19
ジノが最後尾を捉えたのは、ジャンビルの谷に差し掛かったところであった。
大型の荷馬車が三台並んで走れるほどの幅がある谷底を、建物の一〇階分に相当する絶壁が挟む。
絶壁の上は砂ゴブリンや
今回の
しかし、谷底も決して安全ではない。砂漠の盗賊とも言われる砂ゴブリンが矢雨を降らしてくる。
また夜になれば、地中の人喰い
もし、抜けられなければ、安全面を考慮し、強制失格となる。
そうでなくとも記録的に足切りとなることが多い。
どちらにせよ、ジャンビルの谷を単独で
一列の〝
ジノは、その一番後ろに張り付く。
すると、気配に気づいた目の前の相手がギョッとなる。
――先へ行け。
〝
従い、ジノは目を凝らす。
五〇
(うーん……)
おそらく『アマーリオ』の飛箒服を見てビビったのだろう。
競わず、道を譲ろうとするのは、飛箒士としていかがなものかと思うが、下位ギルドの中には、記念参加しているギルドもある。
毎回、予選という分厚い壁に阻まれ、夢の舞台に立つことを許されなかったのだ。
無論、そのような実力では、この過酷な競箒を勝ち抜くことなど到底不可能である。
ならば、せめて楽しみたい。
そういった思いがあるのだろう。
ジノはコクリと頷き、右から抜いていく。
――武運を!
すれ違いざまに向けられた〝手話〟に、思わずクスリとしてしまう。
別に命の遣り取りをするわけではないが、戦いという意味では、あながち間違っていないのかもしれない。ジノは〝ありがとう〟と手を振って前方の〝鎖〟に繋がる。
やはり、目の前の名も知らぬ飛箒士からは驚かれるが、今度は譲られることはなかった。
先頭にいた飛箒士がジノの後方に付き、順繰りに〝鎖〟の先頭を交代していく〝風除け回し〟が始まる。
(とりあえず)
ジノは一つずつ前に行くのに身を任せながら、背嚢から
やはり味はどうしようもないほど不味いが、魔力が全身に染み渡るのを感じた。
すると、
『ジノ、生きてるか? 無事なら状況を報告しろ』
ウーゴからの伝心が耳に入る。
ジノは慌てて空瓶を放る。
「す、すみません! 報告するの忘れてましたっ!」
『お前なぁ……』
『よいよい。それで、今どの辺におるんじゃ?』
呆れるウーゴを遮り、オッジが柔らかく聞いてくる。
「えっと、先ほどジャンビルの谷に入ったところです。順位的には、最終より一つ前の〝鎖〟にいます」
『マジかよっ!? めちゃくちゃ後ろじゃねえかっ!』
『ふーむ、それはちと難儀じゃのう……』
「すみませんっ!」
謝って済むことではないが、他に言葉が見つからない。
何度も述べるが、競箒の順位を決定するのは、ギルドで最も速い者の記録である。
一人の
ましてやジノは〝ほうき星〟だ。『アマーリオ』にとって、強力な武器であるジノを切り捨てることは、なんとしても避けたいところである。
だが、アリスはあっさりと決断した。
『置いていきましょう』
『正気かっ!?』
『認めたくねえが、ジノは〝ほうき星〟を使えるんだぞっ!?』
『これはジノの自業自得よ。悪いけど、先頭の〝鎖〟にいる私達には、どうすることもできないわ』
「……っ」
確かにそうだ。アリスに気を取られて〝出だし〟を失敗したなどと口が裂けても言えない。
しかし、次のアリスの言葉は優しさに包まれていた。
『だから死ぬ気で追いついてみせなさい。それがあなたにできる唯一の償いよ』
「はい!」
〝風除け〟が回ってきたジノは、速度を上げた。
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