第60話「クールVSケント」

「ゴーガ、いやハイネケン様!ここはケントにお任せを!」

 ケントは、クールを一人で止めるつもりである、そうでなければあまりにこの場に来た意味がない。

 大声を上げてそういったケントに、遠くからハイネケンは黙ってそれを受け入れて、うなづいた。


三連空円斬トリプルエアカッター!!」

 先手必勝と、ケントは空気の刃を、連続で放った。

 空気の刃は、頭、両足を的確に狙ったものだったが、


水の絶対障壁アブソリュートウォーター

 間一髪、クールの防御魔法が間に合い、すべてを防ぎ切った。


「間に合いますか?これはどうですか、空円斬五連打クインテュープルエアーカッター!」

 今度は、クールの正面、上方、両側と空間の四面からエアーカッターが襲う。


これに対しても、すかさず、四面にたいして障壁を展開し対応する。

 簡単そうに見えて、魔力を的確に配置させるのは難しい、さすがクールは、元魔導団長といったところである。


 しかし、四面展開されている水の障壁に対して、ケントはクールの背面から狙うために、すでに水の竜を周囲を迂回させるように放っていた。


「つっ!!」


 後方から来た竜の水龍の攻撃に対しての障壁は間に合わず、かわし切ることができなかった。かろうじて頭部への直撃を避けたが、鋭利な水流がクールの右肩を直撃し、鮮血が宙を舞う。


「…やりますね、ケント…」

 クールは、たまらず、負傷した方に促進魔法を使い治癒をしはじめる。


 もちろんケントはそのスキを逃さず、空円斬エアーカッター放ち、自らも突進して、直接攻撃を仕掛けようとした。


 しかしその時、


「なにっ!」


 ケントの足が動かなかった。


(いったい何の攻撃を?)

 クールは疑問に思った、動きを止める見えない攻撃はハイプレッシャーによる攻撃だが、周囲に風は感じない。なぜ足が動かないのか。


 その間に、空円斬を交わしたクールによる拡散する無数の炎メテオシャワーが、ケントにせまる。

 (足が動かない、かわせない。)


 ガッ!ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!


 拳ほどの大きさの炎が数十発同時に、ケントを直撃した。


「ぐあーーーーーーっ!」


 叫びをあげるケント、火の玉は燃え上がりはせずに無数の焼け跡だけをケントに残した。

 かろうじて、ぶつかる瞬間にうすい水の被膜を体に張り巡らせることで、炎上だけは阻止した。しかし、ダメージは大きく満足に動けない。

 そして、改めて動かない脚を目視で確認したときに気づいた。


「…ま、さか…促進魔法をこんな風に使うとは…」


 ケントが自分の足元を見たとき、地面一帯から伸びた植物がすべて脚に絡みついていたのだ。


「ふふ、促進魔法で植物を育てるのが得意なものでね。」

 クールは初手のケントの攻撃の間、自らは攻撃をせず、気づかれないように魔法範囲ギリギリまでの植物に促進魔法を使い成長させ、ケントの足を止めることにだけ徹していた。


 水の壁を張りながら、炎を繰り出すことはできないが、足元の植物をはやすことは可能である。

 最初、自分から攻撃をせずに防御に徹することで、見事ケントの動きを封じることに成功したのだ。ケントは、攻撃することに力を使い過ぎて、周囲の状況に目がいかなかった。


「促進は、回復だけに使うわけではないのですよ、とどめです、ケント。」

 しかしクールはクールで、右肩の出血が思ったより大きく、早めに決着をつけたかった。もてる最大の力だ一気にけりをつける必要がある。


 そこで自身のおける最大の火力の攻撃を撃ち放つことにした。いまなら、相手は身動きがとれない。最大の火力ならば、たとえ水や風でガードしたとしても、巨大な炎は魔法による障壁ごとのみこむことができる。


未来を奪う原始の炎フレイムオブプレミナティヴ!」

 クールは正面の空間に半径2mほどの巨大な炎を作り出した。

 

 それを見て、何を思ったか、あるいは観念したのか、ケントは急に身をかがめた。そして地面に向かって水の魔法を使い、クールに向かって地面を這う水流を流し始めた。

「バカなそんなもので、この炎が防げるとでも?」

クールは、相手が血迷ったとしか思わなかった。


「死ね――――――!」


 巨大な炎はゆっくりと、ケントに向かっていき、そしてかがんだまま全く防御の姿勢をとらないケントの体を丸ごと包み込んでいった。


 ゴォー――――――ー!!


「がぁーーーーーーーーーっ!!」


 ケントの体はたちまちに燃え上がり、ケントは断末魔の叫びをあげる。


「ふっ、私の全力の炎です、本来はスキが大きすぎて、スピードも遅く、当てることが難しいですが、動きさえ止めれば、このどおっ…りっ…ぐふっつ!」


 クールが勝利の口上を述べていたその時、体の内部から何か熱が発せられていた、全身が熱くなり、震え上がる!!。


「…な、なんだ!全身の血が沸騰するかのような!」


 クールの言葉通り全身の血液が、今まさに沸騰していた。

 そして見る見るうちに体中に穴をあけて、シャーっと音を立てて盛大に噴き出した!


「い、いっ一体何が…」


 全身から血液を失い、クールはガクッと崩れ落ちた。

 そしてそれと同時に、ケントの体も燃え尽きて骨もなくすべてが灰になった。


 ケントは、もはや逃げ切れぬと思った瞬間にある作戦をひらめいた、成功確率は極めて低いが他に手はない。いまさら、水の防御魔法を張ったところで、クールご自慢の火球は防ぎきることはできないのも自明であった。


 あきらめたケントは、クールの足元に向かって水流を流した、狙いはクールの肩から流れでる血液である。炎の魔法に全力を注ぐ間、クールの身体からは滝のように緑の血液が流れ出ていた。


 そして、と交わった瞬間、ケントもまた全力で向かって振動魔法を使ったのだ。

 振動魔法は、激しく血液を震わせて、クールの血液に沸騰に近い状態を起こすことに成功した。そして、激しく体内でクールの血液は暴れまわった。

 ケントは自身が燃えてる間も、振動魔法を使い続け、とうとう激しく揺れるクールの体液を破裂させるに至ったのである。

 ケントは燃え尽き、クールは血液を失った。


 そうして、魔導団の師弟二人は同時に命を落とすのだった。




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