第28話「発端」
勇者アサヒは、アサマ王国生まれの勇者であり、1年前ミネがおさめていたアサマ連邦のミハラ砦をあっさり陥落させたことで有名である。
彼の年齢はすでに42歳であるが、母親がハイエルフであるので、非常に若く見え、見た目的にはまだ20代前半くらいである。したがって、肉体的にも魔力的にも今が全盛期といっても過言ではなかった。
アサヒには、信頼できる仲間が3人いた。
アサマ大陸一の力持ちであると名高い戦士のホップ
そして、5年連続アサマ総合格闘大会の優勝者で武闘家のドライ
アサマ魔法学院大学助教授のスターチである。
スターチは32歳の女性で、大学では結婚したい先生ベスト10に入っていたが、最近はそれもあまり言われなくなり、責任をとって勇者にもらってもらおうと思っている。他の2人はむさくるしい男なので説明は割愛する。
ミハラ砦攻略もこの3人で行い、ミハラ砦攻略後は、比較的魔族の多い各地域を巡り、沿岸などで魔族狩りを繰り返していた。
その行為に対してかつて新聞記者たちがインタビューをアサヒにし際には、
「いやあ、レベル上げ大事っしょ!」と答えるのみだったという。
半年前、オリオンがシャフト大統領選に出るというので、応援をするためアサヒはしばらくシャフトに滞在していたが、新聞の報道等がおかしいことに気づき、独自に調査をしていた。
結果として、シャフト中枢部に魔族の関与が認められ、もはやどうにかできるレベルではなかったので、いち早くアサマに帰還して、その件を連邦のフジ総司令官に報告し、そして次のように進言をした。
「もし平和民主党が勝利し、魔族と融和政策をとるようであれば、このときはもはやシャフトが、魔族の
「しかしその場合の問題は、デザスだな。シャフトに同調してこちらと戦う可能性はないのか。」
司令官のフジは、やはりシャフトとの約束が気になっていて、その際こう返していた。
ちなみにアサマは軍事国家であり、総司令官であるフジは同時にアサマの国家元首を務めていることにもなる。
「デザスも魔物の脅威にさらされてる国家です。平和党が魔族による傀儡とわかれば、こちらに協力してくれるでしょう。ある程度根回しはしています。」
「それでも、歴史的に仲が良くないのは確かだ。」
「もし、平和党が勝った場合には、オリオンをデザスに亡命させましょう。うちよりも科学技術が進んでいますし、オリオンなら現状のシャフトの危機を説明しながら。我々アサマとの仲介をうまくやってくれるでしょう。彼は、なかなかの政治家ですから。」
「…うむ。もし、シャフトの技術が魔族に渡れば大変だしな。宣戦布告した場合軍の指示はもちろん?」
「…もちろん勇者である私アサヒが行います。最小の被害にてシャフトを制圧して見せます。」
「心強いな。」
「お任せください、こんな時のためにレベル上げをしておきましたから。」
そうして、鋼華が転生してきてからちょうど一年がたった9月11日に、勇者アサヒはシャフトに対して宣戦布告したのである。
<コルド帝国>
「アサマに宣戦布告するのか、ベベル?」
「はい、魔王様はそう申してます。」
「なぜ。」
「…理由が必要ですか、コルド?すべては私とあなたの未来のためです。」
「あい、わかった。」
ほぼ即答でコルドは返答し、すぐさま、アサマへの進軍の準備を始めた。
<本国メンフィス>
「やっと出番ですね、ダンヒル。」
「…あぁ、それにしても急だ。」
「何でも、アサマがシャフトに宣戦布告したらしいですよ。」
「関係ないのでは?」
「いえ、どうもアサマとデザスで密約の動きがあるらしく、我々がデザスをけん制することで、デザスがシャフトに介入するのを防ぎたいということです。」
「そうか。」
「そうです。」
「場合によっては暴れて、デザスをつぶしてもいいのか。」
「…うーん問題ないでしょうがいけますか?」
「メンフィスに残る軍勢が5万…。デザスにもってていいのは最大で4万ってとこか。」
「対するデザスの兵は50万ですよ。ドラゴンがほぼシャフトに向かってしまった今、どうやってぶっ潰しますか?私は逃げたいですね。」
「うーむ。むずかしいな。本当に足止めしかできない。」
単純計算した場合、大体魔族一人で人間の兵士5人分と考える。ただしこれはオークで換算した場合であり、ダンヒルやクールの部隊なら、10人分と計算してもおつりがくる。よって、50万VS40万の戦いなので、ほぼ戦力は拮抗している。
もちろん机上の空論だが、単純計算でも一気にデザスを攻めるのは難しいとクールもダンヒルも考えた。
「久々に、暴れられるので、魔導部隊としては少しうれしいですね。」
「分からん、まだ、戦いになるとは決まってない。待機で終わるかもしれんぞ。」
<コルド帝国内ファウスト>
一報を受けてから30分後、ファウストから迎えに来たヴォーグに乗って鋼華は、リゾートから要塞まで戻ってきた。
「すでにエコーは、空中部隊を率いて、シャフトに向かいました。」
ミネが現状を報告する。
「到着まで、あと12時間ってところか。」
「アサマ帝国は宣戦布告と同時に、アサマとシャフトの間にあるフロンタル海峡の内にあるシャープ諸島に上陸したそうです。」
と、ホットパンツに、丈の短いミリタリーージャケットを羽織るというピアニッシモに似たスタイルの女子が報告をしてきた。ピアニッシモよりは胸部に膨らみがあるようである。
「君は?」
「はい!情報部隊の副隊長のシトラスです。」
「さすがに、私ひとりじゃ情報をさばききれないので、主に現場からの情報はシトラスに伝達してもらいます。ピアニッシモは、主にゴーガ様の命令を舞台に伝えます。」
ピアニッシモは、一報を受けてすぐさまシトラスに砦に待機するように指示していた。
「それにしても、アサマ軍はどうやってシャフトを攻略するつもりだ。防衛隊の艦艇は少なくとも30はある。ほとんどが木造艦艇だが、そのうち5はあのドラゴンの炎を防ぐ特殊装甲が施してある。」
ここに来るまでにもし鋼華がアサマ軍ならばと考えたが、あまりいい手段を思いつかなかった。
「それに、例のオリオマイト榴弾がほぼ完成しましたからね。敵の艦艇も10㎞以上は近づけません。」
ママオラ海峡の監視台を吹っ飛ばしたあの爆弾である、その威力を目の当たりにしているピアニッシモがそう言った。
さらに上空に対する敵には、オリオン弾の集中砲火が待っている。
鋼華の考える限り、防衛隊の艦艇は「無敵艦隊」なのだ。
「魔族と同じように、投石とうずしお作戦ではないので?」
ミネがそのように発言した。
またこの馬鹿亀がと思いながら、やれやれといった感じで鋼華は答えた。
「あれは、こちらの部隊が高速飛行できるからできるのだ。あとうずしお作戦も、奇襲だから成功した方法だ、わかっていれば、魔導部隊を近づかせなければいいだけだ。」
このカメをそろそろ解任して、違うやつを軍団長にしたいなぁと心から鋼華は思っていたが、部下からの信頼は厚く、またこの軍団のことは把握が難しく、ミネ以外に熟知してるものがいるとは思い難い。
そしてここで、さらに予想外、いや予想できたが起きてほしくなかったことがシトラスから報告された。
「…シュタント軍が、コルド国内に上陸しました!!」
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