24
地平線の向こうに陽が沈んだ。
その日、ジノが
砂地に足を着き、
聖十字石は腰上の高さにふわりと浮き、青白い十字の輝きを放つ。
翌日の競箒は、この場所からの開始となり、僅かでも距離を誤魔化さないようにするための措置である。
その光を背に、ジノは休める場所を求めて移動した。
小高い砂山を一つ越え、良さそうなところを見つけ、背嚢を下ろした。
縛っていた口を開け、中から分解された簡易天幕を取り出し、魔法の力で組み立てる。
人一人分が寝られる空間しかない、本当に狭い天幕だが、夜の砂漠の寒さを凌ぐには十分だ。ジノは中に入り、背嚢と箒を隅に押しやって、飛箒帽と飛箒服の上だけを脱ぎ、横になる。
今のうちに何か食べておく必要があったが、今日は飛ばしすぎた。しばらく何もしたくない。
開けたままの天幕の入口から覗く夜空を眺めていると、飛箒帽から声がする。
『ジノ……ジノ、聞こえるか?』
ソルドだった。ジノは慌てて体を起こし、飛箒帽を被る。
「は、はい! 聞こえます」
『今日はよくやった、とは言い難いが、無事で何よりだ』
「す、すみません……」
ジノは伝心石越しに頭を下げる。
『わかっているならいい。それよりも今後についてだ』
ジノは居住まいを正した。
競箒中、ギルドマスターは関与できない規則であるため、競箒終了後から次の競箒までの空き時間で作戦や戦術など、次競箒の打ち合わせをする。
本来ならアリスたちと一緒に聞くはずだが、今は一人。ギルドマスターと一対一で話をすることに緊張を覚える。
しかし、ソルドの次の言葉で、そんなモノは吹き飛んでしまった。
『現在、我が「アマーリオ」は第二位に付けている』
「えっ!?」
『「ノッティーユ」に次いでだ。アリスたちが頑張ってくれたおかげだが、その代償は少々高い……私の言っている意味がわかるな?』
「……はい」
自分が〝
『今、お前は七〇〇位前後の位置にいるが、ジャンビルの谷で強制転送された者たちを差し引けば最後尾に近い』
「……」
『七日目で合流しろ。できなければ三人での
それは最終通告にも等しい。
ここで棄権しても、『アマーリオ』の順位には関係ない。
また、無事に完箒することができたならば、九日目以降の競箒で再びアリスたちと共に飛箒できるが、彼女たちやソルドら『アマーリオ』関係者からの信頼を失ってしまうことになるだろう。
それは、今後の飛箒士人生に大打撃を与える事態だ。
もう二度と正規飛箒士として使ってもらえなくなるならまだしも、下手したら解雇ということにもなりかねない。
誰もが納得する結果を出すしかないのだ。
「必ず合流してみせます」
『期待している。くれぐれも体調管理は怠るなよ』
「はい」
そこで伝心は終わった。
「あと二日間……」
後のないジノにとって、厳しい競箒になることは言うまでもなかった。
翌朝、夜が明ける前に目を覚ましたジノは、競箒の準備に取りかかる。
天幕を背嚢にしまい、パンと干し肉とミルクという簡単な朝食を摂り、準備運動をする。
広大なアロタオ砂漠の朝は寒くて、しっかりと動かしていないと凍えてしまうので、入念に行う。
それから命綱ともいえる箒の感触を確かめる。
昨夜、寝る前に自分で調整を済ませた。
穂の開き具合によって直線重視か曲路重視に仕様を変更することができるが、これから飛箒するのは遮蔽物のない場所であるし、先行するアリスたちに追いつくには直線重視しかありえない。
普段よりも三分の一ほど窄められた穂をなめ回すようにして見たあと、聖十字石の元まで向かった。
「えっと、ジャンビルの谷がこっちで、太陽はあっちから昇ってくるから……」
ジノは慎重に進行方向を確認する。
飛箒する上で遮蔽物がなく、高度もある程度気にしなくてよい点は有り難いが、方角を見誤りやすいのが、このアロタオ砂漠最大の難点だ。
一応、魔法羅針盤を持参してもよいことになっているが、そこかしこに漂う魔素が乱れており、あまり役に立たない。
なので、太陽を目印に飛箒するしかない。
基本、西から東へ向かうのだから、昼までは太陽に向かって、午後は太陽を背に行けばよい。ただし、間違った方角に進んでいたら、それまでである。
仲間がいれば声を掛け合ったりして修正することもできるが、今は一人である。全て己でなんとかしなくてはならない状況は、心細くてしかたがない。
それでも逃げ出すわけにはいかない。ジノは日の出と同時に飛び立てるよう、箒に跨がって昇る太陽を待った。
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