第58話「決戦!魔王城」

 魔王の間に慌ててピアニッシモが入ってきて矢継ぎ早に伝える。

「ゴーガ様、勇者たちが魔王城領内に乗り込んできました。」


「なに!」


 鋼華は、ピアニッシモから信じられないことをいわれて、思わず椅子から立ち上がった。

「勇者はバルサバルにいるという話じゃなかったのか。」

すっかり、側近の位置にいるオリオンがピアニッシモを問い詰める。


「そうなのですが、門の部隊の情報ですと、間違いなく勇者、それに裏切ったケントとシトラスがいるという情報です。さらになんだかとんでもない強さのエルフがいるとか、なんとか…。」


「くっそ、陽動だったってことか。あっさりコルドでは停戦に応じて、バルサバルも魔族の動きはなく、違和感はあったが。」

鋼華はまさか、魔王が陽動作戦を敷いてくるとは思いもしなかった。


「直接魔王城を攻めるような大群の動きもなかったからな。コルドに戦力を割いたのが仇か…。まさか単身で乗り込んでくるとは。」

オリオンもやられたという表情で戦略のミスに気付いた。ほとんどの巨人や力の部隊は、コルドやバルサバルに回り、魔導部隊は海上部隊に回していた。


「す、すぐに海上警備をしているクールを戻せ。」

 今からなら、大した時間もかからずに魔王城まで戻ってくることができるはず。うまくいけば挟撃できる。


 魔王城は高度1500mほどの高さの山のいわゆるカルデラの中心にある。

 周りを天然の崖に囲まれており、空でも飛ばない限り、そこに上るのは困難である。

 実質、もう城への侵入経路は一つであり、そこに魔王城の大きな門が構えられている。ゆえに兵士もそこに集中しているが、今回は2000人ほどしか配置されてなかった。それでも本来十分なほどに十分なのだが、勇者たちは今そこを暴れまわり、すでにほとんどの戦力が失われるか、戦意を喪失していた。


 しかし仮に魔王城の敷地に入ってからも、魔王城までの経路は一本道であり、そこまでには3つほどの兵士たちの詰め所がある。

 そこで足止めできれば、後方をクールの部隊が突くことで挟撃できると考えた。


 ちなみに、魔王城自体には魔王城らしく、様々な仕掛けや隠し扉などがあるのだが、何せ侵入してくるのが、魔王本人であるので魔王の間までのショートカットルートはバレバレ、10分もあれば、たどり着くだろう。

 すでにその通路をふさぐ指示はしているが、他の通路があったとしてもおかしくないと鋼華は考えている。


「オリオン大丈夫なのか。」


「あぁ、一応完成している。魔王様こそ、例の技は?」


「実験段階では何とかなってるが、ハイネケンに通用するか?」


「ゴーガ様、力戻ったんですか?」

ピアニッシモが驚いて、目を見開いている。


「い、いや、完全ではないが、少しな。ハイネケンがシュタントを出たことで少し封じる力が弱くなったのかもしれないな。」


 確認をしておくが、鋼華演じる魔王ゴーガは、シュタントにある遺跡の力で、魔力を封じられている設定である。そもそも、元々は、それを何とかするために始まった戦いなのだ。


「そうですか、完全のゴーガ様なら、ハイネケンなんて敵じゃないのに…。」


「ま、そうだが、今は勝てんだろう。情けないがやはり最悪の場合は逃げたほうがいいだろうな。」


(脱出通路の先に、戦闘機が用意してある。運転は俺がしよう。相手にドラゴンがいた場合は役立たずだったが、どうやらドラゴンは来なかったらしいからな。)

 小声でオリオンがそう鋼華に耳打ちした。

 オリオンは戦闘機の試作機を1機完成させていた。以前、ママオラ海を飛んだものよりスピードは向上していたが、それでもまだまだドラゴンのスピードに及ばない。

 

 もし、ドラゴンで進撃された場合、無用の長物だったが、幸いドラゴンの姿はなくこれでオリオンと鋼華だけでも逃げることができる。

 

 いっそもう今逃げてもいいのだが、その場合はみすみす真の魔王ゴーガが魔王全軍を支配してしまうのを許すだけだ。できるだけ魔王ゴーガを倒す必要がある。


「まずは、オリオンの用意した秘密兵器に頼るとしよう。」


魔王城までの道のりには、とっておきの秘策がハイネケン達をまっていた。



◇   ◇   ◇




 真魔王ゴーガ改め、勇者ハイネケン一行は、すでに入り口の門を突破して、第一の詰め所も楽々と制し、第2の兵士詰め所まで来た。もう魔王城は目の前である。


「予想以上の楽勝ですね。」

 ケントが走りながら、ゴーガに話しかける。

「やはり、キャビンが偉大だ。俺が、強いやつを倒してる間にザコを全部一掃してくれるからな…。一人ではここまで順調に進まなかった。」


 魔王城に残る魔族たちは、ほとんどがいわゆるザコである。とはいえ、それでもオークやゴブリンの中でも優秀な奴が集められているし、力の強いモンスターたちも配置されてはいるのだが、ゴーガの炎の剣や、キャビンの風の刃の前にはほとんど、その辺のゴブリンと変わらなかった。


 時折、魔法巨人や、ダークエルフの手練れがいたりもしたが、それはゴーガが各個撃破した。その間、キャビンがザコを担当したので、戦力を落とさずに済んだ。理想的なパーティであるといえる。(ほとんどケントは何もしていなかったが。)


「こりゃあ、シュタントの攻略よりもちょろいかもな。なぁ、キャビン?」


「ふふ、そうだな。あっちはマジで死にかけたよ。」


走りながら、会話をする面々だったが、ふとある地点で足を止めた。


が目の前に立ちはだかったのである。



「こ、これは巨人の中でも、でかいんじゃないか。」

キャビンは、見たことのない大きさの敵に震えながら言う。


「7mいやそれ以上の大きさだな、遠くからは木かなんかだと思ってたぜ。」


「えっと、忘れてましたが、いましたね彼が…。巨人の中でも最大の大きさを誇る魔法巨人マジカルジャイアントで、イブサンの弟のローランです。」

シトラスが、こんな時でも情報部の役割とばかりに丁寧な解説を行った。


「で、あの体に巻き付いてる黒い板は何でしょうか。まるで鎧のような」

 ケントは、巨人族が鎧を身につけてるのを見たことがなかった。そもそも巨人サイズの鎧を作る技術がない上に、できたところで重すぎて使えなかった。


 しかし、ここにいる目の前の巨人は、明らかに黒い装甲を身につけていた。


「勇者ハイネケン、お前にはここで死んでもらうぞ。」

 これこそが魔王城の、鉄壁の鎧、オリオン鋼を身につけた魔法巨人フルアーマーマジカルジャイアントローランは不敵に笑うとそう宣言するのだった。


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