第59話「最強の巨人」

 ハイネケン達が身構える間もなく、


 ドゴっ!!


 イブサンの弟で魔法巨人のローランは、その大きな拳をまず、地面にたたきつけた。


 ―超振動拳マグニチュードナックル


 地面が揺れ、砂煙が舞う。舞い上げられた地面のかたまりの破片が四方へ拡散した。

 反射的にガードをする勇者ハイネケン達。


「くっつ、なんで目くらましなんか!?」

 キャビンはそういいながらも、反射的に、水の障壁ウォーターアブソリュートを使って全員の身を守った。


 ブオンッ!


 とそこへ、黒い金属の刃が、真横から勇者たちに向かってきた。長さ10mはあるのだろうか、巨人自身のサイズよりも大きい、とんでもない長さの金属のかたまりだ。

 その黒い金属の刃は、スピードと重さで水の障壁を破壊し、勇者たちに直撃しそうであったが、すんでのところで全員は後方に飛んでかわすことができた。


「グっ…。」


 しかしキャビンだけは大剣の先っぽだけを腹部に食らい、軽く出血した。


「大丈夫か、キャビン。おい、ケント!」

 巨人から、距離をとりながらも、ケントはキャビンを回復させる。


「取り合えず、まとまってていいことはない。俺がやつと戦う、お前ら三人は巨人から距離をとって、ザコを相手にしてくれ。」

 そういうか言わないかのタイミングで、ゴーガもといハイネケンは鉄の剣をふるう巨人に向かって突進していった。


(あの剣もおそらく新素材でできた剣だな、しかしそんなに長いんじゃ、近くに対しては対応できまい。)


 再び、今度は大剣がまっすぐゴーガに向かって振り下ろされる。


「来るとわかってりゃ、よけるのは分けねえんだよ!」


 ドスンッ!


 真横によけて、そして、今度は、振り下ろされた剣の上に飛び乗った。

 思い切り剣の鋭利な部分、いわゆる刃先に足をつけているが、剣の特性上鋭さより丈夫さを優先しているので、刃先は十分に厚みがあった。


 そしてハイネケンは刃先の上を全速力で走り、まっすぐローランの手元に向かっていく。


「やってみたかったんだぜこれ!」


 慌てて、ローランは振り下ろした剣を、持ち上げようとするも、ハイネケンは恐ろしいスピードでせまってくる。

 とその瞬間、ハイネケンの内部に内臓をすべて震わせるよな、激しい衝撃が起きた!

 ハイネケンはとっさに、その剣を足でけって、飛んで地面に倒れこんだ。


「ぐほっううう!!」


「ハイネケン!!」

 遠くでザコを散らす、キャビンが大声を上げた。


(クッソ、やるなこの巨人、ただのでかい馬鹿じゃねぇ…。大剣に振動魔法を伝わらせて俺の内臓を揺らしに来やがった。)


 とっさに対処法を考える、炎の剣では鉄の大剣に対して対抗ができない、性質上剣同士はぶつからず、大剣はすり抜けて自分の体に届いてしまう。

 普通の剣なら、こちらに届く前に剣身を溶かしきることができるが、この大きさの剣相手ではそれもできない、そもそも射程が負けてる。

 

 遠距離からの魔法を邪魔するのは巨人の体を覆う特殊装甲、おそらく竜の炎をふさぐあれである。魔法攻撃も通用しづらいと思ったほうがいい。


 打つ手なし、と一瞬ハイネケンは判断した。


 ハイネケンの判断通り、ローランの装甲はすべて竜の炎すらもしのぐオリオン鋼でできており、オリオンは生産が間に合ったオリオン鋼をすべてローランの装甲と大剣に回した。

 オリオン鋼の軽量化が思った以上にうまくいったためローランをフルアーマー化することができた、まさにオリオンの秘中の秘。

 攻守ともに完璧なまさに歩く不沈艦である。


「こりゃあ、厳しいな。」


 大剣に対しては食らわずに近づくことは難しくないが、その場合相手も近距離に対しては拳を使ってくるだろう。

 果たしてそれをかわせるか。

 そして近づいたとして狙える個所は、目と関節部分位、とても一人で対処できない。もし身体が真の魔王ゴーガのものなら、力押しできるのだが、このハイネケンではまだもろい。


 そのように考えたゴーガは、まず時間稼ぎを考える。キャビンがザコを掃討するのを待って、二人で挑めば、どちらかがかく乱して弱点である目をつくことができる。


ならばと「平和のための十の炎竜ラブアンドピース」を放つ。


 効果がないことを知りながら、炎竜を巨人にぶつけた。

 案の定、ダメージは通っていなそうである。


 だがそれでいい、メインの目的は周りのザコの掃討である、ゴーガは狙いが巨人であるように見せながら、ザコの掃討を行った。時間稼ぎがばれないように、ザコの掃討を手伝っていく。


 巨人は剣を振り続けるも、一向に無駄な攻撃ばかりをして、射程に入ってこないゴーガに対してイライラしてきていた。


「どうしたぁ、ハイネケン!!こんな攻撃は全然効かねぇぞ!」

 巨人は叫んだ。

「そりゃあ、まぁお強いことで!」

 もちろん挑発には乗らない。狙いは、時間稼ぎをして、キャビンと共闘することだから。


「うあっーーーー!!」


 そろそろ行けるかと、キャビンにアイコンタクトしようとしたとき、キャビンの体が突風によって吹き飛ばされた!


「なんだ!」

 風が来た方に向かって、叫ぶハイネケン。


 風の源にいたのは、前魔導団長クールであった。海上警備から戻ってきたのがこのタイミングで間に合った。


「ケントぉ!どの面を下げて、ここに帰ってきたのですか?この裏切り者が!」

 ケントに向かって、声を荒げるクール。


「クール様こそ、なぜだまされてることに、気づかないのですか。ここにいるハイネケン様こそ、真の魔王ゴーガ様なのです。」

クールの声が届いた、ケントも大声で返した。


「何を戯言を!責任をもって、この私がおまえを処分してやる!」


「…クール様、いや魔導団長クール!前から言おうと思ってたが、とっくに俺はお前を上回ってんだよぉ!」


 ケントのエアーカッターがクールに向かって放たれ、クールのハイドロビームがそれに対抗してぶつかり合った。

 魔導団の師弟対決が始まろうとしていた。



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