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それからティンバーレイク魔法師団の活躍は凄まじかった。
戦場を渡り歩き、劣勢の戦況もひっくり返し、加勢した軍に勝利をもぎ取らせた。
いつしか付いたあだ名は〝勝ち戦請負人〟である。
飛ぶ鳥落とす勢いはとどまらず、当時リュシュテリア最強と謳われたエンポリオ傭兵団にも打ち勝った。
そんなティンバーレイク魔法師団が、名実ともに頂点を極めた頃、チャーリーは団を離れた。
いよいよ計画を実行に移すときがきたのだ。
「――それがこのバレ・ド・リュシュテリアってわけだ」
賭ける前に、どうしていたのかを聞きたいとギュスターブに請われ、チャーリーことブライアンは応じた。
「そうか。それで何を賭ける?」
「……おい」
ギュスターブの問いにニヤリと笑みを返したブライアンは、部下に合図をだす。
頷いた部下たちは、テーブルの上の料理を払いのけ、代わりに大きな袋を置いた。
「この中には白金貨が四〇〇〇枚ほど入っている。これを俺は全額『アマーリオ』の総合優勝に突っ込む。勝てばウィルフォード商会を買う」
マルセルとクロエが息を飲むのが聞こえた。
大規模な不動産取引でも稀に見るか見ないかといわれる白金貨が、三〇〇〇枚も存在するのか。
そんな疑問を一蹴するかのように、ブライアンは仲間に袋を開けさせた。
袋の中には確かに白金色のコインが詰まっている。
「確かに、この額と倍率ならそれも叶えられるだろう」
ギュスターブが視線を階下の
『アマーリオ』の総合優勝の倍率は十八.二倍である。
現在、総合四位でありながら、手堅くない数字だ。やはり『ノッティーユ』に人気が集中しているからであろう。
「で、『ノッティーユ』が勝つとどうなる?」
「俺たちを官憲に突き出せ。そうすれば、二度とあんたらの前には現われんさ」
「それでは割に合わんのではないか? 儂らはともかく無関係の者たちまで拘束しておるではないか?」
「だから俺たちは極刑――死ぬまで牢獄だ。でも、そうだな、割に合わないってんなら、そこの伝聞屋に好きなように書かせればいい」
ブライアンが言い終えると、一階に続く階段から、リーチャとミックが姿を現す。
リーチャは事態が飲み込めず、おどおどしているが、ミックはどこか肝が据わった顔をしている。
「どこの馬の骨ともわからぬ、三流の伝聞屋に書いてもらってもな」
「お言葉ですが」
ギュスターブは鼻で笑うと、ミックが一歩前に出た。
「僕はミック・ヘンダーソン・フレイアレイと申します」
名乗りを上げたミックにリーチャがギョッとなった。
フレイアレイといえば、リュシュテリアにおいて、ウィルフォードに次いで大きな商会を取りまとめる一族である。
しかもミドルネームのヘンダーソンは、旧ウッドフィード王家の姓でもある。
「ミックっ! あんた、フレイアレイ家の人間だったのっ!? い、いや、だったんですか……?」
「今までどおりに接してください」
ミックは苦笑し、ぺこりとリーチャに頭を下げた。
「すみませんリーチャさん。容易にフレイアレイの名を出すことは禁じられていて……」
「いや、っていうか、なんでウチみたいな零細伝聞なんかに……?」
ミックは頭を上げたが、少しだけ照れくさそうに俯く。
「僕はフレイアレイ家の嫡流ですが、五男なんです。家は長兄が継ぐことになっていますし、僕自身、商才がないので……だったら大好きな競箒に携われる仕事がしたいなと思ったんです」
ミックは「生憎、魔法も使えないので……」と付け加えた。
「だったら、大会の運営とか協会とか、いくらでも入れたんじゃ……ああ、名前を出せないんだったわね」
「ええ。もちろん採用試験は受けましたけど、全部落ちちゃいましたから……」
「そっか。あんたも大変だったのね。これから良いことがあることを祈りなさい」
「慰められるとすごく惨めなんですが……」
「そろそろいいか?」
肩を叩くリーチャにミックが苦笑したところで、ブライアンが咳払いをした。
ミックは居住まいを正し、再びギュスターブに向き直る。
「僕では力不足かもしれませんが、この賭けに貴方が勝てば、意に沿う記事を書かせていただきます」
「わかった。期待しよう」
「ありがとうございます」
ミックが一礼したところで、ブライアンが手を叩く。
「成立だな。それじゃ競箒に集中するとしようか」
皆が投影像に目を向けた。
互いの運命を賭けた競箒は、最終周に差し掛かった。
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