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(とは言ってみたけれど……)
紡錘状となった〝
さらにその後ろには〝
そして最後方に『アマーリオ』が控える。
ウーゴとオッジの二枚の風除けに守られ、アリスが最後尾を務める。
いずれもその名を馳せる強豪ギルドばかり。
数的不利にある『アマーリオ』の分が悪いことは否めない。
この〝鎖〟はギルドごとに〝風除け回し〟を行う。
上から狙ってくる砂ゴブリン対策だ。矢雨に見舞われたら、ギルドごとに散開し、やり過ごす約束を最初に交わした。
また、頃合いを見て仕掛けるにしても、ギルド単位のほうが都合が良い。
無論、
それでも、やるしかない。
仮にジノが合流できたとしても、消耗が激しすぎれば彼を切り捨てる覚悟だ。
――なに、別にお前の手を汚せと言ってるわけじゃない。ただ競箒で勝ってくれればいいだけの話だ。
不意に兄ブライアンの言葉が蘇る。
アリスは振り払うつもりで小さく頭を振った。
兄は昔と変わっていない。復讐心に身を焦がし、差し違えても事を成すつもりだ。
(やっぱり、止めるべきだったかしら……)
その片棒は担ぎたくないが、やはり
落胆の日々の中で、生きる希望として見出したのが飛箒士だ。その性には逆らえない。
だが、勝てば兄の思惑に乗ってしまうことになる。きっと兄自身を死に至らしめてしまう。
この二律背反のせいで、夜も眠れない。
勿論、競箒に支障を来すような事態を招いてはいないが、さすがに
ゆえに、尚更ジノの不在が悔やまれるのである。
アリス自身、主力飛箒士としての自覚はあるが固執するつもりはさらさらない。自分よりも速い者が現われ、『アマーリオ』が勝てるのであれば、喜んで譲る。
それがカルロの実子であり、〝ほうき星〟の使い手であるジノならば、最早、言うことなしだ。
実際、ジノを中心とした競箒戦略を、と昨夜ソルドに進言してきたところである。
ソルドは曖昧に返事をしたが、おそらく、彼の頭の中にはすでに練られた戦略があるはずだ。
そうでなければ、新人のジノを起用するはずがない。
だが、ソルドもこの事態は想定していなかった。
それでも何か良い知恵を授けてくれただろうが、競箒中、ギルド関係者が出箒者に助言できないという規則の前には、彼も無力だ。
(まさに八方塞がりね)
アリスが自嘲すると、フレデリクが右手を挙げた。
〝風除け〟を回す合図だ。
フレデリクが指で〝三、二、一〟と秒読みし、〝〇〟と同時に全体が反時計回りに入れ替わる。
左翼に移動した『アマーリオ』は、ウーゴを前に、最左翼となる左斜め後方にオッジ、その右側にアリスという布陣に組み変わる。
そしてアリスの右隣には、『ハインカーツ』の補佐飛箒士、ヨルダン・ベッカーが並んだ。
何故、主力飛箒士であるエイブラハムやセーラではなく、彼が『オルコック』の最後尾を務めるのかは、すぐにわかった。
ヨルダンは〝手話〟で「聞きたいことがある」と言ったのちに、他の誰にも悟られないよう個人伝心用の数字を示す。
アリスは無視しようとしたが、繋がなければ〝鎖〟を崩すと脅され、渋々応じた。
「なにかしら?」
『単刀直入に聞く。そちらの〝ほうき星〟は、先代の〝ほうき星〟と血縁関係にあるのか?』
それは昨夜、記者たちが散々ジノ本人に聞いた質問だ。
かつて、カルロ以外は、誰一人として〝ほうき星〟を発現させることができなかった。
魔力量に自信のある者が、魔力変換率の良い箒を用いてもかなわなかったのだ。
きっと特別な何かがあるのだという結論に至り、挑戦する者もいなくなった。
それを無名のジノがやってのけたのだ。
特別な何かは、血脈ではないか、というヨルダンの推測は正しい。
「違うそうよ」
だが、アリスは嘘を吐く。
ジノはカルロの子だということを公表していない。アリスだって、ソルドとオッジが話しているのを偶然立ち聞きして知ったのだ。
活躍しなかったとはいえ、二つ名持ちの父と比較されたくない。有名飛箒士を親族に持つ飛箒士にありがちな悩みをジノも抱えているのだろう。だから、アリスも秘密にしているのだ。
『そうか……でも、何か聞いているだろう? 同じギルドなのだから』
「いいえ、何も。もう切るわね」
食らいつくヨルダンをアリスはばっさり切って捨てる。
彼の二つ名を思い出したのだ。
〝ソードブレイカー〟。
相手の剣を受け止め、へし折るために使われた古代の武器にちなんで付けられた二つ名であるが、折るのは競箒相手の心である。
見つかれば即失格となる他ギルドへの個人伝心で、精神的に揺さぶりをかけてくるのも厭わない剛胆さに、これ以上付き合う道理などないのだ。
ヨルダンは大げさに肩をすくめるような素振りをしたが、〝鎖〟を崩すようなことはしなかった。
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