第57話「ノーネーム、ノータイム」

<10月12日 メンフィス大陸 魔王城>


「予定通りだ。久しぶりに帰ってきたぜ魔王城わがや!」


「ゴ、ハイネケン様…騒ぐとばれます。」


 魔族対魔族の対決が行われてる間、闇夜に紛れてこっそりとメンフィス大陸にたどり着いた魔王ゴーガ改め、勇者ハイネケン一行はほとんど魔族に遭遇することなく、魔王城へたどり着いた。


「ここまで来ちまえば。もうばれても関係ないさ!なぁ、キャビン?」


「そうだな、もう関係ない。それにしても魔王退治することになるとは思わなかったぞハイネケン。」

 

 キャビンは、以前ゴーガが語っていたシュタントの最強のエルフである。振動魔法と風魔法、水魔法、促進魔法を使いこなし、防御、回復、攻撃、補助とありとあらゆることをこなす。

 思慮深くもあり、無鉄砲な魔王ゴーガ改め勇者ハイネケンのサポートを、シュタント独立戦の際には完ぺきにこなしたのだ。

 確かに、絶世の美女でもあるのだが、男らしいしゃべり方をする彼女は、であり、女でも男でもなかった。そしてさらに、


「キャビンさんは本当に美形ですね、もう私惚れちゃいそうです。」

 そう、本来ダークエルフであるシトラスが、逆にキャビンには心酔していた。


それはなぜか。


「まさか、本当にダークエルフとハイエルフを両親に持つ真のハーフエルフがいるなんて思いもしませんでした。」

 キャビンは、ダークエルフとハイエルフのハーフであり、異端中の異端であったのだ。

 なので、どちらの陣営でもないので、特にシトラスには拒絶する理由が見当たらなかった、ダークエルフでもあるので自分の仲間ともいえた。


「ま、そのせいでキャビンは、シュタントでも居場所がなくて、名前もない村のさらに奥そこでひっそり暮らしてたからな。しかも男でも女でもねぇし、いわゆるダブルハーフってやつだもんな。こんな奴いじめられるに決まってるよな。」


悪気のない感じで、ゴーガはそれをさらっと言いのけた。


「そういうことを言うなといってるだろう。」

キャビンは、迷惑そうにそうやっていうが、まんざらでもなさそうだった。


「いやあ、ほんとこいつ引きこもりでさ、つええ奴がいるって聞いたから俺が興味本位で人里離れたところに、毎日遊びに行ってたら、いつの間にか俺は惚れられてたんだよ。まさか両性具有とは思わんかったが、美人だしな。」

 何があったかはよくわからないが、二人は恋仲にあるらしかった。


「あの、ゴ、ハイネケン様は男でもいいんですね…。」

 ついついゴーガ様といってしまいそうになるが、一応キャビンの前ではハイネケンにしておかなければならない。そして、シトラスはあきれていた。


「失礼だな、キャビンはどっちでもないんだぞ。つーか便利でうらやましいぜ、どっちも楽しめるとか最高じゃないか。」

かかか、と笑いながらゴーガはそういった。


「バカを言うな楽しむつもりなんかない、俺が許した相手はお前だけだといってるだろうハイネケン。」

 照れくさそうに、しれっと人前でのろけるキャビンであった。どうやら、初めての恋の相手がハイネケンらしく、全く厄介な人を好きになったものだなと、シトラスは思ったが、まぁキャビン自体が厄介そうだから仕方ないかとも思った。


それにしてもこの勇者パーティほどひどい構成が今までの、物語史上あっただろうか。


 勇者ハイネケン(中身魔王)

 ハーフエルフ キャビン(性別と種族のダブルハーフ)

 ダークエルフと人間のハーフ ケント(魔王軍副団長)

 ダークエルフ シトラス

 誰一人として、本来魔族と戦うべき人間がいないのである。

 もっとも立ち向かう相手こそが人間そのものなのだが…。



「まぁまぁ、さすがに敵に気づかれます。静かに行きましょう…。」

そういってケントは、談笑する3人に対して、そういって場をおさめようとした。


「ケント君、その意見はもう遅いな、すでにこちらをかぎつけたようだ。」

 ケントの言葉に対し、キャビンはそう答え、すぐさま魔力をためて、指を広げて片手を空に掲げた。


5本の指から放たれる水の流星ファイヴスターフロッグスプラッシュ


そういうと、キャビンの5本の指先から、5本の水流が飛び出して、周囲を走りまわった。

 そして、ケントが気づいてもいなかった、4匹のダークベアーたちの額をその鋭い水流で貫いた。


「つ、強い…そして、この魔法は、魔王様がかつて使った炎の魔法と同じ…。」


「そうだ、俺のやつの水龍バージョンってとこだな。まぁ、もちろん俺がパクったんだよ。かっこいいだろ、ホーミングしてくれるしな。」

 

 ケントはたしかに思った、この人は間違いなく自分より強いと、3倍どころじゃない10倍以上強いんじゃないか。すくなくとも自分は、今まわりにいたダークベアーの気配に、まったく気づけてなかった。

 ひそんでいたといっても、この森の中を30m近く先にいたのだ、気づく方が難しい。むしろダークベアーの方も気づいてなかったに違いない。


「さぁ、じゃあ派手に行くぜー、道中は大体、キャビンちゃんがやってくれっから、ケントはとにかくシトラス守ってね。突撃だ――!」


そういって、楽しそうに駆け出した魔王は魔王城の正面に向かって走り出した。


「なんで、正面突破なんですかぁー!。」


慌てて勇者御一行たちは走り、ついていった。


そして案の定、入り口の周りには多数のモンスターたちが集結していた。


『侵入者だ―!!』

『敵がやってきたぞー』

『ひょっとしてあれは勇者じゃないか?』

『それより、隣のダークエルフはケント様じゃないか、なぜ?』


一行の姿を確認すると、モンスターたちは騒ぎ出した。


「OK、予想通りザコばっかりじゃん。巨人とか魔導部隊の強そうなやつは、バルサバルに行ったって感じね。一気にやっちゃおうキャビン!」


 目の前には、確かに2000以上の、モンスターが散在しながら待機していたが、パッと見るところ巨人族のような大型モンスターは50に満たないようであった。

 勇者たちに気づいた魔導系モンスターが先手必勝とばかりに、こちらに魔法を撃ってきていたが、こちらにたどり着くことなく、それらはすべてキャビンの水龍によって相殺された。


わが最強の剣に名はなくノーネーム

ゴーガは、片手に5m、いや今回はそれ以上に長い炎の剣を取り出した。


敵は慈悲を乞う時間もないノータイム

そして、キャビンは、両手に目には見ることのできない空気の刃を取り出した。


「じゃ、ケントは防御の方よろしく!」


そういって、二人は、2000以上の敵に向かって剣を振るいだした。




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