第48話「魔王の策略(偽)」

「結局生命線はコルドか…?」


「そこが正念場だろうな。」


 オリオンと鋼華は二人でずっと、今後を検討していた。

 周囲の魔族たちからは、まるで二人が旧知の仲だったんじゃないかと思われていたが、気にしている場合ではなかった。


「もしコルドが、真の魔王の手中に渡れば、同時にアサマ連邦の軍事力も向こうにわたることになる。」

 オリオンが不安そうにそういった。


「芋づる式ってやつか…、覚えてるかわかりませんが、ホリエモンがニッポン放送の株を買収しようとしたときみたいですね。」


「…あぁ、あそこを買えば、フジテレビも手に入るとかってやつだな。時価総額が低い方が親会社って、ま、確かにコルドの方が国力は低いのに、アサマの親会社みたいなもんか。よく知ってるな、君大学生だろう、まだ。」


「…好きなんですよホリエモン、合理性しか考えてないっていう割に感情むき出しなところとか。偽悪的なところとか。」


「まぁ、君の魔王としての指針に似てるかもな。」


「さしずめ、今の状況は大塚家具の親子喧嘩ってとこですかね。」


「もっと緊迫してるだろうよ。あの親子も命がけだったのかもしれないが。おれはちなみに親父の方を応援してたな。」


 ははは、とくだらない話に盛り上がった。


「直接メンフィスに来るってことはないでしょうか。」


「ダンヒル団長だっけ、巨人たちの技術が進んだおかげで、わりと対空攻撃はしっかりしてるからな。竜が来ても、そんな簡単には攻め入れないだろう。」


「間に合わなかっただけですが、結果的にはファウストの方に、シャフトの武器を回さなくてよかったです。本国が手薄だったんで優先的にオリオン榴弾とかはそっちに回したんで。」


 もし、真の魔王のもとに近代兵器まで行っていたら、それこそ速攻でつぶされていただろう。こればっかりは、計算でも何でもなく運がよかった。


「シャフトの軍を、ファウストに向けられれば良かったんだが…。」

 とぼそっと、オリオンが言った。

 シャフトは現在もなお、ママオラ海峡にてデザスの軍と交戦中であり、1週間以上膠着が続いている。とてもじゃないが、他に艦艇などを回す余裕がない。


「アサマ軍をとりあえず、ファウストに回して、コルドとの挟撃作戦しかないでしょうね。」


「そうだな‥‥。ただ無理をさせないほうがいい。時間稼ぎでいいからな。」

 年齢のせいもあり、二人で話すとすっかりオリオンが作戦参謀のようになってしまっていた。

「といいますと…。」


「5か月、いや3か月あれば、魔王ゴーガの軍に対抗できる十分な装備を手に入れることができると思う。」

 勇者オリオンの開発力と、巨人軍団による高い生産力があればかなり高速で武装を整えられると勇者オリオンは踏んでいた。


「たしかに、まともに戦っては勝ち目はないですね。時間稼ぎして、武装を整え、満を持して、魔王ゴーガに挑むという感じですか。」


「それで、ドラゴンとかザコたちは何とかできるだろうと思う。問題は、魔王本人だな。どれだけの力を秘めてるかわからん。魔王だけで戦況が変わるかもしれん。もっと言えば、今この場で突然魔王が現れたら、それでもう終わりだ。」


 その話をきいて、鋼華は身が震えた。

 思わず一瞬後ろの扉に振り返ってしまった。


「や、やめてくださいよ。」


「もちろん冗談だが、しかしまるっきりというわけでもない。というわけで君にも宿題がある。ここに、魔法の全系統の使い方と概念を示したマニュアルがある。のでこれを全部読んでほしい。」


 と手渡されたのは、1000P以上あるかという分厚い本だった。


「…何のためですか。」


「当然、魔法を使うためだ。」


「いやいやいや、言ったじゃないですか。僕には魔王としての能力は全然ないって。」


「試したのかい。」


「一応は…。」


「そんな、ファイヤーとか叫んだくらいで魔法が使えるとか思ってるの?」


「…そ、そうですけど。」


 言われてみればなんだかんだで、鋼華はこの世界の魔法についてしっかりと勉強したこととか、鍛錬したりとかしなかった。

 したことの大半はルーシアとのイチャイチャだったのだ。


「俺の考えでは、君は基本的に魔王の身体能力をそのまま使える。そうでなければ、勇者ハイネケンの力以上を引き出してる魔王ゴーガの説明がつかない。」


「でもいちおう、体を試したりはしたんです。」


「きみは、人間の気持ちのまま、その体を操っている。いいか、魔王の身体なんだから、壁とかなら余裕で壊せる。無意識のまま自分の体が痛かったらどうしようとセーブしてるんだよ。」


「そんなこと言っても…。」


「じゃあ、俺が根拠を言ってやるよ。たしか君は、竜の上に乗って目の前で火を吐くのを見たといっていたね。」


「えぇ…。」


「その時少しでも、熱いと感じたか。」


「いえ、まったく。」


「…いくら、直接じゃないにしても、竜の炎の温度は、2000℃を超えるんだよ?鉄さえ溶かす温度だ。だから、俺はそれに耐えうる金属の開発に苦労したんだからな。なぜ君はやけど一つすら負わないんだ…。」


 た、たしかに、全く熱いと感じなかった、あんなすごい炎の真後ろにいたのに…。


 というより、僕はこの体になってからというものの、ケガらしいケガをしていないし、傷一つついたことはない。


 唯一傷がついたのはそれはたしか、自分の爪で自分を刺したときのみ…。


「まさか、僕は、気づいてなかっただけで…。」


「そうだ、十分、力は魔王のはずなんだ…。」


 おもむろに、僕は目の前の部屋の壁を、思い切り殴ってみることにした。


 あのはじめて転生してきたときのようにではなく、今度は壁なんて当然壊せて当たり前、壁ではなくて薄いベニヤ板を破るようなイメージで、躊躇なく思い切り壁に向かって右ストレートを放った。


 ドガシャーーーーーーーン!!


「な、何やってるんですかぁ?ゴーガ様ぁ!!」


 隣の部屋にいたピアニッシモとアイシーンがぽかんとした顔でこちらを見ていた。

 あっさりと壁を壊すことができた。

 それもできた穴は、自分の体ほども大きかった。


「こりゃ、つえぇ…。」


 どうやら魔王鋼華はここにきて覚醒したらしい。





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