第2話「スキャンダル」

 勇者オリオンは恋をしていた。人生二度目の恋を。


 勇者オリオンはすでに55歳である。先代の勇者つまり父は自分が15歳の時に魔王を倒し、そして姿を消した。一、二度父に会ったこともある。ただし、勇者の息子にしては貧弱なわが子オリオンを、勇者ラガーはあまり好きではなかったようだ。

 

 父にあこがれはなく、まったく違う生き方を志したオリオンは、学問にはげみ研究者として生きる決意をした。その結果多くの研究結果と発明を残して、シャフト始まって以来の天才として、国民の間に名高い。特にここ3年の研究開発の業績はすさまじかった。


 オリオンは大学の時、出会った女子と最初の恋をして、そのままを結婚をし、ともに研究者として過ごしてきた。その相手こそ先日艦艇に一緒にいたエール女史である。2人に子はできなかったが、この年まで幸せに生きてきた。


 ところが先日オリオリウムに関する学会に出席した際、パーティで一人の女性に出会った。肌の色が透き通るように白く、さらさらの黄金の髪をたなびかせる彼女は、ドレスからはみ出さんばかりの豊満なバストの谷間をアピールしていた、名前をタチアナといった。

 コルド出身といっており、その日はコルドを代表する科学者として、オリオニウムの学会に出席したのだという。


 思わずオリオンから彼女に声をかけた。

「こんなにきれいな研究者がおられるんですな。」


「あら、教授はお上手ですね。…いくつか伺いたいことがあるのですがよろしいですか。」


 オリオンは答えられることならと、いつも通りの対応をした。

 彼女は機密にかかわることもあるので静かなところがいいというので、彼女のホテルの部屋に行った。

 それが大失敗だった。


 予想通り、2人は男女の関係になってしまった。

 しばらくは、タチアナはシャフトにいるというので、何度も何度も逢瀬を重ねた。

 オリオンにとって初めての妻以外の相手だったので、まるで二度目の青春がきたかのようだった。


 しかし、タチアナは関係筋では有名なコルドのスパイだった。タチアナは氷海の女豹と呼ばれ、いくつもの国から機密情報をもたらしたコルド一の女スパイである。年齢はすでに40近いのだったがそれを感じさせなかった。


ある日、新聞の一面で勇者オリオンの不倫が大きく報道された。


 『勇者オリオン、不倫疑惑!相手はコルドのスパイか!?』

 『大統領選直前の大失態!』


 紙面に上のような文字が踊り、ホテルを出る二人の写真もばっちり掲載された。



「エブリデイ新聞に圧力をかけなかったのか。」と党の幹部は激高していた。

「いえ、何の通達もなくいきなり紙面にズドンです。」

「何考えてるのだ、エブリは!?記者クラブから外れてもいいのか。」

 自由責任党内部はハチの巣をついたような大騒ぎだった。


 もちろん、エブリデイ新聞の社長をはじめ幹部はみなサキュバスにすでにからめとられており。本来、責任党に確認を取るべきところそのまま記事を掲載した。


 またご察しの通りタチアナも、鋼華の指示で、コルド皇帝の命令を受けてオリオンにハニートラップを仕掛けたものであり、まんまとオリオンはそれにかかった。

 オリオンは腐っても勇者なので、魔族のテンプテーションは効かないだろうが、人間のテンプテーションには勝てなかった。


 その後も、各新聞はこの報道を連日連夜しつこくつづけた。


 サンライズ新聞

『疑惑のオリオン教授の記者会見。』

「研究の話を気が合ってしてただけ、男女の関係はない。」


 バイアンドバイ新聞

『勇者オリオンは真夜中の勇者を否定。』

「一緒に酒は飲んだが、一戦はこえていない。」


 アウトインタイムス

『勇者オリオンは、政治も女もオリオリオリオリオ!』

「明日のシャフトダービーの本命は、これだ!!」

 

 とかもう訳の分からない文面まで踊る始末だった。

 

 浮気くらいで騒ぐなと冷静な目で見てる国民も多かったが、しつこい報道を続けた結果、特に奥様方の支持率はどんどん下がっていった。


 さらに新たなるスクープがサンライズ新聞に掲載された。


「アドプラス学園に、不可解な規制緩和!勇者オリオンが友人を優遇か!?」


 シャフトにおいて国民の教育は大学まで全部無料である。よって、大学の設置の認可は非常に厳しくなかなか通らない。

 ところがアドプラス学園は申請してわずか1年で他のあらゆる大学の候補を差し置いて認可された。

 このアドプラス学園の理事は、オリオンと旧知の中であり、これを役人が忖度そんたくした結果、あっさり大学の認可が下りたのではないかという記事だ。


 現時点で政治家ではないオリオンが批判を言われる筋は全くないうえに、子供が聞いてもオリオンに責任がないのは明白であったが、これまた連日連夜新聞各紙は報道を続けた。


 新聞は、スキャンダル合戦とばかりにオリオンの記事や自由責任党の議員のあらを探しまくった。もはや真実かどうかは関係なくなっていった。この国のマスコミは完全にゆがめられたのである。


 一方でマスコミは平和民主党の話をかなり好意的に書き続けた。


「平和民主党、政権公約として消費税の0%を約束。」

「高齢者に定額給付金を支給。」

「平和民主党になればコルド皇帝が、シャフトによるコルド国土の資源開発を認め優先的な採掘を約束する。」

「イケメン党首の女性人気がうなぎのぼり、ギアのブロマイドバカ売れ。」

「抱かれたい有名人の一位がストームズのリーダーをおさえてギア候補が一位に!」

「平和民主党の支持率が初めて、自由責任党を上回る。」


 などなどマスコミはもちろん全面的平和民主党推しだった。

 そして、来週日曜にいよいよ候補者同士による公開討論会スーパーサンデーが始まろうとしていた





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