魔王ゴーガの過去編
第1話 「魔王ゴーガの青春①」
田中鋼華がこの世界に転移する15年前のことである。
まだ魔王ゴーガはその力を覚醒しておらず、メンフィスの地で人間に隠れながらひそかに生きていた。とはいうものの意図的に隠れていたというわけでもなく、人間にさほど興味がなかっただけだった。
ゴーガにとって人間は憎悪をの対象でも、恐怖の対象でもなかった。そして人間たちもまたメンフィスの地でひっそり暮らす魔族に対して無関心であった。ある意味このときの両者無関心状態が、両者にとって一番平和だった時期ともいえる。
ただしそれは魔族が一方的に権利を奪われたうえでの平和だったのだが、このときまだそういった事情を魔王ゴーガは知らなかった。
先の戦争で生き残った魔族達は人が住まない様な地を開墾し、人の目につかないように生活をしていた。このとき、この地を開墾する中心にいたのが、いま魔王城の厨房を任されてるキッチンオークである。
そしてまた、集落の中心で魔族たちを指導していたのが、巨人族のリーダーダンヒルであり、ゴーガもまたダンヒルを慕っていた。
ダンヒルは争いを好まない性格であったので、とにかく人と争わないようにひっそりとメンフィスの奥地で生きることを目指していた。
そしてダンヒルはゴーガに対して、ゴーガが先代魔王の血を受け継いでることを話していなかった。ゆえに、このころの魔族のリーダーはダンヒルであり、ゴーガは魔族の血で暮らす青年の一人に過ぎなかった。
「ゴーガっちは、マジで強いな。もう俺の魔力超えてんじゃないか」
ゴーガに対してそう話しかける緑色の男は、名前をジェイピーといって、クールの父親にあたる男である。ゴーガの魔法の師匠であり、彼もまたゴーガの出自を知る数少ない男であったが、そのことはダンヒルと相談して伏せていた。
「そりゃあそうだろうな。すでに俺は魔族で一番つええと思ってるんだけど、なかなかダンヒルのおっさんが認めてくんね―んだよ。絶対手合わせしてくれねーしな。純粋な力勝負でもいいのにさ」
不満げに言ってるが、ゴーガもちろん本気でダンヒルを倒してやろうなどとは思ってない。ただ最近日に日に強くなっていく自分の力をぶつける場所がないことが、フラストレーションになりつつはあった。正直、師であるジェイピーを超えてしまったとは本気で思っており稽古も本気ではできずにいた。
「お前は若いからな。まあ青春の思いは女にでもぶつけるがいいさ」
「女かあ、今んとこ興味ないんだよな。魔族の女ってほら、慣れてる奴しかいないじゃねーか。俺はちゃんとした熱くなるような恋ってやつがしたいんだよ」
意外にもこのころのゴーガはまだ、女に対して真面目で一途だった。いったい何があったのかは今後語られるであろうが、まだゴーガは女というものを知らなかった。
「かわいいな、ゴーガ」
「かわいいっていうな殺すぞ」
そういって、ジェイピーをにらみつけるゴーガだったが、それもこの後にジェイピーが言うセリフが予想できていたからだった。
「いい加減、アイコスを口説き落としたらどうだ、向こうもその気だろうし」
また始まったよとゴーガは思った。
こういう話をするたびにジェイピーはアイコスの話をしてくる。
アイコスとはゴーガが幼少期からともに過ごしてる女の子で、魔族でも珍しいダークエルフとウルフのハーフである。ウルエルフと呼ばれてるが、ゴーガの知る限りアイコス以外にその存在はない。
父親が狼男で、母親がダークエルフ、ゴーガはこの二人にアイコスと一緒に育てられてきた。いわば、アイコスは兄弟同然のような存在だったので、それが恋なのか何なのかゴーガにはわからないままずっとすごして来た。
ただしゴーガが誰が一番好きかと聞かれたらそれはもう間違いなく、アイコスであった。
「アイコスのことはさ、まあそのうち何とかなるさ。ジェイピーには関係ねーよ」
というセリフを、ゴーガはもう何度繰り返したかわからなかった。
目が覚めたら魔王だったのでながれのままに魔王やってみた ハイロック @hirock47
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