第4話「魔王の苦悩」

 『第1回 勇者討伐会議』


「今回はわたくし軍団団長のミネが座長を務めさせていただきます。」

 翌日、さっそく勇者討伐のための会議が行われた。

 今回は全員が着席して、テーブルを囲む形の会議が行われてる。


「最優先のテーマとして勇者討伐があげられてるわけですが、勇者についてわかってることをクール軍の方から発表していただきます」

 魔導軍団の魔団長クールがミネからの指名を受けた。


「私に代わって、わが魔道軍団の特殊情報偵察部隊のピアニッシモに報告をさせよう。ピアニッシモ入ってこい。」


 すると、会議室に銀髪の耳のとがった女性が入ってきた。眼もとがっており、迷彩服のようなジャケットと、ホットパンツをはいている、なかなかの美脚の持ち主だ。


「失礼します、情報部隊のダークエルフのピアニッシモといいます。私共の方でここ1年くらいで調査した勇者関連の情報をお伝えしますので、よろしくお願いします。」


 魔導軍団では情報収集はエルフ系の仕事になっている。風貌ふうぼうが人間とほぼ同じため人間と混ざって諜報活動しやすい点と、男女ともに容姿が端麗《たんれい》ため、人間を凋落ちょうらくしやすいからである。ピアニッシモは情報部隊の中でもトップクラスの美形として有名だそうだ。魔界の中にはファンクラブもあるという。


「まず、わかってる中で今のところ勇者と呼ばれているのは5人です。各大陸の各国に一人ずついるそうです。中でも最近活躍が目覚ましいのは、アサマ連邦の勇者アサヒです。」


 この世界には六つの大陸があり、それぞれに大きな国家がひとつづつある。


 一つは世界の最北にある、いまや魔族の大陸となったメンフィス大陸。


 雪と氷に覆われた環境の厳しいコルド帝国。


 森林におおわれた魔法の国シュタント王国。


 火山とともに暮らす軍事力の国アサマ連邦。


 砂漠と石油の国デザス王国。


 そして科学技術の国で唯一の民主主義国シャフト。


 ピアニッシモがいうアサヒが活躍するアサマ連邦は、魔族のメンフィス大陸から最も遠いこの世界の最南端に位置している。


 活躍が目覚ましいというのは、アサマ連邦のある大陸に作った魔族の要塞が、先日勇者アサヒに陥落されたというニュースが入ってきていたからだ。


 ここを管轄してたのは亀のミネ団長だったので、ピアニッシモがアサヒの報告をしたとき当然すこしミネは渋い顔を浮かべた。


「他の勇者の情報はあまり、入ってきてませんね。コルド帝国の勇者は皇帝と折りがあわず軍資金不足で行動してないそうですし、デザス王国の場合は逆に、王女を勇者に嫁がせた結果、城から出てないそうです。」


 そのほか、科学の国シャフトの勇者は研究に忙しいらしい。


「あと、魔法の国シュタントの情報は我々情報部隊の力不足で、まったく手に入りません。あそこは魔法によるガードが堅いうえ、エルフが多いために我々ダークエルフが潜入してもすぐばれるんです。」

 と申し訳なそうにピアニッシモがしている。ピアニッシモ率いる情報部隊はシュタントにずっとてこずり続けているのだった。


 ふと鋼華は気になった。

「そもそも勇者とはなんだ。」

 なんで勇者が五人もいるのか、つい気になったのでぼそっと言ってしまった。

 

 さいわい隣にいたルーシア以外には聞こえていなかったので、ルーシアが小声で説明してくれた。

「勇者は、先代の勇者の息子たちだろうといわれてる人達です。先代の勇者は、ゴーガ様の父ライタ様を卑怯な手で倒した後、同時に姿を消したといわれています。ただ、先代勇者は大変女好きだったために、すべての国で現地妻を作り子をなしたといわれてるのです。その子たちが今勇者といわれてる人達です。」

 これも忘れてしまったんですねという表情で、ルーシアは話してくれた。


 血をひいてるから勇者というのもどうだろうと鋼華は思った。


「ゴーガ様に魔法をかけたのはやはりシュタント王国の勇者ですかな。魔力の強さはおそらく一番でしょう。」

 とミネが言った。

 

 そしてクールが返す。

「遠隔地にいる魔王様に魔法をかけようと思ったら相当な魔法力が必要です。そんなことができるのは魔力が最強と言われているシュタントの勇者しかいないかと…。」

 もっとも、実際に魔王に魔法をかけたやつなどいないのだが、もちろんそれは鋼華にしかわからない。


「クールにもできないのかい?」

 ドラゴンのヴォーグが素朴な疑問をぶつける。


 クールは少し考えていう。

「私ももちろん相当遠くの人間にまで魔法をかけることができますが、それでも見えてる範囲までです。それに離れれば、離れるほど威力は弱くなりますので、魔王様の力を抑え込むなんてとてもとても無理だと思いますな。」

『かつてメンフィス大陸制覇の際に1000人の兵士をすべて同時に金縛りにした私でさえも、難しいといえましょう。』とさらに付け加えた。クールはかならず自慢を入れることを忘れないらしい、しかもかなり誇張されるのだという。


「見えない遠距離からゴーガ様の力を封じる……そんな、魔法を持ってるとしたら脅威だな。」

 ダンヒルがそっと口を開く。


 (確かに‥‥。)

 皆が沈黙のうちに同意する。全員がぞっとした。


 そんな能力があるならば、どこからでも魔族が強力な攻撃を受けるということだ。それはほとんど世界を支配できる力といっていい。


 その話が出た時、魔団長たちと同じように、しかし違う意味で鋼華はぞっとした。


 まずい、このままではウソがばれかねないと鋼華は思ったのだ。

 たしかにそんな能力は強力すぎる。現実味があまりにない、近い将来にばれる嘘なのである。


 とっさの判断で鋼華は語りだした。

「私はかつて聞いたことがある、この世界のどこかに神々がのこした遺跡があり魔王の力を封じることができる不思議な石が眠ると。それは勇者の血をもってでしか発動させることはできないのだという。」

 おもいついた出まかせで、鋼華はありもしない不思議な石の話を持ち出してみた。


「神々の力ですか!」

 とヴォーグが真っ先に反応した。

 

 すると、そこでピアニッシモがヴォーグに付け加えるように言った。

「さすが、魔王様です。神々の遺跡があるという情報はピアニッシモも聞いたことがあるのです。あまりにも不確定すぎて、まだ調査中で報告してなかったのですが、まさか魔王様がもうそれを知られているなんて…。」

 ピアニッシモは、信じられないといったような顔でこちらを見つめてる。

 驚いたのは鋼華の方だった。まさかでまかせが本当に存在するとは。


「で、ピアニッシモよ、不確定ながらその遺跡はどこにあると考えている。」

 団長のクールがピアニッシモに尋ねた。

「…我々が調べてもわからないことと、わずかにコルド共和国あたりの人間から聞いた情報からすると、やはり魔法の国シュタントじゃないかと思います。」

 シュタント以外の情報ならば、ほとんどの国の地理情報を情報部は得てるということであった。

 情報部がわからない以上、それはシュタントにあると考えるのが自然だった。


「そうなると、魔王、とりあえず進軍先はシュタントということでよろしいですな。」

 進行役のミネがそう尋ねてきた。


「……そうだな。」

 断る理由がなかった。

 嘘から出たまことだったが、流れるままにシュタント攻略することが決まった。


(ごめんなさいシュタントの人、嘘の理由でそこに進行することになりました。)

 心の中で鋼華はシュタントの人々に謝り、大量殺りく兵器があるといって、イラク戦争を決めたブッシュの気持ちが、なぜか少しわかってしまった鋼華だった。





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