第14話「ドラゴンと艦隊」

「血まみれじゃないか。クール!早く手当てを。」

 よれよれとなって戻ってきたドラゴンは、監視塔のある島にたどり着くと崩れ落ちた。


「…ゴーガ様、…私の炎が全く通用しませんでした…、敵らしい船を見つけたんで焼き払ってやろうとしたんですが…返り討ちにあってこのざまです。」

 ドラゴンは、辛そうに起こったできごとを伝えた。


「…ゴーガ様、先ほどヴォーグが食らった弾より、穴が大きいです‥。これは少し回復に時間がかかりますね。」

 治療しながら、クールは説明し、目で部下に指示をすると、治療を部下に変わらせた。


「ドラゴン、敵は何隻あったんだ。」

「…私が戦ったのは一隻ですが、後方にさらに三隻いたと思います。」


「わかった、もうしゃべらなくていいぞ。」


(艦艇の装甲が鋼鉄でできてると考えるべきか、ニッケルとか、この世界オリジナルの金属の可能性もあるが。確実なのは、徹甲弾。しかも、艦艇のそれは口径が大きい。)


 考え事をしてる間もなく、ヴォーグが動き始めた。

「うぉおーーーーーゆるせないぃーーーー!リーダーの僕が、やってやるぅーー!!」

 咆哮をあげて、口に火をためて、ヴォーグが飛ぼ出そうとした。


「だめだ!行くなヴォーグ!」


 この世界に来て一番の大声で鋼華は止めた。


 びくっとなり、ヴォーグは羽を羽ばたくのを中途半端な位置で止めた。


「でも…、僕がやらなきゃ。」


「わるいが、返り討ちにあうだけだ。すべてのドラゴンを一度艦艇から遠ざけろ。」


「…分かりました。」



 しかし時すでに遅く、さらに2匹のドラゴンが、同じように艦艇に火を吐いて、カウンターの銃撃をうけて負傷してかえってきた。


「まずいな、さすがの想定外だ。撤退しようにもドラゴンが3竜も負傷しては、動くに動けない。」

 ドラゴンは軍事力の中心であり、放置したまま逃げるわけにはいかない。

 全力でも同軍団が回復に当っているが、飛べるようになるまでには1日はかかる。


「ゴーガ様。いかがいたしますか。」

 クールが心配そうに尋ねてきた。

「ゴーガ様だけでも、ヴォーグと一度撤退したほうがよろしいかと。」


(確かにその通りだ、ここは自分だけでも逃げるが正解。敵も、ドラゴンの回復が終わるのを待ってはくれないだろう。時間はほとんどない。)


 このとき敵艦隊は監視台から20km離れたところで待機していた。

 それをドラゴンたちが気づいてすかさず攻撃したのだ。

 艦隊は現場での待機を命じられていたが、ドラゴンを撃退することに成功して、状況が変わった。

 はじめは、ドラゴンをみて、むしろシャフト艦隊の方こそ撤退しようとしていたのだが、自分たちの攻撃が成功するのを見て、好機とばかりに追撃を判断した。


 鋼華にはもう一点恐れていたことがあった。

 それは、監視塔を攻撃したものの正体だ。そして実際に監視塔の破壊あとをみて、それが爆破によるものだと確信した。

 

(もしこの攻撃がミサイルのようなものによるならば、今この場にいる全員が危ない)

 

 いずれにしろ、もう時間はたいしてない。艦艇が射程に入った瞬間に何かを撃ってくるであろうと、剛華は考えた。


「クールの最大射程は何キロだ?」


「キロっていうか。500メートルあればいい方かと。」

「たった…」

「いえいえ、これでも普通の魔道士の2倍です。」

「…ドラゴンは格好の的だし、魔導士でも敵の射程に入ってしまう…。」

 そして、可能な限り速く手を打たねばならぬと鋼華は考えている。とそこへ、


「魔王、お言葉ですが、我々が敵の射程に入ってしまうというのは少し違うかもしれません。」

 クールが恐る恐る申し出た。


「どういうことだ。」


「我々は魔導部隊は、スピードと高さをもって、飛行することはできませんが、海上をホバー飛行することはできます。」

 魔導士の飛行方法は、魔力を地面にぶつけてその反動で飛行するホバー飛行である。


「海上のすれすれの低空飛行なら、奴らの射撃をかわせるのでは?」


「…なるほど、俺が直接艦隊を見たわけじゃないので何とも言えないが、いけるかも

な。」

 それでもドラゴンの大きさなら狙い撃つことができようが、人という小さな的にそうそう当たるものではない。


「ただ、攻撃方法がわかりませぬ。ドラゴンの火が効かないなら、火の魔法もダメでしょうし、水魔法もおそらくダメでしょう。風によるカッター攻撃も到底効くとはおもえません。何を持ってダメージを与えましょうか?」


 弱気のクールをよそに、鋼華はピンときた。

 相手は金属だよな。


「雷だよ、雷!雷攻撃だ!」

 興奮して提案する鋼華に対して、クールはきょとんとしていた。


「か、雷っていうのはあれですか。たまに雲から落ちてくる…。」


「そうそう、いわゆる電撃攻撃だ。誰かできないのか。」

(ライデイン、とかサンダーとか基本中の基本だろ)


「魔王様、申し訳ないですが何を言っておられるのか。魔法体系の中にはそういったものは含まれてないのをご存じだと思うのですが。」


 この世界の魔法要素は、火、水、風、促進、振動でできている

 

 氷の能力というのは今のところ存在していない。

 勇者コロナは実は火と振動の能力の持ち主で、彼自身も気づいていなかったが、実は彼は物質の分子の振動を止めていたのだ。

 

 氷の能力よりすさまじいものだったのだが、彼は結局気づくことなく散っていった。


 雷の能力もまた同様に、魔法化されていない。


これは、この世界において、雷や電気といったものが身近なものでないからである。研究対象になっていなかったため、雷の魔法は現在存在していない。


(雷の魔法が存在しない異世界があるとは…。

火、水、風、促進、振動…‥か。…‥‥とりあえず足止めできればいいのだから。)

 

鋼華は、ある手を思いついた。







 









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