第7話「勇者コロナのクーデター」

「勇者コロナ助けに来ました。」

 コルド国の勇者コロナは、コルド皇帝によってコルド帝国の最西端であるアリベシ半島の館に幽閉されていた。


「…おまえは、ハイムリックか。部隊はいいのか。」


「勇者様のいないコルド軍など意味はありません。それに、もうコルド国は限界です。民衆が帝政に背を向けるのも時間の問題ですよ。」


 ハイムリッヒは、勇者コロナの部下であり、現在の帝国軍第一部隊隊長である。


 勇者コロナは、コルド帝国軍第一部隊の隊長だったが、皇帝に反発し続けた結果、職を失い、皇帝の直属軍によって幽閉されていた。


 しかし、国民の怒りを真摯に受け止めた第一部隊が、もはや勇者に帝政に立ち向かってもらわねばならぬと判断し、ひそかに幽閉された勇者を助けに来たのだ。

 このとき、幽閉していた直属軍を倒したために、この行動が皇帝に露見するのも時間の問題だった。


 そして、勇者コロナはハイムリッヒから現状の国民の惨劇を聞いた。

 無謀な進軍を繰り返し、そのしわ寄せで重税を課され、食べるものもままならず餓死する国民たち。


「皇帝に歯を向けるは、道に反することだが、もはや皇帝も外道。刃を向けてもやむをえまい。」

 勇者コロナは国民のための軍事的革命クーデターを決断した。


「勇者様、すでに我々元第一部隊はみな準備は整っております。さらに、国民の中から義勇兵となり立ち上がったものがもう10万人を超えております。」

 幽閉された勇者の奪還計画に先駆けて、すでに元第一部隊は国民を扇動し、義勇兵参加を呼び掛けていた。

 その結果予想以上に多くの国民が義勇兵として参加することになっていた。

 

 コルド王国の軍隊の数は5万人である。

 そのうち勇者が率いていた第一部隊の人数が5000人、それらのほとんどが勇者についてくるので、数としては 105,000 VS 45,000 となる。


 コルドの軍がいかに強力だとはいえ、数としてはすでに完全にクーデター側が圧倒していた。


 「ましてや、軍隊の兵士たちも現皇帝に嫌気がさしてるものも多く、士気は非常に低いといわざるを得ません。今こそやるときです。」

 一部の貴族で構成されてる500人の王直属軍のみは自らの地位を守るために必死になるかもしれないが。


「そうか、国民のすべてがそういう気持ちなら、勇者として皇帝を倒すのも私の役目だな。」

 勇者コロナはそういって、剣を抜き天に掲げた。

「わが父、勇者ラガーよ!我に力を!」

 勇者コロナは決意を固めた。


 勇者コロナが幽閉先から抜け出して二日後、勇者たちクーデター側は、帝都であるコルディアから10kmほど離れた地点で陣を張っていた。

 この場所で陣を構えられる時点でほぼ雌雄は決していた。帝国側の軍の機能もまともに働いていないということに他ならない。


 そして勇者の演説が始まった。


「我々国民は、皇帝の慈悲のない圧政にもう十分耐え忍んだ。」

________そうだそうだーー!

____おれたちはもう限界だ!


「これ以上の忍耐を強いられる必要は何もない!皇帝に我々の怒りをぶつける、今が正にその時である!」

____皇帝ゆるすまじ!

____カトリーナをぶち殺せ――!


「すでに、敵の戦意は失われており、軍はもはや形骸と化している。我々の怒りを妨げることはできない!」

____軍なんてカスだぜー。

____国民の怒りを見せてやれ――――!


「民よ!我、勇者コロナに続けっ、必ず勝利に導いて見せる!」

_______コロナ様――っ!

___ 必ず勝ちましょう!


「いざ、出陣!」


「うおおおおおおおおおおおおおつつつつ!!」


10万人の大合唱が雪原に響き渡った。

もちろんほとんどのものには勇者の声が聞こえてなかったが、みんなつられて雄たけびを上げるのだった。


とその時だった。


部隊の後方の兵士たちが一瞬にして燃え上がった!


およそ100人ほどが一瞬で燃え上がり、慌てて雪に倒れこみ火を消そうとする。それもできず一瞬で焦げ死んだ者もいた。


「ドラゴンだぁ――!!」


その声と状況に一瞬にして混乱に陥る義勇軍。


「逃げろ――!」

部隊の後方はそう叫びながら、みんな走って

クモ の子を散らすように散り散りになっていく。


しかし、そうして走って逃げた先には、さらにオークの軍団が待ち構えていた。


「モ、モンスター!がこんなに。」

右往左往する義勇兵たち。中には立ち向かうものもいたが、多くは逃げまどうのみだった。魔物と戦うつもりではきてなかったのだから。


 勇者コロナからも小さくだが空中に3匹のドラゴンが浮かんでいるのが見えた。

そして、後方部隊からの伝達で状況を把握した。


(なぜドラゴンが!?そしてモンスターの大群だと!)

これが偶然のはずはなかった。


「まさか、皇帝!本当に外道に走ったか!?」 

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