第61話「最後の戦い」

 クールとケントが死闘を繰り広げる一方で、キャビンはようやくハイネケンに合流し、共同で最強の魔法巨人ローランにあたっていた。


「逃げてばかりかぁ、お前らぁ。」

 挑発を繰り返しながら、ローランは10mの大剣をふるう。

 近づかない距離で、キャビンは決して効果のない風魔法をつかい、ローランをけん制していた。


「目は狙えないか?」

 ハイネケンが、キャビンに尋ねる。


「だめだ、試しているが、さすがにこの距離ではかわされる。」


「なんか、手を考えないとな。」


「ハイネケン、考えなら浮かんだ、あいつに密着できれば何とかなると思う。近づく方法も考えた。」


「いけるのか。」


「あぁ、だから、あいつに気づかれないためのスキを作ってくれ。」


「オッケー、どういう手かわからねぇが任せたぜ。」


 そういって、キャビンはローランとは関係のない、先ほどザコを掃討していた場所へ走っていく。


「ははは、お仲間さんは怖くて逃げたようだな。」

 剣をふるいながら、高笑いをするローラン。


「そうかもな。」

 そういって、ハイネケンは、相手の剣のスキをついて、ローランの方に向かって走っていく。


「とうとうやるのか。」

 ローランは、再び横降りで、剣を薙ぎ払い、ハイネケンの体の切断を狙う。

 ハイネケンは、風魔法を下方に放ち、全力で飛んで、それを紙一重でかわした。


「お返しだぜ。やわらかな陽がさす丘でスプラッシュファイヤー

 ハイネケンは、ローランに向かって大して威力のない炎を広範囲にまき散らす。


「こんな攻撃効くわけないだろうが!」

 ローランはそれをよけもせず、代わりに、片足を地面にたたきつけて、地面を大きく揺らした。自身の振動魔法との相乗効果で、地面が割れハイネケンの方に向かって、土の破片がすごい勢いで飛んでくる。


「いろいろやってくんな、ダメージはないが、うわっと!」


 土が向かってくると同時にローランの剣も降ってくる。何とかそれをハイネケンはかわした。そして今度は、ハイネケンは、水の魔法を繰り出した。しかし、魔法は全く威力のない、霧状の弱い水であった。それを大量にローランの顔面に向かって放った。


「なんだこれ?意味あんのかよ。」

ローランはまったく気にもとめず、剣を再び振り下ろそうとする。

 しかし、周辺にはまだ、先ほどのやわらかな陽がさす丘でスプラッシュファイヤーによる熱と炎が残っていた。

 そこに、大量の水分が、もたらされる。瞬間的に、水分はすべてへと変わり、この辺りがのかかったような状態へと変わった。


「なに!これが狙いか。目くらましのための、水と炎か?」

 そして、視界の悪くなった方向から、さらに炎の竜が飛んできた。

 それを片手で、振り払うローラン、やはりダメージは与えられない。


「なんだ結局攻撃方法は同じか?視界が悪くなったのは貴様も同じ、これでどうやって倒すつも…っ!」

 大声を上げてローランは、ハイネケンに向かって叫ぶ。


 が、突然、目のまえには、逃げたはずのキャビンがいた。こちらに向かって飛んできている!

 もやを切り裂いて、目の前に突然現れたのである。


(なぜ、空を飛んでいる?)


 見れば、キャビンは背中に、スーパーモモンガを背負っていた。いやスーパーモモンガの羽だけを、体に身につけている。

 ローランはしゃべっている途中あっけにとられ、口を開けたまま一瞬呆けてしまった。


「そうやって、大口開けてんしゃべってんのを待ってたんだよ。」

 キャビンは、先ほど戦った、スーパーモモンガの羽を引きちぎりそれを身につけて、風魔法の力でよって上昇し、滑空してきたのだ。滑空の勢いを落とさずにそのまま、キャビンはローランの口の中に突っ込んでいく。


 いくら、巨人が大きいとはいえ口の大きさは、キャビンの全身を包むほどではなく、キャビンは半ば強引に、ローランの口の中に身体をつっ込んだ。

 

「くせぇな、歯磨きぐらいしやがれ!食らえっ、壊れる程の愛情と振動スーパーバイブレーション

 口内を起点として、ローランの頭部の細胞という細胞と、体液という体液がすべて震わされた。


 そして、シュパンっとローランの頭部がはじけ飛んだ。

 キャビンのスーパーバイブレーションは狙い通りキャビンの頭部を破壊せしめたのであった。


 本来、体の外部から、体内に振動を与え内部から破裂させる技を、直接口内に叩き込んだ。いくら、体の外が完全無敵でも体内の攻撃を防ぐ道理はない。

 

 作戦ははまり、無事に最強の巨人を倒すことができた。

 

 しかし、巨人の頭部が吹っ飛ぶ勢いで、キャビンは自身も吹っ飛ばされた。


「…あとのこと考えてなかった!」


 巨人の高さはおよそ8m、吹き飛ばされるのも加味すると、およそ10m位から落下することになる。しかも、モモンガの羽もすでにボロボロになっている。

 振動魔法に魔法力を使い過ぎたせいで、強力な風をすぐにだせない。


「やばいっ!」

 何とか、下方に風魔法を展開するもやはり、威力が足りない。

 キャビンの体に、地面が迫る。

 このままでは大けがが避けられない。


 しかし、それを見ていた、ハイネケンがあわてて、風魔法を使い落下地点の方向に大きな空気のかたまりを作った。


 どんっ!!


 そのおかげで、落下の速度は弱まったものの、大きな衝撃は避けられなかった。


「大丈夫か、キャビン。」

 慌てて、駆け寄るハイネケン。


「ぐっ…すまん、どうやら、右足を折ったようだ。」

 落ちた瞬間それと分かった、キャビンは別に強靭な体を持ってるわけでもない。

 どうにも動きそうにないのが、すぐにわかった。


「…命があればいい、ここまでくればもう俺一人で、いやケントと二人で大丈夫だ。」

 ケントの死を、まだゴーガは知らなかった。


「そうか…、この足じゃ足手まといだ。私は素直に引き下がるよ。」

 キャビンはそういいながらも促進魔法をかけて、自分の足の回復をはかり始めた。

 敵を掃討したとはいえここは敵地、歩く程度には、回復させたかった。

 

 そこへ、慌てた様子でシトラスがやってきた。


「ケントさんが!その、クール団長と相討ちになって…。」

 シトラスは、悲痛な表情でそれを報告した。

 そして特に大きく驚くわけでもなく、

「…そうか。」とだけ、ハイネケン、いや、ゴーガは言った。


「シトラス、ここからは俺一人でいい。連絡してバルサバルから救助を送ってもらえ。まだ、敵はいるだろう。それまでは、お前の魔法でうまく隠れろ。」


「はい。」

 ゴーガの指示に、シトラスは素直に従った、ついていきたいのはやまやまだが、足手まといなのは明らかだった。


「キャビンのこと、頼む。ちょっくら最後の戦いに行ってくるわ。」


「気を付けて」とシトラスがいい、


「必ずゴーガをぶっ殺してくれ。」とキャビンが言った。


「なぁ、シトラス?」


「なんですか、ゴ、ハイネケン様?」


「…帰ってきたら一発やろうな?」


 キャビンはむっとした表情を浮かべ、


 シトラスは、黙ってうなずいた。


 

ハイネケンは一人魔王城に向かう。

 

そしてとうとう、偽の魔王と真の魔王が運命の邂逅を果たす。








 

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