第38話「危機」
「勇者シンハ―王子、見事な腕前です。見事にモンスターに的中です。」
密閉された車内で、王子と呼ばれたその男が、部下から報告を受ける。
「ふへへへ、ぼ、ぼくだってこれくらいはできるのさ。」
勇者シンハ―はデザス王国の勇者である。
昔は振動魔法の使い手で、手先の器用な、そこそこ腕利きの戦士だったが、デザス王国の第一王女を妃にもらい受けて、デザス王国の王子となると、すっかり勇者としての鍛錬をしなくなり、今では体つきもすっかり丸くなってしまった。
「婿殿、さすがに手柄の一つも立てないと次期王にするのは厳しいのう。」
デザス王が先日そんなことを言っていた。
「お
「まあま、無理する必要もないのだ、亡命してきたオリオン君のおかげで、新兵器が完成したからね。無理しなくても手柄は立てられるのだよ。」
「…新兵器ですか。」
「だから、まあ、もし次に戦いがあった時には、一応前線に行ってさ。少し戦ったらもう下がっちゃっていいからの。」
ということで、勇者シンハーはオリオンが開発したこの世界で初めての戦車「オリオン01」に乗って出撃したのだ。
もともと、デザスでは車の開発が進んでいた。まだ完成したものはなかったが、オリオンが亡命してきたおかげで、石油を使った動力機関が完成に至り、さらに装甲にも竜の炎に耐えることのできるオリオン鋼を使い、このオリオン戦車は完成した。
艦船の射撃とは違い、車内のスペースが狭いため(艦艇が10kmの射撃ができたの風魔法使いを3人配置したからである。)、オリオン戦車では飛距離は出ないが、1500m先までオリオン榴弾を放つことができる。
さらに、5秒に一発撃つこともできて射程こそ短いが。陸上戦では十分だといえる。
現在のところ難攻不落の移動要塞だといえる。
安心して、勇者シンハ―はこの戦車に乗り込んで出撃した。
そしてこの戦闘区域には、オリオン戦車は5機投入された。
「王子、もういいのでは?十分手柄を立てましたよ。」
車内でシンハ―の側近のサッハンが進言する。
「おいおい勇者にひけっていうのかぁい、まだ弾も十分あるし、もっともっと殺すよぉ。」
構わずに勇者シンハ―、および戦車部隊はオアシスのモンスターに砲撃を続けた。
「大体、魔族は馬鹿なんじゃないのかい。あんないかにも、狙って下さいみたいな場所に兵たちを休ませるなんてさぁ。この位置からまる見えだよ。」
モンスターが陣取った位置のオアシスは低地にあって、やや高台である1500m先のシンハ―王子の位置からは丸見えであった。
シンハ―はもともと、この位置に戦車と部隊をかまえて、魔族が来るのを待っていた。この男、今では性格の悪いただのデブだが、そこまで馬鹿なわけでも、ビビりでもない腐っても勇者である。
本来しっかり偵察部隊を出しながら、行軍していればまちぶせは避けられるのだが、戦闘はまだ先だとたかをくくっていたイヴサンは、それを怠っていた。
しかも、偵察に最も向いてるドラゴン2竜はビビッて待機してるクールの部隊に配置されていた。
これは、クールの大失策である。
榴弾の攻撃は続く。
「話には聞いてたけど、これがオリオン榴弾か。」
魔法巨人イブサンはそれを目の当たりにして、動揺していた。
「くっそ、これは俺の責任だ。何とかしないと。」
しかし、1500m先の敵に攻撃する手段は何も持っていない魔族たち。
できることは、いち早く距離を詰めて、こちらの攻撃が届く位置まで届くようにすることだった。
つまるところ、結局は突撃するしかない。
「この場を離れろ、敵に向かって全速ですすめ!!」
そういって、魔族たちはまっすぐに勇者シンハ―の部隊に向かって走っていった。
巨人たちが、魔導師を守りながら突撃していく。
途中オリオン榴弾が巨人に突撃して、何人もの巨人が倒れた。しかし、巨人に直撃した場合は、他に対する被害を減らすことができる。
優しい巨人たちは、榴弾が飛んでくるのを見ると、積極的に身を挺して他の者たちを守るのだった。
「シンハ―勇者、敵軍団突撃してきます。」
それを受けて戦車達は後退しながら、砲撃を続ける。
ひたすら、魔族はそれを追いかけて突き進む。
魔族たちは何も考えずに突き進んだ結果、
気が付けば、周りを崖のような丘に囲まれた場所に来ていた。
「ま、まずい、囲まれている…。」
イブサンはそこで、ことの深刻さに気づいた。
「いやあ、本当に馬鹿だね、魔族たちは…、指揮官が悪いよぉ、これじゃあ部下が可哀そうだ。」
魔族がたどりついたその場所の周りの崖の上には、しっかりと人間の兵士たちが配置されていたのだ。
「こんな古典的な手法が通用するんだねぇ。うてぇーー!!」
その号令で、丘の上から一斉に、弓矢がはなたれ、炎の魔法が唱えられ、岩石が、そしてオリオマイト爆弾が、モンスターたちに向かって投げ込まれ始めた。
魔導士たちは、上空に
巨人たちは必死に、自らの身体を使い他の者たちををかばった。弓矢、岩石は耐えられたものの、オリオマイトによる攻撃には耐えきれずおおくの巨人たちが倒れていった。
そして攻撃はやまず、魔族は右往左往するばかり、まさに今、魔法巨人イブサン率いる部隊は絶体絶命の状況にあった。
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