第29話「開戦」

「くっそ、最悪だ。シトラス、数とかはわかってるのか?」


「そ、それが‥‥。コルドの情報部隊の話では1000に満たないそうです。」


「…1000だと?なめてるのか。」


 いくらシャフトへ援軍を出すために戦力が低下してるとはいえ、1000以下の兵士で何とかなるほど手薄にしていない。エコーの部隊は、30000ほどの大部隊を率いてシャフトの援軍に向かったが、まだ70000の兵がここファウストおよびコルド国内には待機していた。ミネの部隊が中心なのでいささかザコ感は否めないとしても、1000で攻めてくるには無謀すぎる。

 

 現在魔族総人口は、27万人で、一年前より2万人も増えている。そのうち戦闘員になってるのはおよそ15万人。(非戦闘員の妊娠中の女子、子供、サキュバス隊などを除く。)兵士のうち、10万人がコルド帝国ないおよびファウストに配置され、

 50000人が本国メンフィスに配置された。

 極端にメンフィスを軽視した部隊配置であった。


「ま、それは朗報だな。1000ならばコルドの兵でも十分対応できるだろう。一応ミネの部隊から、援軍を出してやれ。ファウストの警戒も怠るな。それが陽動である可能性の方がはるかに高いからな。」


(さて、僕はどうするべきか…。)


 万が一ということもないだろうが、あまりファウストにいたくなかった。それに、やはりシュタントの攻防が鋼華には気になっていた。まったく、敵の攻めパターンが見えないので、対応するためには現場に行って、それを見て対応を考えたい。


正直なところ、エコーはミネより頭が回るとはいえ、信頼できるほどの能力はなさそうだと鋼華は考えていた。


「ヴォーグ!シュタントに飛ぶぞ。」


「えっ!はいぃー!」


「ピアニッシモもだ。」


「…りょ、りょうかいですぅ!」

 急な提案にびっくりする二人。

 そして、ピアニッシモはすぐさま、シトラスに何かを指示していた。


「魔王様、またしても自ら行くなどと。」

 ミネが心配そうにおろおろしている。


「心配しなくても昔から私ははこうだっただだろう?」


 もちろん昔のことなどは知らなかったが、さすがに以前の魔王がどういう性格だったかは理解していた。

(もっとも、お前らが頼れるならば僕は動かなくていいんだけどな。)


 ミネはこくりとうなずいた。


「あと、ケントにファウストの指示は任せる。できるな?」


 ケントは魔導軍団の副団長で、クールの代わりに半年前からここファウストに派遣されてきた。

 

 銀髪で肌は褐色ですらっとしており、全身真っ白なスーツを常に着こなしていた。

 ダークエルフと人間とのハーフらしく。魔力は高く、頭の切れが良くて、そして、魔王に対しても忌憚のない意見を言うので、鋼華の一番のお気に入りであった。

 

 二人で酒を飲みながら、戦術論、戦略論などを語り合うことも多く、いわば鋼華にとって友達に近かった。


「…任せてください。」

 そして、すごく小さな声で鋼華の耳元で

『ノロマには任せられませんものね。』

 といった。

 鋼華は小さく笑って返した。


 こういう場合、上役であるミネの立場を気にしそうなものだったが、ケントはそういう性格ではないようだ。


「ミネは、自らシュタントの兵のせん滅に当ってほしい。物足りない相手だと思うが頼んだぞ。」


「…はい。」

 ミネは決した態度にあらわさないようにしながらも、不満を隠しきれないような顔でそう返した。


「では向かおう。」




 <フロンタル海峡にて_、9月11日午後18時12分>



 ズドーーーーーーーーーンッ!!


 ボゥグガガガガガガァァァ――――ーーー!!


 鋼華がファウストを飛び立って、4時間後。


 アサマとシャフトの間にある、フロンタル海峡では砲弾が飛び始めいよいよ、シャフト軍とアサマ軍の戦争の火ぶたが切って落とされた!


 後にこの戦いは「フロンタル海峡の海戦」と呼ばれ、いわゆる世界大戦のきっかけとされるようになる。


 しかし鋼華の予想通り、アサマ軍は苦戦を強いられていた。超強力な長距離射程をもつシャフトの防衛艇に対して、アサマ軍の艦艇はなすすべがなく、射程内に入った瞬間、オリオマイト榴弾が撃ち込まれ、命中したアサマ艦艇は大破していた。

 開戦してから30分で50艇あるアサマ軍の艦艇は5艇も失っていた。

 一方のシャフトの防衛隊は無傷である。



 そして、アサマの勇者アサヒは、上陸していたシャープ諸島でこの戦況を見守っていた。

「予想以上にオリオマイトは強力ですね、勇者アサヒ…。」


「全くやっかいなものをオリオンは残していってくれたよ。」

 ピンチでありながら、勇者アサヒは余裕の表情であった。


「ある程度の覚悟はしていましたが。」

 覚悟があったとはいえ、開発班のの兵は浮かない顔であった。

 建造に半年、破壊に30分、開発部隊はなんともやりきれない。


「ま、情報によれば、オリオマイトを使うのはたったの5艇らしいし、それさえ何とかすりゃいいんだろ?」

 アサヒは、任せなとばかりに開発班の兵に向かって胸を張った。


「そろそろ私たちの出番かしら。」

 魔法使いのスターチがそういった。


「あぁ、あまり無駄な被害を出すもんじゃない。勇者の中でも最強とよばれてるこの俺の力、存分に見せつけてやるぜ。」



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