27
バレ・ド・リュシュテリア、七日目の午後。
一昨日から続く
が、四人全員が揃う『オルコック』と『ハインカーツ』が有利との見方が強く、常勝無敗を誇る『ノッティーユ』の牙城を突き崩すのではないかと期待されていた。
「そうは問屋が卸さねえってね! フレデリク!」
アランの声に『ノッティーユ』の風除けを務めるフレデリクが人差し指を立てて応え、加速し、先頭の『オルコック』を抜く。
「けっ、ウッドフィールドの田舎者が、出しゃばってんじゃねえよっ!」
スカーフの下で唾を吐く勢いのアランは、〝
そのアランへ物申すとばかりに、左側から『ハインカーツ』が上がってきた。
「フレデリークっ!」
再度、自慢の風除けに指示を出すが、フレデリク当人は「無茶を言わんでくれ」と手のひらを振った。
王者といえども、一人足りない状況下であり、今日で長距離競箒が決するわけでもない。無理は禁物なのだ。
それでもアランは檄を飛ばす。
「『
『アラン、少し冷静になりましょう』
見かねたウスターシュが苦言をていしてくるが、アランは止まらない。
「うっせぇ! 俺たちに負けはねえんだよっ!」
ここまでの
だが、ウスターシュはなおも続ける。
『何を苛立っているんですか? まだ慌てる時間ではないでしょう?』
「イラついてねえよ! ただ、こいつらが目障りなだけだっ!」
『いいじゃないですか。彼らも明日の競箒が終わる頃には黙るんですから。華を持たせてあげましょう』
明日、長距離競箒の終着点の前でささっと抜き去ってしまえばいい。
それまでアランは温存に努めるように、というのがウスターシュの立案した作戦だ。
「やっぱ、今、ブチ抜いて差をつけておく方がいいんじゃねえか?」
『だめです。確かに、先行逃げ切りも悪くはありませんが、まだ彼が戻っていません』
「ロメオの奴なら心配ねえだろ」
『随分と買っているようですが、彼はこのアロタオを飛箒するのは初めてなんですよ?』
「ちゃんと
『そうですが、例の件のこともありますし』
それを持ち出されてはお手上げだ。
それでもアランは口を挟まずにはいられない。
「チッ、俺は反対だって言ったよな」
『今更、何をおっしゃるんですか? おっと、噂をすれば……』
ウスターシュがちらりと振り返ると同時に、アランの背後にロメオが付く。
『はぁ、はぁ、はぁ……』
『ご苦労様。早速で悪いんですが――』
ロメオの息が整うのも待たずにウスターシュは切り出した。
★★★
『くそっ! 帰って来やがった!』
『まぁ、若くとも〝ノッティーユ〟ということじゃよ』
ものすごい速度で抜き去られ、合流を果たしたロメオへ舌打ちするウーゴを、どこか達観したオッジが宥める。
「でもジノがいないわ」
二人の後ろにいるアリスが脇の下を覗くようにして後方を見る。
昨夜のソルドとの伝心では、ロメオと共に飛箒し、二五〇位まで上ってきたと聞いている。
勝手知ったるかつての学友同士、今日も手を取り合って競箒に臨んでいるものと思っていたが、ジノの姿がないところを見ると、何かあったのかもしれない。
『ジノ! おーい、ジノ! 聞こえてんなら返事しろ!』
ウーゴが伝心で呼びかけてみるが、返事はない。
さらにオッジとアリスも続けて呼びかけてみたが、やはりジノの声は返ってこなかった。
『……備えておいた方がよいかもしれんのう』
最悪の場合を想定したソルドの案である。
元より、そのつもりであったが、この段階での切り捨ては考えていなかった。
『でも、置いてかれちまうぞ』
今まで以上に魔力の配分に気をつけなければならないが、ウーゴの言うとおり、温存すればするほど他の三ギルドから離されてしまう。
「……」
八方塞がりな状況を何とか打破できないかと考えを巡らせてみるが、何も思い浮かばない。
すると、
『聞こえるか、〝アマーリオ〟。聞こえとるんなら、こっちに
『どうする?』
『わしは応じたほうがよいと思う』
尋ねるウーゴにオッジが即答した。
「……行きましょう」
一寸、躊躇ったが、アリスはエイブラハムへと柄先を向けた。
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