第56話「ヴォーグVSガラム」
<10月11日、コルド帝都にほど近い上空にて>
「やぁ、ガラム、久しぶり。やっぱり君が僕の担当かい。」
ヴォーグとダークドラゴンのガラムは、久々に再会した。
残念ながら敵として、これから命を奪い合う相手として邂逅したことになる。
互いに旋回しながら、1000mほどの距離を置いて言葉を交わす。
「まさか、団長と戦うことになるとは思いませんでした。なぜ裏切ったんですか。」
「ガラムこそ騙されてるよ、あれはゴーガ様じゃない…。」
とはいってもガラムは新人過ぎて、今の偽ゴーガの存在しか知らないということは、ヴォーグにも分かっていた…。
「ヴォーグ様、目を覚ましてください。ハイネケンの魔法にかかってるんです!」
「話しても無駄かい、ガラム。」
「えぇ、倒して来いと、ゴーガ様に言われました。」
「面白いなぁ、君に、僕が倒せると思うの??」
「…全力でいかさせていただきます。」
「ふふふっ…。
この真紅にして最強のドラゴンをなめるなよぉー!!」
その言葉をきっかけに、ヴォーグは全速力で、ガラムに向かっていった!
誇り高きドラゴンは、後輩に倒すといわれてついかっと来てしまったのだ。
目的は牽制だったはずなのだが。
しかし、一方でガラムは突っ込んだりせず、後ずさりながら、後方へ加速していった。
「ビビったのか!?」
しかし、その瞬間、激しい痛みが、ヴォーグの体を貫いた。
「…痛っ、こ、これは、あの時と同じ!!」
ライフル射撃によるオリオン弾か!
食らったと同時にヴォーグは思いおこした。よく見れば、ガラムの上には何かが乗っている。ヴォーグはガラムにのみ目が行きすぎて見落とした。
ドラゴンに乗ったまま、そいつはこちらに向かって射撃を行ったのだった。
「汚いぞ、ガラム!ドラゴンの誇りはどうした?銃に頼るなんて!」
「武器も力のうちだと教わりました。」
そうなると、他の二匹のドラゴンも同じ戦略か。この分だと、自分の2人の仲間も苦戦を強いられてしまう。本来戦う予定ではないのに、向こうはこちらを倒す気満々だ。
(せめて6竜全員で、この空域にくるべきだった。一竜はゴーガ様に貸し出し中で、2竜は地上部隊の援護に向かっている。)
ヴォーグは全速力で距離を詰めるものの、その間にライフル銃の射撃をもろに受ける。
1発!
2発!
3発!
確実に、羽や体に銃弾を受けていく。
ひどい痛みだが、耐えきれないわけではない。
自分の射程は最大で200m、そこまでに何とか耐えきる!
そして4発目を受けたところで、射程に入った。
「よし耐えきった」とヴォーグ。そして放つ!
「
ヴォーグの最大の技にして、極大で高温の炎が、ガラムを襲う!
いくらドラゴンといえども、最強の威力を持つヴォーグの攻撃には耐えきれない。
ヴォーグはその炎を可能な限り限界まで照射し続ける。
しかしはっと冷静になった。
「ごめんよ、ガラム…。」
容赦ない攻撃でガラムを襲ったことを悔いた、そう別に殺すことは目的じゃない。
あわてて、照射を止める。
しかし、火を止めた時、目の前の光景は予想と違うものだった。
ガラムの上にいたはずの人間こそ消えてしまったが、ガラム自身の見た目はまったく無傷…。
「な、なぜ…。」
ヴォーグはぼう然となってガラムを見た、よくみれば、彼の黒い体のせいで分からなかったが、体中、顔面にも黒い何かが巻き付けてあるようだった。
「…まさか、特殊装甲か!?」
ずいぶんと、簡単にガラムに追いついたと思ったらそういうことだった。体中にドラゴンの炎を防ぐ例のオリオン鋼による特殊装甲が巻き付けてあったのである。
「軽量化に成功したらしくてね!さて団長さんお返しだ!」
近づいたおかげで、今度はガラムの炎の射程に入ったのだった。
「
ヴォーグほど強力ではないとはいえ、至近距離では瀕死を避けられない黒い炎が今度はヴォーグを襲った。
「ぐぇおおおおおおお!」
叫び声をあげながら黒い炎を全身に受けるヴォーグ。
しかし、ヴォーグは炎を受けながらも、再度
漆黒の炎と紅蓮の炎が激しくぶつかり合う。
ガラムがいくら装甲を施しているとはいえ、長時間照射されればその熱からは逃げられない。
そして、もちろん直接炎を受けるヴォーグはそれとは比べ物にならないくらいのダメージを受ける。ヴォーグを支えるは、強い肉体と精神であった。
数秒間であったが、それはお互いにとってまさに命を懸けた、無限とも思えるような時間であった。
やがて、ガラムの炎が先にとまった。熱に耐えきれなかったガラムの命の方が先に尽きたようだった。
満身創痍になりながらも、ヴォーグは勝利をおさめることができた。
「…へへっ、でもこりゃ僕はもう戦えないかな…。」
自分の体は炎でボロボロだった、飛んでるのが不思議なくらいだった。
「ご…っめ……、だ…ん…。」
そしてガラムはコルドの雪原へと落ちていった。
「ごめんな、ガラム…。君に罪はなかったが」
そうして、ヴォーグは落ちていったガラムを追いかけて自分も地上に向かった。
自分が飛んでるのが限界だったせいもあるが、彼にはまだ仕事があった。
ドラゴンは仲間が死んだときにそれを食することで弔わなければいけないのである。
そうして、落ちたガラムにヴォーグが近づいた。
「ゴ…メ…サ…ダ、ダンチョ…。」
はっきりとガラムのか弱い声が聞こえた。
「まだ生きてるのか、ガラム!」
ヴォーグは喜んだ、生きているのならば助けたい。
しかしそう思った時、ヴォーグの目の前を激しい閃光が襲った。
カッ――――――!
(ま、まさかオ、オリオマイ‥っ!!)
激しい爆音とともに、オリオリウムの膨大なエネルギーが膨らんで破裂して二人を襲った。ガラムの特殊装甲にはオリオマイトが仕込まれていた。
爆発に巻き込まれ、二竜の身体は、肉の破片となって周囲に散る。
多数の魔族の命を飛散させたこの兵器がまたしても、今度はこの世界で最も崇高である生物の命を散らしたのだった。
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