋼華は考えた。
「…そうだなぁ、確かに強い。しかし、過大評価は良くない。俺はね、そこまで魔族のほとんどが恐怖の対象だとは思ってなかったよ。」
「どういうことです。」
「ま、数だけいても仕方ないってことさ。そうだなぁ、例えば竜軍団や巨人軍団がファウストの中心メンバーだったら、そんなに簡単にそのファウストって要塞を簡単におとせたかな?」
「…それはどうでしょうか、やはり戦争は数じゃないかと。」
「俺はね、正直、ザコ相手だったらどんなに数がいても怖くないって思うよ。だってこっちにはもう大量に破壊する攻撃手段があるんだ。だから、ザコが100でも1000でも関係ない。この間だって怖かったのは巨人たちだけだ、そいつらがいなきゃ無策で戦車突っ込ませても勝てたと思ってる。
…魔王だってそうなんじゃないのかな。大量に破棄する力があるなら、ザコがいくらいても関係ないんじゃないのか?」
この間というのは、シンハーとの戦車戦である。
確かに話を聞く限り、巨人以外のメンバーは何の役にも立っていない。
むしろ足手まといといっても過言じゃなかった。
「…た、確かに僕もそう考えて、ドラゴン部隊という少数で、アサマ連邦を攻略しに行きましたが。」
「それに、別に70000も倒す必要もないかなあ。そうだな、2,3000倒せば十分だろう。たった一人が2000とか3000倒したら、みんなびびッてまともになんて戦わないだろう。話を聞く限り、君だってそういうのを戦術に組み入れてただろうに。」
「…そうですね、冷静さを失ってました。本国の兵の数が今40000しかいなくて、ファウストおよびコルドにはなんだかんだ、100,000はいるんで、もう絶望的だと思ってました。」
「そう、単純な数の話はこの際関係ない。一番大切なのは何かな?」
数よりも質だ、大量を御すことができる。圧倒的な力が欲しかった。
「ド、ドラゴン!?…ヴォーグか…。」
「…まぁ、それもそうだが、このオリオンの兵器をいかに利用するかだ。精いっぱい時間稼ぎをしてくれよ。ここからのこっちの勝ち目は、いかに大量に武器を生産できるかにかかってる。」
「ふふふ、日本人タッグで真の魔王を倒すってわけですね。面白くなってきました。」
「よし、魔王よ。新章を始めよう!」
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