第18話「不可解な提案」

 ママオラ海峡海戦の後、鋼華達はメンフィス大陸ではなく、コルド帝国に新しく作った砦に戻っていた。


 負傷したドラゴンが多すぎて、戻るためにはメンフィスは遠すぎた。


 その中でもドラゴンの中でも精神的支柱であったカプリの死は、大きな動揺をドラゴンたちに与え、特にヴォーグの落ち込みようはひどかった。


 ここで、鋼華が驚いたことがある、ドラゴンたちの風習だ。


 ヴォーグをはじめ、ドラゴンたちはカプリが死んだとわかると、一斉にカプリの死体を食べ始めたのだ。一辺の肉片も残すことなく。


「こうすることが一番の弔いだから。」

 ヴォーグはそういった。


 どういうことかよくわからなかったが、ピアニッシモによると、古くからドラゴンの体はいろいろなことに利用されてきたため、そうさせないために死体は仲間ですべてきれいに消滅させなければならなかった。

 また、効果があるかはわからないが、仲間の体を体内に吸収することで、少しでも自分を強くし、そしてまた体内に取り込むことで一生その仲間を忘れないという、儀式らしい。


 ドラゴンたちは、カプリの死骸を泣きながら食していた。


 複雑な心境で、鋼華はそれを見守った。



 さて、予想以上の大きな被害を受けたものの、収穫はあった。


 まずは予想以上に、シャフトの軍事兵器が発展を遂げているという情報である。

 装甲に金属を取り付けた艦艇、ピアニッシモによれば、いままでに見たことがないという。

「なんで、鉄みたいな重いものが浮くんでしょうか。」

 と、ピアニッシモは不思議そうだった。


 さらに、航空機がすでに開発されていた事実である。

 機銃を搭載しておらず、偵察や爆弾を投下するだけの実験的なもののようだったが、さすがに航空機まで開発されてるとは予想だにしていなかった。


 カプリに爆弾を投下した航空機はその場を即座に離れたが、激高したヴォーグに追われ逃げ切れずその爪によって引き裂かれ、墜落した。

 ぱっと見た限りでは、プロペラ機で機体は木製であり、悠々とヴォーグが追いついたことからも速度は、あまり速くないのだろう。しかし、航空機が存在するということは動力であるエンジンも存在するということである。

 自動車もすでに開発されてるだろうと鋼華は考えていた。


 次の収穫は、行動不能になった艦艇を回収し、その中にいたシャフトの防衛官を捕虜にすることができたことである。


 艦艇を回収したことで、船体の装甲、竜の身体を貫いた弾丸の正体、そして爆弾の仕組みなどがわかる。

 ただ問題はそれを研究調査できるスタッフが、魔族にいないということであった。


(捕虜たちを脅迫するか、サキュバスに誘惑させるかして働かせるしかないな。)


 また、今回の戦闘で、新たな戦術が魔族に加わった。

 空中部隊が空中から何らかの物体を投下するという、地味だが効果的な戦術である。


 今回は、監視塔を構成する石片の投下であったが。もし爆弾を投下出来れば、最強の集団が出来上がる。


 竜部隊の戦力低下は痛手であったが、それ以上の収穫があったといえる。


                 ◇


「今回の結果からもわかるように、シャフト攻略は急を要している。」

 コルドの砦で緊急の会議が開かれ、鋼華はシャフト攻略の必要性を皆に伝えた。

 

 メンバーは、魔導団長クール、竜団長ヴォーグ、亀のミネ、そしてスーパーモモンガのエコー、さらにピアニッシモ。ダンヒルは本拠地メンフィスにいるため、不在である。


 また、あまりにミネの団が雑過ぎるので、スーパーモモンガのエコーを空魔団の団長として昇格させ、なんでも魔団を解体、陸海魔団と名前を変更し団長としてミネがついた。


「ゴーガ様、僕はすぐにでも、カプリの仇をうちたいよ。」


「ヴォーグ様お気持ちはわかりますげど、竜の体を引き裂く弾を持った相手です。我々普通のモンスターたちでは歯が立ちませんです。」

 エコーは目の前で、敵の艦隊の威力を見た上に、自分の部下もなんだかんだで100近く死傷者を出していた。空魔団は竜軍団ほどではないが、数が少ないので、慎重になる。


「シャフトは要塞都市ですから、陸上からごり押しするのも難しいですしね。」

 これはクールの意見。


「…いやいや、ダンヒル殿の軍団に、盾を持ってもらいそのまま特攻すれば、銃による攻撃にも耐えきれるのではないですかな。」

 とミネ。


「僕の皮膚より丈夫な盾なんてあるのかな。」

「そもそも、すべての兵士に例の弾が支給されてるわけでもありますまい。」


「いっそ、玉砕覚悟で、我々の全団がシャフトの空中から石をばらまきますか。」

「数が足りないし、相手のダメージが少なそう…」


 様々な意見がだされるも、なかなか有用な戦術オプションは提案されなかった。


(どうしたもんかなぁ、ほっとくという手もあるけど。艦隊が完成したら、その時は魔族みんなやられるときだろうしなぁ。)

 ケンケンガクガクといろんな意見が出されるものも、すべて魔族が返り討ちにあいそうだった。

「めんどくさいよぉ、魔族は力技で相手をねじ伏せればいいんだよぉ!」

 とうとう、ヴォーグは思考を放棄したようだった。


「なんかこんなに話し合いをするなんて、我々魔族がまるで民主主義国家みたいですね。皆さんお茶をお持ちしましたよぉ。」


 そういってピアニッシモが皆の目の前にお茶を置いていった。ヴォーグの目の前にだけは、樽に注がれた大量のミルクが置かれた。


 そして、またしてもピアニッシモの一言に鋼華はひらめきを得た。


 席を立ちあがり、

「…!民主主義だよ、民主主義!民主主義ってなんだ!」

 急に2016年くらいに国会前で叫んでた人たちみたいなことを鋼華は言った。


「どうしたんですか、ゴーガ様。」

 ピアニッシモはきょとんとしている。


「選挙だよ、選挙で我々魔族が勝てばいいんだ!」


「選挙―――――――――――!?」


 この場にいた魔族全員が首を傾げた。





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