第51話「魔王の判断(真)」
魔王ゴーガは爆発の影響で、川に流され、海まで出てしまっていた。
「うわぁ、だせぇ!気を失ってたぜ。」
冷たい水と、流れの勢いのせいで体力が奪われ、
気が付けば、見知らぬ海に浮かんでいた。
本来の体であれば、こんなことにはならないのだが、魔王ゴーガの体は人間そのものである。よって低水温の水中下における体力の減少は防げなかった。それでも、生きてること自体さすが勇者の体といわざるを得ない。
そうして、気が付いてからは泳いで、なんとか着岸できそうな場所を見つけて、そこにたどり着いた。
「どうすっかなぁ、何とか、早くコルドまで戻りたいが…。」
ゴーガには飛ぶ手段がない、また連絡手段もない。ここがどこかもわからない。
流された方向から行くと、デザス王国の西岸の方ではあるが、いくら何でもそこまでは1000㎞以上ある。
「コルド帝国の植民地の、どっかの島ってとこかな…。」
そこへ、こっちに向かってくる人影を見つけた。
とっさに、ゴーガは倒れて、満身創痍のふりをした。
(しめた、女の子だ…。)
とゴーガは瞬間的に思った。
こちらに気づいた女の子が、小走りでこっちへやってくる。
「だ、大丈夫ですか…。」
女の子は、砂浜ににひざをつけて、こちらを覗き込むようにして言った。
「…あ、嵐で遭難してしまって…、す、すいませんが、み、水を…ぐ、ぐっ…」
ゴーガは渾身の演技をして、女の子に助けを求めた。
(や、やだ、超イケメン!)
そう、勇者ハイネケンの顔は、勇者シリーズの中でも屈指のイケメンなのである。年齢的には決して若くないのだが、シュタントの魔法の力なのか。若さと美を保ち続けていた。
女の子は迷わず、助けることを判断し、肩を貸し自分の家に連れていくことにした。
(ふふ、勇者ハイネケンよ。お前の顔にはずいぶん助けられてきたぜ。)
とゴーガは心の中でそう思っていた。
◇ ◇ ◇
「あっ、ゆ、勇者様…もう…。」
「あぁ、いくぜ、ピース!」
助けられて1週間…、二人はすっかりそういう仲になっていた。
助けた女の子の名前はピース、、コルド帝国に支配されてる、アイスアイランド諸島の一つの島に住んでいるのだという。
二人は事後のコーヒーを共にのみながら、今後を話していた。
「いいんですか、ハイネケン様、本当にコルド兵に引き渡して…。」
「あぁ、その方がいいんだ。逆に助かる。」
ハイネケンは、コルド帝国によって、常に標的にされてる人間だった。何年も前からコルドとシュタントは敵対関係にあるので、まさに宿敵なのである。
ピースという女も、その名を聞いたとき、とんでもない相手を助けてしまったと思ったのだが、その不安な表情を見たハイネケンもといゴーガは、言葉たくみに半ば強引に口説き落として、ベッドにもっていってしまったのだった。
「そんな、私はもうハイネケン様を敵だとは思えません。」
「俺が、コルドに引き渡せば君はもっといい生活ができる。それが俺からできる数少ない今回のお礼だよ。」
「…そんなことより、ピースはもっとハイネケン様のそばにいたいです。ここにいてください。」
「だめだ…。俺は勇者なんだ、魔王を、そしてそれに操られているコルド皇帝を倒さねばならぬ!」
「…勇者様…そうですね、あなたには使命があるのですね。…だからせめて、あと一日、あと一日ここにいてくださいませ。」
「…ピース。」
魔王ゴーガは、この茶番を思い切り楽しんでた。同じようなやり取りを、シュタントとの村娘ともやったなぁ、と思い出しながら、勇者ごっこも悪くないとほくそ笑むのであった。
翌日も、濃厚な一日を二人で過ごし、その翌日に、ピースの家にコルド兵たちがやってきてハイネケンを連行していった。
ピースは「ハイネケンを自分の色香に惑わせて、部屋においているので、連行していってほしい」と通報したのである。ピースはかなりの報奨金をもらうことができた。
(さよなら、勇者様…。)
そして、勇者はアイスアイランド領コルド砦についた。もちろん、両手両足を拘束されて、顔にも袋状のものをかぶされていて、身動きはとれない。
(お前らの宿敵たる勇者の評価はこんなものかい…。)
まず、顔にかぶさってる、袋を口から風魔法を出すことではぎ取ると、さらに口から、ハイドロビームを出して、まず両手の拘束具を切断した。かなり分厚い拘束具であったが、あっさりとぶった切ってしまった。
「おい、ハイネケン、何を…!」
両脇にいる兵士たちを、軽く振り払った。
「さぁて派手に行くぜ!」
「
ファウスト要塞の前で使った名前のない技に名前を付けて、指先すべてから炎竜をだして、近くにいたすべての兵士たちを襲った。
さらに、片手からは5mの炎の剣を出して、砦の壁ごと、すべてを薙ぎ払っていく。
「うわぁっ…!!」
あわてて、兵士たちは逃げまどい始めた。
魔王ゴーガは手を休めることなく全力で、炎の竜と、炎の剣を繰り出して、砦を攻撃していく。一時間もしない間に、砦は全体が火の海になった。
「こんだけ暴れれば十分だろう。」
魔王ゴーガの狙いは派手に暴れて砦をぶっ壊すことであった。こうすれば、その情報を魔族がキャッチしてくれて、迎えに来てくれる。
自力で、ファウストに戻るよりよほど早い方法だった。
「さて、あとは気長に待つとするか…。」
燃え盛る砦のそばで、昼寝でもして待ってようかなぁと思った時…。
「勇者様、なんてことを…。」
目の前にはピースが、茫然とした顔で立っていた…。
「ピース、なんで…。」
「その、勇者様が心配で…、でもこんな…。」
ピースは、後ろを振り返って走って逃げようとする。
おもわず、勇者ハイネケンはその手を握り、引き留めた。
「…君と、また会いたくてね、逃げ出そうとしたらこんなことに…。」
「…勇者様!?」
そういって、勇者はピースを自分の体へと引き寄せる。
「一緒に来ないか…。」
ピースはこくりとうなずいた。
正直なところ、魔王ゴーガは人間の女ってなんやねんと思っていた。いやいや、目の前で砦燃えてんだけど、恋愛ごっこしてる場合ちゃうやろと思ったけど、まぁ、それはそれでそういうのもありかと思った。
そうして、四日後に、多少傷を負っていたヴォーグともう一匹の竜が迎えに来たのだった。
「やっぱ、ゴーガ様だったんですね。たった一人の人間によって砦が全焼させられたって情報が入ったんで、こんなことするのはって思ったんです。」
「…おまえも、無事だったか。シトラスは?」
「ちょうど、僕の近くにいたんで、かばえたから無傷ですよ。」
「そうか、それだけが心配だったよ。」
「ぼ、僕のことは心配じゃないんですか?」
「俺は女の心配しかしないたちなんだよ。」
「じゃあ、行こうか。」
「…あの、その女の子は?」
「ピースちゃんだ。俺を助けてくれた。」
「ピースです。」
ピースは、ぺこりとあいさつした。
「ゴーガ様…、女好きが過ぎます…。」
ヴォーグは、ただただあきれるのであった。
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