自身の執務室に戻ったソルドは、机の上に飾られた一枚の古い小さな絵――水晶を通し、光景を魔法で焼き付けた念画ねんがを眺めていた。


「また見ておるのか?」


 声の主はオッジだ。

 ノックもせず、勝手に入ってくるのはいつものことである。


「何かあったのか?」

「ダーニャが辞めたそうじゃ」

「……そうか」

「引き留めんでいいのか?」


 オッジが顎でしゃくった窓の向こうには、まとめた荷物を引きずりながら、肩を怒らせて遠ざかっていくダーニャの姿がある。


「彼女が決めたことだ。わざわざ私が口を挟むことじゃない」

「辞めたのがアリスかジノであっても、同じことを言うたかのう?」

「……」


「ほっほっほ! お前さんはわかりやすい……海千山千の出資者パトロンを相手に腹の探り合いをするには、ちと分が悪かろう?」

「そう思うならば、お前がギルドマスターをやればいいだろう?」

「バカを言うな! わしは生涯現役と決めておるんじゃ!」


 子供みたいに頬を膨らませるオッジには、実際、その力はある。

 老いてもなお衰えぬ魔力は、ソルドには羨ましい限りだ。


 すると、オッジの顔が急に曇り出す。


「……それがあやつとの約束じゃからな」


 視線は手元の念画へと向けられていた。


「約束か……」


 念画には、二十年前のルマディーノ杯で優勝した、今は無き飛箒ギルド『ピッカルーガ』の面々が写っている。


「……なら守らないとな」


 前列に並ぶ出箒者には、若き日のソルドとオッジ、そして優勝杯を無邪気に掲げるジノの父――カルロ・リーベンの姿があった。

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