第37話「恐怖」
ちょうど勇者アサヒが雷をぶっ放していたころ、魔導団長クールはデザス大陸の東端のバルサバル半島にたどり着いていた。ここには先日完成したばかりの要塞がある。
常に2000の魔族たちが駐在しており、先日バルサバル半島の司令官に、ダンヒルの右腕である
マジカルジャイアントは、巨人族の中でも希少種であって、全5000人の中でわずか100人しかいない。巨人族でありながら魔法がつかえ、イブサンはとくに振動魔法を得意としている。
実のところ実力はダンヒルを上回っているのだが、巨人族は年功序列世界なので、若手のイブサンは身を引いて副団長の地位にいる。
さて、今回デザス大陸の攻撃に備えよという命令のもとに、魔導軍団クールは力の軍と魔導軍団の合同で40000人の部隊を用意した。
ちなみにダンヒルは、メンフィスでお留守番してる。というのも実質結構な年齢のダンヒルはもはや最前線に立つのがつらく、しかもこの間『部下がすなるスキーといふものをやってみようとて』スキーに出かけたら、見事に骨折してしまったのだ。
無念なりダンヒル団長!
ちなみにその事実はクールの協力もあり、魔王には伏せられている。
さて少し編成を見てみることにする。
今回の40000の兵のうち、巨人軍団が4000人。
ダークベアーや、
ダークエルフやハーフダーク(人間との混血のダークエルフ)、オークメイジや、マジカルエイプ、マジックキャットなどの魔導士系がおよそ1万人。
そして残りの2万が、オーク、ゴブリン、ジャイアントコックローチ、噛みつきウサギ、テキサスラトルスネーク、ゴールデンバッドといったザコモンスターである。
「クール団長、我々の出番はありますかね。」
要塞の主であるイブサンは来たばかりのクールに尋ねた。
「イブサン…ゴーガ様の話では、十中八九デザスの軍はシャフトに兵を向けるから、そこで手薄になったところを狙えということだ。」
「相手の数は50万と聞いてます。足りますかね。」
「10万程、シャフトに向かってくれれば、魔導軍団だけでも十分なくらいだな。加えてあちらの主戦力は陸上部隊だ。数がいくらあっても、我々が有利といえよう。」
心配なのは部下たちの練度不足と平和ボケだった。巨人軍たちはここ半年くらい、土木作業員と化していたし、もともとミネの軍団には期待できない。
魔導軍団もリゾートとかに行ってたので、実践不足も甚だしかった。
「最前線の指揮はまかせていいのかイブサン?」
「はいお任せを…ここ最近平和ですからな。自ら出向いて暴れたい頃です。」
「頼もしいな。」
去年、子供ができてしまったので、実際のところ魔王以外の前では戦いたくないクール魔団長であった。魔王の前やダンヒルの前ならば、無理もするし強がりもするし、嫁も差し出すが、魔王のいないところならば、無理に絶対しない。
クールはそうやり続けて、この地位にまでたどり着いたのであった。
(だいたい、ダンヒルの奴め、まだ体が動かないとか言ってたが、そんなわけあるかよ。促進で回復させてれば2週間もあれば大丈夫だろうよ。)
「クール団長、連絡来ました。デザス王国がシャフトに向けて進軍を開始しました。」
ダークエルフのブラストが報告を入れた。
ブラストは、ここバルサバル要塞に配属されてる情報部隊の一人、たった今、デザスに潜ませてるスパイから情報が入った。
「きたか、どうする。デザスが攻め次第、進軍ってことになっているが…。」
さっきまでは威勢のいいこと言っていたがクールは悩んでいた。戦力的にはあまり行きたくないのでとっさの場面ではズバッと判断できない。
「どうするも何も行きましょう、迷う暇はないですよ!」
イブサンはむしろ、早く戦果をあげたいので、進軍を指示しないクールにちょっといらだっていた。イブサンの直接の上司は。ダンヒルであってクールではない。
今この要塞におけるリーダーはイブサンであるが、しかし、作戦上のリーダーはクールという二元状態なのである。
「よし、イブサン!先発隊として、20000を連れて侵攻しろ。様子を見て俺が後で、進撃する。」
そういって、とりあえずクールは自身の出撃を見送った。
「分かりました!」
イブサンは二万の兵をつれて、カルナバルへと向かった。
◇ ◇ ◇
デザスは砂漠の国であり、多くの場所は砂で覆われている。そしてところどころのオアシスに大きな町や、要塞がある。ただし首都であるデザス市には、豊富な水と肥沃な大地があり、国民のほとんどはここに住んでいる。
シャフトの場合、海岸線上に首都があるため、侵攻の際には海上および空中戦力が大切だったが、デザス市は内陸であるため、どうしても陸上を移動して、進軍しなければいけない。
バルバサルから、南に300kmの地点に要塞都市『カルナバル』がある、この年からさらに100km西に首都デザスがあり、首都を攻略する場合には、まずこの都市を攻略する必要がある。
さらに、カルナバルから南に400㎞進めば、シャフトに最も近い港である『エスタ』があり、先ほどエスタの部隊たちがシャフトへ侵攻を開始したと報告があった。
よって、この瞬間エスタにいた部隊はからカルナバルへ戻ることは不可能であり、今が一番要塞都市カルナバルが手薄な時なのだ。
砂漠を、といってもサハラ砂漠のような完全砂漠ではなく、ところどころ樹木や植物がみられるいわゆる岩砂漠を、マジカルジャイアントであるイヴサンの部隊は行軍していた。
かれこれ15時間歩いて、ちょうど行程の半分くらいまで来た。さすがに魔族たちは歩くのが早い。
しかし、実のところ、大群でもって陸上を歩いて行動した経験など、この部隊の魔物たちにはなかったので、すでにかなり疲れていた。
「イブサン隊長少し休みませんか。みな結構疲れております。」
情報部隊のダークエルフブラストがそう進言したので
「そうだな。」
と、
ちょうど、その辺にオアシスがあったので、そこにあった小さな集落を襲い、すべての人間を皆殺しにしたあと、全員を休ませることにした。
「案外つかれるもんだな。」
魔法により精製した水をのみながらイブサンはブラストに言った。
「そうですね。先代の魔王の時は、大群で人間の町を襲ったそうですけど、我々、メンフィスに追いやられてからは初めてだそうですから、うちの部隊は誰も経験したことないですよ。」
「さっさと、戦いたい。ぶっちゃけ歩く方がつらいな。」
「隊長はまだ、足が長いから楽じゃないですか、わたしたちノーマルサイズ系はついていくの辛いですよ…。」
「エルフこそ飛べばいいだろう。」
「あれは魔法力のホバー飛行ですから、歩く以上につかれまっ・・・・」
と言いかけた時、
ドバシャ―――――ん!!
という音とともに、オアシスの水が大量の水を周囲にまき散らした!
ドーーンっ!
どーーん!
ドオーーーン!
「な、なんだ!?」
さらに、その音は連続しておこり、周囲の地面を吹き飛ばして、数百人程度の魔族たちの命を奪った!
「な、何だ!?」
イブサンは突然の攻撃に、身が震えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます