第6話「魔王の食事」

「実は、久々に皆で食事いたしましょうと思いましてな。」

 亀のミネはそういって会議室に戻ってきたのだった。

 

 なんで、全員会議室の外で盗み聞きしてるのかと思ったら、

 ちょうど食事時だったことを思いだしたミネが、それを誘いに来たとのことのだった。


「うちの軍の厨房担当キッチンオークが、今日はいい食材が手に入ったって言ってたものでね。」

 キッチンオークはオークの中でも最上級の地位を持つオークである。

 魔王の厨房担当になるためには長いキャリアと難しい試験が必要である。

 また、キッチンオークは食材も自ら調達しに行くので強さも必要だ。

「楽しみですねぇ、ゴーガ様。うちの厨房は優秀ですから。」

 ルーシアは目をキラキラさせている。


(まずい…。そういえば、魔王に転生してか食事というのをしてなかったから忘れてたが。こいつらの言う食材ってなんのことだ。)

(…にんげん、人間だよな絶対。)

 再び悪寒が走る鋼華、そう一般的に魔物の食事といえば人間である。

 

 魔王を演じ切るためには、人間を食べるカニバリズムにならなければならない。

「いいですかな魔王様、今日はみなと食事ということで。」

「…ああ、ちなみにメニューはなんだ?」


「それは、お楽しみというか、私も聞いてませぬ。さてまいりましょう。」


 ということで、なんでも団のミネ、巨人のダンヒル(2mサイズに変更)、ルーシア、それとさっきまで一緒にいた流れでピアニッシモが食事のテーブルに着いた。


「あれ、ヴォーグは?」


「ヴォーグ様は、調理されたものは食べませんし、あとサイズ的に食堂に入れないんですよ。」

 ルーシアが説明する。


「あと、魔導団のクールもいないけど。」


「うちのリーダーは、光合成で栄養を取るので、食事必要ないのです。ご存じありませんでしたっけ。」

 今度はピアニッシモが説明をしてくれた。


 魔導団長クールは、皮膚が緑色をしており、これは体内の葉緑体のためである。彼の一族は「栄光の緑の一族」と呼ばれ、多くのものが優れた魔導士である。普通の食事をとることもできるが、断食をすればするほど魔力が高まるといわれている。


「お待たせしました、まずはサラダです。」


 ウェイトレス担当のアイシーンが、サラダを給仕してくれた。

 アイシーンは魔族の女がもはや露出狂なんじゃないかと思うくらい肌を見せる格好をしており、局部を一匹の太い蛇で隠しているだけだった。しかも両指の先からも蛇が生えていて、今回はその蛇を長く伸ばして、サラダをみんなに給仕していた。


 アイシーンも大人の雰囲気を出す美人ではあるが、正直、蛇が怖いし気味が悪い。

 というか蛇の手で食べ物を持ってくるなよと鋼華は心の底から思った。


「見た目は普通のサラダだが。」

 持ってこられたのは普通のシーザーサラダだった。


「グリーンサラダの魔王風でございますよ。」

 食べた結果も普通のサラダである。うまくもまずくもない。


「次はウミガメのスープでございます。」

 アイシーンは次にスープを持ってきた。やはり蛇の手を使って。

 スープといってもさらに入ってるのではなく、生ビールの大ジョッキのような

 金属のコップに入れられて給仕された。


「わしはこのウミガメのスープが大好きでしてねぇ。」

 よりにもよって、亀のミネがそういって一気に飲み干す。


(いいのか?共食いだぞ?)


 ウミガメのスープは確かにおいしかった。

 このスープが実は人肉のスープでないことを祈るばかりだった。


 その後も3品ほど料理が提供されるも人肉料理は出なかった。


「さぁいよいよ、メインデッシュでございます。」


 そういって、アイシーンが持ってきたのは何らかの肉の焼きものであった。

 香ばしいにおいが、あたりを覆い、においの時点でおいしそうではあったが、

(いよいよ人肉だ…、どうしよう、おなかが痛いとか言って逃げ出すか。)

 鋼華の胸中は穏やかではない。


「あっ、これはもしかして。」

 ルーシアとピアニッシモは同時に声を発した。


「いただきまーす。」

 そして、自分の前に出されるや否や、素手でつかみ食べ始めた。もっとも食卓の上にはナイフとフォークなどというものはないので、先ほどからすべて手づかみなのだが。


「うわぁ、この口の中に入った瞬間に広がる香りと、絶妙な歯ごたえ。私大好き―。」

 ピアニッシモがグルメレポーター張りのコメントを言いながら食べ続けている。


 つづけて、ミネも口をつける。

「これは、あれですな。アサマ連邦の周辺でとれる空を飛ぶ牛フライングコーの肉ですな。最近は人間による乱獲で数が激減してる聞きましたが、久々に食べるとやはりうまいですなぁ。」

 亀のミネは、非常に楽しそうに講釈を垂れている。


「えっ、牛?」


「おや、ゴーガ様はご存じありませんかな?フライングコーです。」

 ミネから牛だと聞いて、鋼華はほっと胸をなでおろした。


「あぁ、てっきり人肉かと。」

 といった瞬間、どっと全員から笑みがこぼれた。


「あはは、ゴーガ様!人肉なんてそんな美味しくないもの、この食卓に並べたら、キッチンオークは処刑ものですよ。」

 蛇のアイシーンがそういって、笑った。


「人肉ってまずいよねぇ、あんなの食べるの雑食のドラゴン位でしょ。ってヴォーグ様に怒られちゃうか。」

 ルーシアは人肉を馬鹿にするように笑っている。


「ヴォーグちゃんだって、人間はよほどおなかすいてなきゃ食べないわよ。あの子はね、クジラが大好きだからね。今日もクジラを食べてるわよ。」


 アイシーンは、竜団長をちゃん付で呼んでいる。いいのか、たかがウェイトレスが団長をそんな呼び方してと鋼華は思ったのだが、それ以上にクジラとか食べるんだなと意外に思った。


「そうか、人間を食べたりしないんだな。」

 心の底から、鋼華はほっとした。しかしほっとした顔が、違う様に受けられたようだ。


「魔王様、残念そう…。よかったら今からお持ちしますか。」

「いや、そういうことではない!あんなまずいもの絶対持ってくるなよ。」

 アイシーンの申し出に対して、全力で鋼華は否定した。

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