第11話「会議は踊る」

 勇者コロナのクーデターから一か月後、コルド大陸のアリベシ地方にはオークを中心とした魔族たちが移住をはじめ、また、コルド大国のシュタント帝国に近い場所に要塞が作られ始めた。


 そして、クーデターから半年後、本国メンフィスでは今から第二回勇者討伐会議が開催されようとしてた。

 今回の会議では、亀のミネがコルド帝国に滞在し、要塞の設立や軍の指示をしているため出席できず、通信による参加となっている。

 ダークエルフの通信を通じて、ピアニッシモが代わりに発言する手はずとなった。


「ミネが不在のため、今回の会議の議長はわたくしクールが務めます。」

 と魔導団長のクールが会議の始まりを宣言した。


「ゴーガ様、我々は無事コルド帝国を手中にすることができました。これもすべてゴーガ様の機転のおかげであります。」

 魔導軍団長クールはまず魔王をたたえることから始めた。


 対して、鋼華の心中は複雑である。

 本来ここまで、魔族優勢でことを進める予定ではなかった。


「いよいよ、シュタント攻略でよろしいですな。」

 これは、ピアニッシモの発言であるが、ミネの代理発言である。以後じじい口調の発言はミネの発言と思っていただきたい。


「…その件なんだが。」


 ここで鋼華はミネの発言に待ったをかけた。


「コルド王国を手中に収めたからといって、まだ攻めるには時期尚早に思う。」


 ざわつく一同…。

「そんな、シュタント攻略のためのクーデター―鎮圧ではなかったのですか。」

 そうやって、真っ先に反応したのは一つ目巨人ダンヒルだった。


 ダンヒルの言う通りたしかにクーデター鎮圧の大義はそういう名目であった。しかし、いまここでシュタントを攻めて勇者と戦うと、おそらく魔族が勝ってしまうであろう。


 鋼華の理想は、自分が勇者に攻められないようにしつつ、こちらからも勇者を攻めないという現状維持。せっかく小康状態にある現状を自ら破る必要はない。


 コルド王国をほぼ手中に収めたことで、直接にシュタント王国と自分の住居であるメンフィス大陸との対決は避けられた。

 シュタントが魔族討伐に乗り出すには、少なくとも一度コルド帝国攻略をワンクッション入れざるを得ない。

 これは鋼華にとって大きな時間的アドバンテージであった。

 

 そろそろ鋼華は自分の世界に考える方法を探さなければいけない。そのためには戦わない時間が長ければ長いほど良い。


 そんなことを考えながら、鋼華はシュタントを攻めない理由を説明する。


「シュタントの情報はまだまだ少ないうえ、かの国は森に囲まれ魔力によるバリアーが施してあり、こちらから攻めるには不利な地形をしている。」


 コルド王国の情報部隊の情報によれば、シュタントの王都周辺には4本の魔力の塔が建っており、それによる力で王都全体を魔法の壁が覆っているのだという。

 特に魔物にたいして強力な力を発揮し、力のない魔物では近づくこともままならないという。


「ですが、コルド帝国の力を使えば、それも突破できるのでは。」

 今度はクールがそのような提言をしてきた。


 そんなこともわからんかといわんばかりの顔で鋼華はクールに返す。


「もし勇者が私の討伐を目指してるのであれば、必ずコルド帝国を経由してくる。何も我々がシュタントに攻め込む必要がない。シュタントの勇者がコルド帝国内に入ってきたところを襲えばこちらの消耗も少なく済むであろう。」


「な、なるほど。」

 じっと聞いていたダンヒルがうなずく。

 さらに鋼華は続ける。


「お前らも一軍の将なら覚えておくがよい。城攻めを行うは愚の骨頂なりと。どうしてもやるなら兵糧攻めだ。」


 最近、魔王として偉そうにものをいうのが、楽しくなってきていた。

「たしかに、ミネもそう思いますな。」

「さすがぁ。魔王様ぁ!ヴォーグは明日にでもシュタントに行くつもりでした。あぶないあぶない。」


「魔王様のおっしゃる通りです。」

 とクールも鋼華に納得したようだ。


「ゴーガ様としては次は何を考えておられるのですか。」

 クールが尋ねる。

「私は、シャフト民主主義国が気になっている。」

「シャ、シャフトですか…。」

 その言葉を聞いて一同は、なんでといった顔をしていた。

「シャフトは軍事力も弱く、魔法も使えない、ただのものを作る国ですよ。」


 シャフトは、唯一の工業都市でいち早くいわゆる産業革命を起こした。

 蒸気機関を完成させており、それにより世界中に主に衣類を提供している。

 またいち早く燃える水の価値に気づき、今もなお研究を続けている。

 燃える水を利用した製法によって、鋼鉄の製造量もシャフトが世界一を誇っているのだ。


「平和主義、永世中立を掲げてますしな。」

 ダンヒルも静かに話す。


(しかし、シャフトがすでに石油を利用はじめてるということは十年もたたないうちにあらゆる兵器を開発するだろう。僕の目指してる均衡状態に兵器は邪魔だ。)


「平和主義とはいっても、お前らやつらが持っている銃兵器の恐ろしさを知ってるだろう。」

 ピアニッシモからのレポートでシャフトは多量の銃兵器を持ってるという情報を得ていた。


「ははは、銃ってあの石ころみたいなやつが飛んでくるやつですかぁ。何度か食らってますけど僕はちょっと痛いかなぁと思うくらいでしたよ―。魔王様は食らったことないんですか。」

 ヴォーグは笑いながら、銃なんて怖くないと語る。


「さすがにヴォーグほど丈夫な皮膚ではないので、ちょっと痛いではすまんが、巨人族としても大して脅威には思えん。」

 ダンヒルもかつて、連射されたことがあったそうだが、皮膚に少しくいこむくらいだったらしい。


 (どいつもこいつもバケモノかよ。)


「よほど魔法の方が強力ですからな、我々魔導士の遠隔攻撃の方がはるかに強力です。魔王様、力を失って不安になってるだけですよ。銃弾など私の1兆度の炎で溶かしきって見せましょうぞ。」


 またしても、大げさな表現をするクール。突っ込みどころが多すぎて鋼華は困った。一番の突込みはお前のどこがクールなんだということだが。

 

 ということで、魔族の面々にはいまいち銃の脅威が伝わってないようだった。


 と、突然、ピアニッシモ慌てて立ち上がった。


「緊急報告です。シャフト大陸の海上100㎞北にある島の魔族の監視塔が、謎の大爆破をしたそうです。塔にいたダークエルフは私にそれを伝えて命を落としました‥。」

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