第49話「魔王の一手(真)」

「早速、コルド攻めと行きますか!?」

 

 ヴォーグと再会してみんなで軽く晩餐をした翌日、「俺もスキーしてみたい」という理由でゴーガは例のリゾートに向かった。

 なんだかんだで楽しかったので結局三日くらい飲んだり遊んだりしてたが、唐突に上のセリフを言い出した。


「ゴーガ様、その準備というものが…。」

あまりの突然の作戦発案に、おろおろするミネ。


「こんなん、先手必勝よ。待てば待つほど、偽物ちゃんに余裕出てきちゃうでしょうよ。」


「それはそうですが。」


「大丈夫、大丈夫ミネに期待してないから、俺とドラゴンで余裕でコルド軍なんてぶっ潰しちゃうよ。」


「そっだね。空中はドラゴン、陸上はゴーガ様で基本的には全く問題ないんだったよ。なんかここ一年くらい、めんどくさい戦い方ばかりしてた気がするよ。空中から船に石を落とすとかしてたんだよ、バカみたい。」


 ヴォーグはいままでのことは、なかったことにしたいようであった。

 意気揚々と今にも出撃したいようである。


さらっとディスられたミネは、なんとも複雑な表情をしている


そこへ、深刻な表情で情報部隊ダークエルフのシトラスが報告をする。


「ゴーガ様、出撃はお待ちください。アサマ軍の艦艇がコルド帝国の海域に侵入してきました。」


 思わぬ報告に、その場にいた魔族たちは動揺した。

「おぉ、偽物ちゃんの動きは速いねぇ、早速アサマを動かしたか。スキーとか行ってる場合じゃなかったかな。」

 一方で、魔王ゴーガはあまり動じた様子は見られなかった。


「ど、どうします。」

 ミネがうろたえながら聞く。

「あいかわらず発想がザコだなミネは。そんなの関係なしに押せ押せだよ。」


「…押せ押せですか?」


「押せ押せだよ、もしこの要塞を攻めてくるようなら、ミネの部隊で迎撃しろ。まだ空中部隊生きてるんだろ。」


「あっ、はい。大丈夫だと思いますが…。」


 しかし煮え切らないミネだった、というのもここ1年、ミネは人間たちにやられっ放しなのである。


「ミネの部隊だけじゃ心配だから、ドラゴン一人置いてくね。」

 思わず、ヴォーグが助け舟を出した。


 ちなみに、いまヴォーグのドラゴン部隊はヴォーグを含めて6竜である。鋼華のもとには、新入りのガラムを含む3竜がいる。ここ1年のたたかいでかなり数を減らしてしまった、おおむねオリオンの兵器のせいであるが。


「というわけで、俺とドラゴン部隊でちょっくらコルド締めあげてくるわ。ついでだから後方支援でケントも何人かつれて来いや。」


「承知しました!」


 魔導軍団副団長でファウストの司令官だったケントはあの時。ルーシアの居場所を教えた後、服従を真ゴーガに従うことになっていた。もともと、ゴーガと直接面識がなかったので、本物か偽物かは関係なく純粋に力に対して屈服したのだった。


 そのケントと一部の仲間を連れて、ピクニックでも行くようなのりでゴーガ達はコルド制圧に向かったのでだった。



◇   ◇   ◇


「なんじゃ、こりゃ…。」


 ファウスト要塞があるアリベシ地区とコルドの首都の間には、激流でかつ幅が1㎞はあろうかという大きな川がある。空を移動するゴーガ達には関係がないが、かかっているすべての橋は爆破されており、通行できなくなっていた。

 加えて川自体もいろいろな箇所が爆破されていて、周囲に軽く氾濫を起こしていた。


 上空からその様子を見て、ゴーガは驚きを隠せない。


「すごい手を打ってくるな、こりゃ、陸上部隊は進撃できない。」


「下流には、オークたちの村もあるのにねぇ…。」

悲しそうにヴォーグがつぶやく。


「まぁ、どうも偽魔王は戦略を優先する傾向があるな。確かに、俺らが攻めてくるとわかった時点で橋を壊すくらいはするだろうよ。」


「アサマ軍の方は大丈夫ですかね。」

 ゴーガも鋼華と同様に後ろに、情報役としてダークエルフのシトラスを置いていた。昔はそんなことしなかったのだが、偽魔王がそうしてたと聞いて、ゴーガも真似て連絡役を常に置くようになった。


「そりゃあさすがに、ミネをなめすぎだろ。あと、一応シュタントの軍に、コルドに侵攻するように命令しといたしな。アサマ軍とかコルド軍とかがどんな兵器使うか知らないが、シュタントのハイエルフはつええぞ。」


「は、ハイエルフですか‥?」


「…あっ、仲悪いんだっけ?…ところで、シトラスちゃん結構おっぱい大きいねぇ。背中に当たるのがなかなかいい感じだよ。コルド制圧したらどうよ一発?」


「…魔王様…、真面目にコルド制圧してください。」


 そういって、シトラスは魔王から体をすっと放すのだった。もしかするとシトラスはこの物語が始まってから、唯一の普通の感性の女の子かもしれない。


「…あらら、せっかく気持ちよかったのに…。決めた、絶対にシトラスちゃん口説くわ。」

 魔王を前にしても、少しを距離を置く姿勢に逆に盛り上がってしまう魔王ゴーガ、まわりの魔族には乗りの軽い女しかいないので新鮮だった。


「…もう。」

 シトラスは軽くため息を吐きながらも、結局、危ないので魔王に身体を密着させてしまうのだった。


と、そのとき。


「っっつ!!」


と急にヴォーグが動きを鈍くした。何らかの攻撃を受けたようだ。


ヴォーグはすぐさま後方のドラゴン部隊に、反転を指示した。


「魔王様、例のオリオン弾のようです!いったんもどります。」


そういって素早くヴォーグはターンをした。


パーーーッン!


パーーーッン!


すると、そこではじめて何発かのの銃声音が、聞こえた。


「音より先に、弾を食らった?」

 実際ヴォーグは、弾が当たるまで攻撃を認識できなかった。痛みによって昔の攻撃と同じだと悟ったのだ。


「ヴォーグ様が食らってから、銃声まで4秒以上かかってますから、2000以上先からの銃弾だと思います。」

 大体弾丸のスピードが900m/sとして、音のスピードが340m/s であるのでその差は560、4秒間でおよそ2300、誤差があるにせよ、シトラスの計算はおおむね正しい。


「おいおい、こんな上空を飛んでるのを狙える武器持ってるのかよ。半端ねぇな。」


「どうしますか、ゴーガ様一旦引きますか。」


「…思うつぼって気がするな、風の絶対障壁エアーアブソリュートでかわせないか?」


「通常の機関銃ならともかく、ライフル銃の射撃ですと、貫かれてしまうかもしれません。」

 銃の解説はシトラスが担当する、情報班はシャフトの武器情報をおおむね共有していた。


「…ヴォーグ的には何発耐えられそうだ、あの銃弾?」


「当たり所にもよるだろうけど、10発は持つと思うなぁ…。な、なんでそんなこと聞くんですか。」

 いやな予感がして、冷や汗をかきながらヴォーグは聞いた。


「…我慢しようか。」


「やっぱり!?いやだよぉ、僕痛いの嫌いだよぉ。」


「うるせぇ!竜族はおれに一生感謝すんだろ?

 回復させながら、とべば大丈夫だろうよ。」


「うえぇ、痛いのは変わんないじゃーん。」


「シトラスは、音をよく聞いて飛んでくる方を教えろ。」


「それなら、さっきので大体わかります。」


「おっしゃぁ、突っ込むぞ!後ろの竜たちには待つように言っておけ。」


「ひぃぃ…!」


「とっつげきーーーーーーーーーーーー!」


 なんだか知らないけど、ゴーガは楽しそうであった。

 一方のヴォーグは覚悟を決めてというか、あきらめて、最大全速で銃声のもとの方に飛び出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る