第20話「魔王とルーシア」
「というわけで、
選挙戦のマスコミ対策には、サキュバスが必要であり、最適だ。そう判断して、
鋼華はピアニッシモのテレパシーを通じて、ルーシアにそう命じた。
鋼華は魔王になってからこの方、はじめてケータイ電話の便利さを思い知っていた。テレパシーの使えるダークエルフがいるからまだいいものの、いなければぞっとする。
そうして、その連絡を受け取って、3日後にルーシア達、華のサキュバス軍団たちがコルドにある魔族の要塞ファウスト(この間の会議で名称を正式に決定した)にやってきた。
ちなみに、現在の6魔団(5魔団)の配置は次のようになっている。
力の軍団ダンヒルの部隊はそのまま本国にて待機、部隊の一部の巨人たちがママオラ海峡の監視台を直すために、サメの魔物グレートシャークに乗って移動中である。
魔導軍団団長クールは、部下とともに本国メンフィスに帰還した。
代わりに、副団長のケントの部隊がコルドの要塞ファウストにやってきた。
ヴォーグは魔王と離れると寂しいという勝手な理由で、ファウストに残留し、けがの治ったドラゴン達は、本国に帰還した。
陸海魔軍ミネの部隊と、空魔団エコーは一部の部隊を本国に帰して、そのままファウストに残っている。
魔団長の3人プラス魔王がファウストにいて、本国がずいぶん手薄なようだが、本国メンフィスより、コルドにあるファウストの方が、地政学的に外交を行うのに便利な位置にあるので、ここに部隊を置かざるを得なかった。
さて、サキュバス軍団と共にルーシアも鋼華のもとにやってきた。
そして、ルーシアと鋼華は4日ぶりに再会した。
魔王になってから6か月がたち、その間、鋼華はほぼ毎日ルーシアと一緒にいた。たった4日とはいえ会えなかったのは、とても寂しかった。
「会いたかったです、ゴーガ様。」
「ルーシア…。」
「寒いですね、コルドは。」
「あぁ。」
「あっためてくださいますか。」
「ルーシア…。」
◇
「じゃあ、シャフトの平和民主党の立候補者を魅了すればいいのですね。」
二人は、ファウスト砦の魔王用の部屋のベッドの上にいた。
「あぁ、できれば、立候補者は容姿のいい奴にしてくれ、党首がそうじゃない場合は党首をひきずり下ろして、違うやつを立候補させろ。」
「思うのですが、自由責任党の党首を魅了したほうが早くありませんか。」
自由責任党は現在のシャフトの政権を担当してる党である。
「…その方が楽だが、その場合当選後、大幅に政策を変えた場合には、国民の反発を招きかねない。あくまで選挙の結果で魔族と不戦を決めさせなければならない。」
「…私にはよくわかりませんけど、わかりました。」
「あと、重要なのは次だが、大手の3つの新聞社のそれぞれのトップを魅了してほしい。」
「新聞社ですか。それの何が重要なんですか。」
「選挙っていうのは報道一つで結果が変わるからな。そこをおさえてあれば、まず負けはない。」
「そうなのですか…。じゃあ、新聞社に3人、平和党に一人、それで4人ですね。あとの一人は誰にあてるんですか。」
「…不確定要素ってやつだな。他にキーマンとなる人物が現れるかもしれない、その時のために取っておきたい。」
「…そういうものですか、記憶をなくしてからは、ゴーガ様はいろいろ考える様になりましたね。以前はこうしてベッドで何かを語るなんてことありませんでしたのに。」
「だめか?」
「いえ、うれしいです。新しい魅力を見つけられた気がして、以前より慕っております。」
そんな風に言われて、鋼華は男冥利に尽きる気がした。
しかし、よく考えればこの言葉は本当の魔王に向けられたものであり、鋼華の胸中は複雑だった。
「それより、確か5人頼んだと思うのだが。連れてきたのは4人だよな。」
4人の名は確か、
いまコルド皇帝のもとにいるベベルの妹である。
なんだかどれもすごい二つ名がついてるが、4人しかいない。
「えっ、わたし入れて5人じゃないですか。」
「えっ、ルーシアも数に入ってるのか?」
「……当り前じゃないですか、重要な任務っていうから。一番の
「…いや、だめだよ。ルーシアは数に入ってない。」
「な、何を言ってるんですか。私ならばどんな男でもいちころにできます。任せてください。」
「それがだめだって言ってるんだ。」
「私の能力を疑ってるんですか!」
「そういうことじゃない。」
「分かりません、魔王様のために私はやります!」
「だめだ!」
「やらせてくださっ
とルーシアが言いかけたとき、
バシン!!
鋼華は瞬間的にルーシアの頬を叩いてしまった。
「……!……ゴーガ様?」
「…すまん…。」
鋼華は生まれて初めて、女性に手をあげた。
つい感情的に自分もなぜかわからず、ルーシアをたたいた。
二人の間に沈黙が訪れる。
ただただルーシアに離れてほしくなかったという思い、他の男に抱かれることなんて想像もしたくない思い、そしてそういう気持ちをルーシアが全く分かってくれなかったことに対する憤慨、あらゆる感情が交錯していた。
「とにかく、ルーシアは行くな。俺のそばにいろ。」
その一言で納得したのか、
ルーシアは目に涙を浮かべながら、小さくうなずいた。
そして、鋼華はルーシアをそっと抱き寄せた。
そして、ルーシアの頭を抱えながら
耳元で
「そばにいてくれ…。」
といった。
「…はい。」
その日の二人の夜はとても長い夜になった。
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