第19話 「魔王の議」


「そうだ!選挙で勝つ!」

 唖然とする一堂にもう一度選挙の話を持ち出した。


「そういわれましてもゴーガ様、もちろん魔族が大統領に立候補などできないわけでして。」

 ミネが恐れ多くながらと注釈したうえで意見を述べる。


(分かってるよ、馬鹿なのかこのカメは…。頭までのろまなんじゃないだろうか。)

 どうも鋼華は亀のことが好きではなかったようだった。


「当たり前のことを聞くな。選挙に出るのはもちろん、シャフトの人間だ。

 …が、シャフトにはいわゆる平和主義原理主義者ともいうべき、かたくなに平和主義を貫いて防衛隊を解散すべきという派閥がある。」


「平和民主党ですね。」

 ピアニッシモが付け加える。さすが情報部、というよりすべて情報部からの情報なので当たり前なのだが。


「その通り。そいつらを勝たせて、魔族への侵攻は憲法違反という風に持っていけばいい。」

(もっとも平和民主党の主張する防衛隊解散はもったいないのでやらないが。)


 今回の作戦を説明する鋼華だが、すでにヴォーグは聞いてなさそうだった。今回の作戦にヴォーグは関係ないので構わないが。


「…それは確かに、それができればシャフトの脅威はなくなりますが。」

 思わぬ内容に魔導団長クールも真剣に考慮し始めた。


「でも、正直平和民主党が勝つのは難しいと思います、シャフトは大統領制になってから60年以上ずっと自由責任党から大統領が選ばれてるんです。」

 ピアニッシモがシャフト事情を皆に説明する。


「シャフトの選挙権はどうなってるんだ?」


「えっと、20歳以上のすべての男女となってます。投票率はいつも40%くらいですかね。」


「投票権が女性にもあるんだな?それに、投票率も少ない。そして長く続く政権与党。材料はそろっている。」


「勝てるとおっしゃるんですか。」

 ミネが不思議そうに尋ねる。


「いける。魔族の力を総動員して裏工作する。シャフト史上で最も劇的な政権交代を私が起こして見せる。次の選挙はいつなのだ。」


「…半年後の8月15日です。」


 ちなみに、この世界の暦は地球と全く同じである。


「よし、半年の間に裏工作を完成させよう。さっそく作戦を立てて手配するぞ。」

 楽しそうに指示を出す鋼華。


 鋼華が魔王になってから半年、もっともわくわくしていた。


「あの魔王様、僕不思議なんですが…。」


「どうした?ヴォーグ。」


「いつから、そんなに選挙に詳しくなったんですか。」

 訝しそうにヴォーグはゴーガに尋ねた。

 ヴォーグの知る魔王はもっと直情的で猪突猛進型だった。


「……ち、ちからを失ってからはいろいろ勉強してるんだ。な。ピアニッシモ。」


「そうですね、確かに最近の魔王様は勉強家でいらっしゃいます。」


 鋼華はつい熱くなってしまい、魔王を演じるのを忘れていた。

彼は政治学専攻の大学生なのである。


 田中鋼華のせんきょせんが始まろうとしていた。






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