第45話「愛憎」

「あいたかったぜ、ルーシア。」


「…だ、誰なの。」


 コルドのリゾートホテルの鋼華との部屋でルーシアが惰眠をむさぼっていると、突然窓から侵入してきたものがあった。

 ルーシアには全く見覚えのないだった。


「おいおい、せっかくこっちは命がけにお前に会いに来たのに。つれないねぇ。」

 勇者ハイネケンは、窓から室内に入り込むとルーシアに近づいていった。


 恐怖を覚えたルーシアは走って、入り口のドアの方に向かおうとする。

「…っ!?」

 身体が動かない。


「悪いが、すこし風で動きを封じさせてもらったよ…。」

 ハイネケンは、実に申し訳なさそうな顔でルーシアにそういった。


「ま、とりあえず、昔のように一発やらせてもらうわ。」


 そうやっていうと、身動きの取れないルーシアの衣服を脱がし始めた。


「やっぱ、いい体してるなルーシアは…。」


 全く身動きの取れないルーシアは屈辱に顔をゆがめるようにした。人間に思うようにされるとは立場がまるっきり逆である。


「おいおい、サキュバスなんだから、何を嫌そうにしてるんだ。もっと嬉しそうにしてくれよ。」


 何をふざけたことを、とルーシアは思った。サキュバスの誇りとは自らの意思で男を食い物にすることであり、逆の行為は魔王に対してしか許していない。


「それとも、サキュバスの誇りも失ったか、ルーシア…いやアティアールよ!」


 勇者ハイネケンは、誰も知るはずのないその名を呼んだ。


「!?な、なんでその名を…まさか!?」


「おっ、気づいたかな…。では確信させてやるよ…。」




 ◇   ◇   ◇


 2人は、そのまま3時間以上をベッドの上で過ごした。


「ほ、本当にゴーガ様なんですね。」

 ルーシアは、すっかり上気した顔で目の前の人間にそう聞いた。


「…いやいや、分かれよ。抱いた感じとか全然違うだろ。むしろなんで今まで偽物の魔王に従ってんだよ。おかしいと思うだろ。」


「…それはその記憶喪失っていうものだから…。」


「悲しいねぇ、ルーシアちゃん。俺はお前のことだけを考えてこの一年以上を過ごしてきたっていうのに、お前は偽物とよろしくやってたんだろ。女の愛なんてのは当てにならねぇなぁ。」


「す、すいません…それは、その…でもまさか、そんな信じられませんよ。ある日突然ゴーガ様の中身が勇者ハイネケンと入れ替わるなんて!」


「まぁ、勇者ハイネケンと入れ替わったのかは分かんねぇけどな。俺だって意味が分かんねぇよ。確か初めてみんなで会議やろうぜぇってときだったよな。気づいたら目の前にいたのは、なんか、よくわからねぇ人間のおっさんだったぜ。」


「…今の魔王も最初は何かパニックって感じでした。そしてすぐにダンヒル達を下がらせたんです。今思えばあの時からおかしかったのに…。」


「…その偽物野郎は冷静だったな。俺は直情型だからよ、おもわず目の前のぶっ殺しちまった。それがよ、シュタントのだったんだよ。すぐさま、勇者が乱心とか言って取り囲まれてよ。で、魔法の力で抑え込まれて、そのまま監禁されちまった。」


「ゴーガ様の力なら何とかなったのでは…。」


「さすがに、体の動かし方が、全然わかんなくてよ。体つきとかもわかんねぇし、どうにもうまく魔法とかでないわけ。体の強度もわからないから、とりあえず、少し暴れてみて、こりゃ無理だと思ったんで一旦おとなしく捕まった。」


「よく、ご無事で…。」


「まぁ監禁が結構緩かったからな、その場で自分の体を研究して、ちょっとずつ、体を鍛えたんだよ。ハードに体をいじめて、促進魔法で回復させてっていうのを繰り返してな。

 まぁそしたら、割とすぐに依然と同じくらいの能力を発揮できるようになった。あれだな魔力っていうのは、身体じゃなくて、心っていうのか、中身についてまわるんだな。魔力に関しては全く変わってなかったぜ。最初は魔力に身体がついていかなかっただけなんだよ。」


「…今の魔王は全く鍛えたりはしてませんでした。なんだか、力が勇者によって封印されたとか言って…。今思えば自ら戦ったことは一度もありませんでした…。」


「ははは、それはそれで大したもんだな。この雑魚っちい軍団を使って、コルド、シャフト、アサマを制したのかよ。話だけは聞いてたけど、どうやったんだろうって思ってた、まったく自らは戦ってねえなんて、俺にはできねぇな。」


「自分の軍団ざこっちいと思ってたんですか。」


「そりゃあな、俺がいなきゃなんもできねぇって思ってたよ。強いのは泣き虫ヴォーグ位だろ。クールはビビりだし、ダンヒルはじじいだし、カメはめんどくせぇし。」


「じゃあなんで魔団長になんか…。」


「いや暇つぶしだよ。とりあえずメンフィスっていう魔族の土地は手に入ったしさ。人口も増えてきたじゃん。でも、まぁさすがに増えてきたら全部を俺が守るなんて無理だから、自分で何とかしろと思って、軍団作ったんだよ。」


「えぇ…、そんな、世界を支配したかったんじゃないんですか。」


「いやいってねぇし、そんなこと。だってもう、俺の周りはいい女で固めたしさ。人間の女興味ないし、世界征服しても強い相手がいるわけでもなさそうだし、めんどくさいだけじゃない?そういや、アイシーンともやりてぇなぁ、ルーシアには悪いけどあいつはマジヤバイからさ。」


「…。」


「あぁっ…怒んなよ。真っ先にお前に会いに来ただろ。」


「力が戻ったなら、すぐに戻ってきてくれればよかったのに。」


「まぁ、そうしたかったけど、まずシュタント制圧に時間がかかったんだよ。とりあえず、無理やり監禁場所ぶっ壊して、逃げ出したのはいいんだけど、シュタント兵はその辺の魔族より強くてさ、かなりぶっ殺してやったけど、俺も結構やられた。なんだっけ、さっき戦った位のハイエルフが結構いるんだよ。」


「ケントって副団長ですよ。」


「知らねぇけど、あいつより強いのもいたしな。で、しばらくシュタントの名も知れない村で村娘に助けてもらいながら、力を回復させて、で、勇者の名前を使って俺もクーデターすることにしたんだよ。結構、国王に不満持ってる奴多いんだよ、とくに地方のエルフたちはムカついてた。」


「…村娘‥。」


「なんだよ知らない間に嫉妬深くなったなぁ。俺はそういうやつだろ、でしばらく勇者ごっこやって、シュタント制圧して、いまは俺がシュタント国王ってわけさ。しばらく様子見てたら、なんだか世界的に戦争始まったから、これはラッキーと思って、コルド攻めたら、ケントちゃんがお前がすぐ近くにいるっていうんだもん。いやぁ、よかったよ。思ったよりすぐ会えた。」


「ゴーガ様…。私もずっと会いたかった。」


「ほんとかよ?信用できねぇぞ…まぁ、またゼロからはじめられると思えばいいか。」


「…これから、どうするんですか。」


 勇者ハイネケン改め、真の魔王ゴーガはにかっと笑いながら言った。


「決まってるだろ?偽物にお仕置きしないとな!。」




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