第23話「魔団長たちの憂鬱」

 選挙戦を行っていた6か月間、六魔軍達が何もしてないわけではなかった。


 まずコルド帝国にあるアリベシ地方の要塞ファウストでは、連日シュタント攻略のための会議が行われたびたび作戦を実行していた。

 

 ここでおさらいをしておくと、魔族たちのシュタント攻略の目的はシュタントにあるといわれてる神々の遺跡(鋼華がでっち上げた)を探し出し、魔王の力を封印してる何らかを何とかすることである。

 もちろん、すべてでっち上げによる情報なので、内容そのものがふわっとしている。


 くわえて、鋼華はこの作戦にもちろん興味がない。というより、シュタントに攻めこんでもらっては困るのだ。よって、シュタント攻略戦には口を出さずに、ミネとエコーに任せるという体制をとっていた。


「本来軍団長っていうのは自分の指示で動いてなんぼだ、わかるよな?ミネとエコー」

「そうですな。」

 陸海軍ミネはわかったかのようにうなずき

「は、はい。その通りです。頑張るますです。」

 空魔団長エコーは緊張していた。


「俺の指示は、なるべく兵を傷つけずにシュタントの遺跡を探せ。だ。」


「はい。」「承知しました。」


 実はこの課題は非常に難しい。シュタント帝国には4本のバリアの塔による結界が施されていて、魔族に効果的だ。とくにミネやエコーの弱い軍団では近づくことすら容易ではない。攻略には人間の部隊、つまりコルドの軍団を利用するしかないのだが、鋼華はそれを許可しなかった。


 二人の軍団は何度かシュタントに乗り込み、突破を試みたが、いずれも失敗し、撤退している。実は被害を恐れず物量により、バリア内に兵をおくり込めば、被害は出るものの破れないバリアではないのだが。

 しかし、なるべく兵を傷つけるなという命によりそれができずにいた。


「ま、それでも他に方法はあるんだけどね。教えない。」

 鋼華は実はバリアの塔の欠陥に早々に気づいていたがあえて言わなかった。


 鋼華は何をしていたかというと、基本的にはルーシアとイチャイチャする日々だった。あるいはプロデューサーとして、魔界エンターテイメントエロカワ音楽ユニット

「サーキュレート」の活動をしていた。


 作曲できる人間を探し、作詞を自分で行う。衣装合わせとか、プロモーション戦略とかも大切だ。そちらの活動がメインだった。

 

 そしてあまり本国メンフィスに帰りたくなかったので、コルドのアリベシの開発をすることにした。

 温泉の発掘を行い、スキー場の整備を行い、さらにそこに豪華なホテルを作って、大型リゾートを作ることにした。リゾートホテルの最上階でのんびり過ごす予定だ。


 幸いダンヒルの部隊にいる巨人族の土木能力は高く、温泉の発掘やスキー場の整備、ホテルの基礎工事や骨組みづくりはびっくりするくらいスムーズだった。内装にはコルドクーデターの義勇兵だった奴隷たちを使った。


 もはや仕事的には魔王ではなく、地方の敏腕社長という状態だった。


 そういえば、最大の目的は現実世界に戻ることだったのだが、特に手段が思いつくわけでもなく、何らかの魔女や神が現れて、自分にヒントを与えたりもしなかった。

 もし魔王を討伐することが、帰還の条件ならすでに詰みである。


 また、もっぱらルーシアのせいだが、べつにこのまま魔界で過ごすのも悪くないなと思っていた。



 一方、本国にいる力の軍団長ダンヒルと魔導団長クールは何をしていたかというと、基本的には本国メンフィスの西にあるデザス王国に対する警戒である。

 

 デザス大陸の最もメンフィスに近い半島に、ダンヒルの部隊が要塞をつくり来るべき、デザス攻略の際に活用するというのが命令だった。


 まずはその半島のデザスの勢力を掃討しなければいけないが、これはドラゴンの攻撃や、魔導軍団、巨人の圧力であっさりと達成した。そこで簡素な砦は作った。

 

 しかし、本格的な要塞づくりが難しかった。

 

  砂漠の国であるデザスでは、まず木材が不足していること、それから石材も要塞を作るには足りないので、外部から持ち運ばなければならない。グレートシャークという大型のサメで運搬してもいいが数が足りない。

 どうしても、船を作る必要があった。


 魔物らしく人間から船を奪えばいいのだが、空中部隊はメンフィスではなくファウストにほとんどいた。


「ゴーガ様、船を奪うので、空中部隊を送ってください。」と頼むも、

「ないなら作ればいいではないか。」と一蹴されたのだ。


 そこで、クール率いる魔導軍団が先のママオラ海峡戦で手に入れた艦艇を研究し、設計図を作り、それを受けて、ダンヒル軍団が建設に当たることになった。そして何とか完成のめどが立ちそうだった。


 ある時、クールとダンヒルは2人で飲んでいた。


「なぁ、ダンヒルさんよ。俺れの仕事ってこんな感じだっけかなぁ。」

 クールはサボテン酒をあおりながら、ダンヒルに愚痴っていた。


「あぁ、もっと戦いに明け暮れてたはずだな。」


「はい、たんこぶイルカの姿焼きだよー。」

 アイシーンがダンヒルに、1m位の大きい焼き物を持ってきた。

 ちなみにクールは酒を飲めるけど、何も食べない。


「おれらは、最近頭脳労働ばかりで、ストレスがすごいよ。」

「…私のところは結構工作好きが多いから、それなりに楽しそうだな」

「なんだっけ、スキー場だっけ?つくらされてるらしいじゃないか。」

「‥部下の話じゃスキーって結構楽しいらしいぞ。」

「あと温泉だっけ?」

「これも、最近地下から湧き出てきたんだが、部下の話じゃ気持ちいいそうだ。」

「なんか、リゾートってのができたら、定期的に休みとってリゾートにいっていいんだってさ。」

「…休みって考えがよくわからぬ。」

「ただでさえ、最近暇だ。」

「…クールは戦闘がしたいか。」

「そらあ、そろそろ派手な魔法をガツーンとぶっぱなしたい。」

「…俺らの軍団は、なんかこういうのもいいなぁって言ってるんだ。建物作ったりが楽しいらしくてな。それが終わった後にキューっと酒を飲む。そしてサキュバスに会いに行く。」

「ははは…なんだよそれ。」

「なんなら今サキュバスのために、可愛い家を作るのがはやってるぞ。」


 ダンヒルとクールは古くからの付き合いで軍団の中でお互いに最も気が合った。

 お互いに久々に酒を一緒に飲んだのだが、これ以降選挙戦が行われてる間、割と頻繁に会って飲むようになった。

 そのくらい暇だった。


「変わったよなぁ、魔族。」

「あぁ…。」








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