第53話「魔王の策略(真)」

「勇者ハイネケンとして魔王を倒すとはいったいどういうことなのですか。」

 ルーシアは心配そうに尋ねた。


「そのまんまだよ、勇者らしく魔王城に単身で乗り込んで、サクッと偽物ちゃんをぶっ倒してくるわ。」


「それが、できないから苦労してるんじゃないですか。」

 まだ、怒り気味のシトラスも突っ込みを入れた。


「だから、膠着がいいってさっきピースが言ってた通りだって。」


「えっ、えっ、私はなんもいってないですよ。」


「まぁ、だからな。これは俺らしくもなく陽動を使うってことなんだが、まず全力でミネのザコ軍団でコルドを攻めるんだ。これはでも、本当に攻めなくていい、数だけ用意して、遠くからポーズを見せるだけにしてくれ。狙いは巨人たちをコルドに引っ張り出すことだ。」

 俺は説明とか嫌いなんだよとぼやきながら、ゴーガは説明を始めた。


「ザコはひどいですよ、ゴーガ様」

 ルーシアが、「もう」といってゴーガの腕を引っ張る。


「そこにヴォーグたちも向こうのドラゴンをけん制しに行ってくれ、これも戦わなくていい。数の上ではこちらが勝ってるからな。まぁ、こちらから仕掛けなければ、向こうも手を出してこないだろう。」


「出来ればぼくも、仲間とはたたかいたくないよ。」

 しょんぼりした顔でヴォーグはそういった。この一年で死んでいった仲間たちを思うとやりきれなかった。彼らを全部食す風習のある彼らには、仲間の思い出が深く刻み込まれている。


「だから、まぁこれも牽制だ。次に、デザス公国にあるバルサバル要塞だが、これはある程度本気で落とそう。というか落とすしかない。」


「なるほど、コルドで戦うふりをして、バルサバルから上陸するってことですね。」

 シトラスがうなずきながらそう言った。


「いや少し違う、これにはデザスにも協力してもらい、シュタント軍と合同でバルサバルを攻略する。これを指揮するのは、俺ではなく、シュタント軍から用意する俺の偽物でいい。」

 そして、魔王は勇者兼シュタント王としてデザスに入国して、共同でバルサバル要塞を攻略する提案をすると付け加えた。


「偽物ですか?」

 ケントが不思議そうにこちらを見てる。


「あぁそして、バルサバルでドンパチやってる間に俺はこっそり、メンフィスに上陸してそのまま魔王城おれのいえに乗り込む。巨人も魔導士も強いやつはほとんどコルドかバルサバルにいるだろう。だから、竜を使えるのは、バルサバルまでだ、そこからはこっそり船でメンフィスに上陸するしかないな。」

 

 デザスの北東端バルサバルと魔族の本国メンフィスは100㎞ほどしか離れていない。なので、バルサバルまでは竜で移動し、そこからは船で移動するのが最も早い。


「竜でそのままメンフィスに行けば?」

 ヴォーグがそういった。


「台無しだろうが、馬鹿だな。俺がメンフィスに入ることを悟られたくないんだ。ドラゴン近づいてきたら、もろ俺が乗り込むって言ってるようなもんだろ。空中なんか一番警戒されてるだろうからな。」


「魔王様、めっちゃ頭使ってますね。偽物の魔王見たいです!」

 そうやって、シトラスがうれしそうに言うのだった。


「バカにしてんのかシトラス。とにかくそうやって、最も本国が手薄になった時に俺は乗り込む。そして一気に魔王城を奪還するこれが俺の策略だ。」


「おぉ!!」

 一同から歓声が起こった。


「名づけて『勇者らしく単身で魔王城に乗りこむ作戦』だ!」


「でもさすがに一人というのは…。ゴーガ様が強いのはわかりますが…。」

 ケントが心配そうにそういった。


「だって、誰連れてっても足手まといになりそうなんだよな。ヴォーグ連れてくわけにもいかないし…、まぁ連絡役でシトラスは必要か。それとシュタントにつええ美人エルフいたからそれを連れてくか。あとケントもじゃあ連れてくわ。」


「私を連れてってくださるのですか。」

 ケントは歓喜の表情を浮かべた。


「いやだって、俺、お前に興味ないから死んでもあんま気にならねぇからさ。いざってとき助けなくていいだろ。まぁ。シトラスを守る役目だと思ってくれ。」


「そ、そんな理由…。」

 ケントはがくっとうなだれた。


「ということで、シトラスには一緒に来てもらう。むろん命の保証はできない。」


「それはもちろんです、それに私は結構武闘派ですし、…ですが、あの美人エルフっていうのは?」


「シュタント独立戦の時に一緒に戦ったやつで、ケントの3倍くらい強いと思っていいぞ。あいつがもし魔族なら間違いなく魔団長だと思うぜ。」


「そうじゃなくて、その…ハイエルフと一緒っていうのは…。」


「そうか、そうかそういう心配ね?その辺は心配ないさ、まぁ会えばわかる。」


「は、はい…。」

 シトラスは、非常に不満そうであったが、しぶしぶ承諾した。


「奇しくも勇者らしい4人パーティだな。よし、では早速動こうじゃないか、ミネはさっさと橋を直して、コルドを攻める準備だ。」


「承知しました。」


「ヴォーグはまぁ特にすることないから、作戦まで待機。」


「…えっ、はぁい。」


「ケントはおまえ、シュタント行って事情説明して、美人エルフ連れてこい。あとついでにバルサバル要塞攻める話もな。」


「そ、そんな、魔族が行っても話聞いてもらえませんよ。」


「大丈夫、このシュタント王の指輪もっていけば信用してもらえるから。そっかそれでも、殺して奪ったって思われちゃうか?

 …そうだ、わりいけどピースも一緒についてって!」


「わ、私ですか‥。」

 思わぬ自分の出番にピースは驚いた。


「人間と魔族が一緒に行けば信用してもらえるだろ。

 そしたら俺は、デザスに行って話付けてくるから、そうだなひまだし、ヴォーグ一緒に行こうぜ。」


「わ、やった。」


「よしということで、それぞれよろしく頼むぜ。」


 そうして、魔王ゴーガ改め勇者ハイネケンが勇者らしく4人パーティで、魔王城に乗りこむ作戦がスタートした。

 





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