目が覚めたら魔王だったのでながれのままに魔王やってみた

ハイロック

「戦わない魔王」編

第0話 「魔王」

「…起きてください」


「…ゴーガ様、起きてください」

 

「よかった、急に意識を失ったかのようになったからどうしたのかと思いました。」


 田中鋼華タナカゴウカが目を開くと、目の前には肌の色が極端に白い、むしろ青白いともいえる位で、スタイルの良い女がこちらの顔を心配そうにのぞき込んでいた。鋼華はその女の胸にまず思わず目が行ってしまった。


 非常に大きい胸部を半分以上さらすような服装をしている。体中のほとんどが露出されており、大切なところだけは隠されてるが、それはかえって色気を強調している。


 よく見れば尻尾と耳が生えており、いわゆるサキュバスみたいなコスプレをしている。


「どうしたんですか、急に黙って私の胸じっと見ちゃったりして、魔王様ったら、もう」

 半裸の女はさして恥ずかしくもなさそうにそういってきた

 たしかに、鋼華は状況が呑み込めずジーっと胸を見つめる形になってしまっていた。


(……魔王様だって?)

 魔王と呼ばれるとはどういう状況だろうかと鋼華は酔っぱらっている脳を回転させ始めた。


(いつのまにコスプレキャバクラに来てしまったんだろう。確かにさっきまで、サークルの飲み会で飲み過ぎたという気はするけど、まったく覚えてないのはやばいなぁ。キャバクラに行くお金なんかないのに。)


「魔王様っていうのは、僕のこと?」

 と声を発した瞬間、鋼華は自分に違和感を感じた。いつもより明らかに太い低い声だった、自分の声とは全然違う。


「ゴーガ様、何を言ってるんですか、もちろんわれわれの魔王様はゴーガ様だけです。それに僕なんて呼び方、どうしてしまったんですかゴーガ様」

 コスプレキャバクラのキャバ嬢の割にはずいぶん、本気な演技をするものだと鋼華が思ったとき、自分の腰あたりに違和感を覚えた。


(しっぽが生えてる……)


(それだけではない、頭にも何か違和感がある、何かが生えてる。他にも違和感ばかりで、体中がいつもの自分ではない。背中にも何か生えている気がする。)

 ふと手を見ると、明らかに鋭くながい爪が生えていた。手の大きさも本来の自分の2倍以上大きかった。

 さらに、その長い爪のある手を背中に回して、自分の背中にあった違和感の正体にも気づいた。


(これは羽か?)


 夢だと思いたいのだが、今のところ五感のすべてがはっきりしていて、それを否定せざるを得なかった。

 特ににおいだ、臭いとまでは言わないものの、なにか東南アジアでよく使われそうなお香のようなにおいがはっきりと鼻についた。

 

 (においまではっきりしてる夢があるだろうか?)

 

 さらに、先ほどまでは、目の前の半裸の女のせいが強烈すぎて目が行かなかったが、その女の後方に4人、いや4匹のなにかがいることにも気づいた。

 

 初めに目に入ったのは体長3mはあろうかという一つ目の巨人だった。

 

「……ひっ!?」

 気づいた瞬間、恐怖で鋼華は立ち上がってしまった。


「魔王様!どうしたんですか?」

 半裸の女が再びこちらに声をかける。

「――い、いやなんでもない。」

 鋼華はすぐに椅子に座り直し、落ち着こうとした。


(こ、これはマジのやつだ……。洒落とかどっきりとか、夢とかじゃないぞ。

 あの4匹の生き物を目にした瞬間の恐怖は、目の前に肉食の野生動物時と同じ、いやそれ以上の恐怖を感じる)

 本能的な恐怖を感じたのか、鋼華の心臓は急激のその鼓動の速度を速めた。

 鋼華は震えそうになる身体を必死に抑えていた。

(自分の変化といい、これはマジで転生したパターンじゃないのか? しかも、よりによって魔王に生まれ変わってしまったのか……)

 

 冷や汗をかきながら、

 あらためて、先ほどの4匹のモンスターを見回した。

 

 3m以上の大きさの巨人、目が一つしかない。


 いかにも魔導士といった風貌で、杖を持った緑色のスキンヘッドの男。


 2m位の大きさの直立する亀。


 巨人よりもさらに大きな真っ赤なドラゴン。


 ちょっと動物園では見かけないラインナップが勢ぞろいしていた。


(とりあえず、夢とかそういう可能性を一旦除外しようか。何せ魔王の周りにいるくらいだから、こいつらは相当強いはずだ。)


 万が一僕が魔王じゃないとばれたら、絶対に殺されると豪華は考えた。


 そして改めて、半裸の女を見ると、これまた間違いなく人間などでは、絶対にコスプレしてるだけのキャバ嬢などではなかった。

 顔は鋼華の好みで、目がぱっちりとしてるものの少しつり上げ系。スタイルもすごくいいが、まず肌の色が青白すぎて、人間の色を感じさせない。

 さらに、全体的には筋肉質で、すぐに人を殺せそうな迫力がある。

 当たり前なのだがこの女も魔族なのだろう、改めてみて鋼華はそう感じていた。

 

 魔王とこの距離にいるということは、愛人的なポジションだろうか。

 まずは情報を整理することが必要だと鋼華は思った。


「……す、すまん、少し体調がよくない。みんな下がってもらっていいか」


 鋼華は全く状況がわかってなかった。ゆえに普段魔王が、まずは危険な連中からは距離を置いていろいろ思案したかった。

 このままこの連中に質問されたりしたら、うかつな発言をしかねず、それよりはまずいったんこの場を離れたいとそう鋼華は判断した。


「魔王様……!?どうなされたので」

 魔導士風のモンスターがひどくうろたえている。


「ぐおおおっ、魔王様ぁ」

 ドラゴンは、ものすごい大きな声をあげて、目にすこし涙を浮かべていた。


「それでは今日の会議はここまでということですなぁ」

 亀風の生物は、老人といった感じのしゃべり方をする。鋼華この4匹の中でも最年長なのだろうと察した、亀ということもあった。


「……」

 一つ目の巨人は、何も言わず頭だけを下げ、すっと後方の闇に消えていった。


 

「何、心配はない。君だけは残ってくれ」

 鋼華は半裸の女にそう告げた。

 そうしてこの場から4匹素直に要求に応じてこの場を去り、半裸の女だけがこの場に残った。


「ゴーガ様いったいどうされたのですか?」

 半裸の女も心配そうに鋼華を見つめてくる。 

 鋼華はまずこのサキュバス風の半裸の女と向き合わなかればならなかった。

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