52
泣いても笑ってもこれが最後の一周。
『アマーリオ』は、当初の予定を延長してまで風除けを務めたウーゴと、二番手のオッジが脱落し、アリスとジノの二人になっていた。
それは他も同様で、四名全員残っているギルドはいない。
そんな壮絶極まる
開始からの大逃げが功を奏したのだが、その代償は大きく、主力飛箒士ゲルハルトを残すのみである。
その隙を突こうと、王者『ノッティーユ』が
それから
さらに四箒身ひらいたところにジノたちはいるのである。
おそらくここからじゃ届かない。
ジノは感じ取っていた。
後ろに控えながら、『オルコック』に露払いさせていた『ノッティーユ』には、十分な余力があるだろうが、それだけじゃない何か、勝利への確信めいたものがあった。
二周ほど前に、眼中にない、と言わんばかりに自分たちをスルスルと追い越していったのだ。
競箒前に何か仕込んだのか。
いや、それを暴いたところで勝てなければ、ただの言い訳だし、ウィルフォードという巨大な後ろ盾の前では、もみ消されるのが関の山だろう。
とにかくブチ抜いてやるしかなく、そのためには、結局、ほうき星に頼るしかないのだが、
そうでなくとも、もう少し距離を詰めておきたい。
『ジノ。前に出るわよ』
勝つための最低条件である距離を考えてか、アリスが加速しようとする。
しかし、
『待って』
未だに併箒し続けている『ウルリーカ』のセルマから制止を喰らう。
ちなみに『ウルリーカ』は主力飛箒士と熟練
『なっ!? どきなさいっ!! 進路妨害は重大な規定違反よっ!!』
『違う。ここは
『そうね。ジノには〝飛箒王〟に勝ってもらいたいし』
「へ?」
セルマの後ろに付くバネッサが妙に殊勝なことを言うので、思わず振り向いてしまう。
『って、別に深い意味はないわよっ!? あくまで同級のよしみというか、あたしたち世代の代表っていうか、とにかくぶちかましてきなさいよっ!!』
『せやな』
『その話、わたくしたちにも噛ませていただきたいですわ』
前にいたエイブラハムがセーラを伴って、いつの間にか並ぶ。
「え? でも『オルコック』は……」
『確かに〝ノッティーユ〟と共箒って、けったいな契約はある……でもな、そんなもんクソ食らえや! 飛箒士の魂まで売り渡すほど、俺らは落ちぶれとらんで』
『テッテが言ってましたわ。〝星の人、最後、王様になる〟と。知っていますか? 彼女の予言ってよく当たるんですのよ』
『この前の長距離競箒を思い出してしまうけれど、二人とも魔力は大丈夫なのかしら?』
『心配あらへん! あと十周でも飛んだるわ!』
『〝銀嶺の魔女〟に気遣っていただけるとは光栄ですけども、わたくしも問題ありませんわ』
先ほどまでの虫の息な飛箒は、ブラフだったと思えるほど、二人はけろりとしている。
『あと途中で〝蒼の稲妻〟も拾ってええか?』
アリスとジノの前に並ぶエイブラハムが振り返ってくる。
『構わないけれど、戦力になるのかしら?』
『その辺は、正直はかりかねますが、連れていくべきだとわたくしは思いますわ。彼もやられっぱなしでは沽券に関わるでしょうしそもそも〝銀嶺の魔女〟が頼めば二つ返事だと思いますわ』
アリスの問いに、エイブラハムの前についたセーラが苦笑交じりに答えた。
『ま、わたしはどっちでもいいわ。要はジノを先頭まで送り届ければいいんでしょ?』
〝
『任せて。もし、ロメオが邪魔してきたら私達で潰す』
『ほな、俺らはウスターシュの野郎をやったるわ。あいつが全ての黒幕やからな』
「え? どういうことです?」
『終わったら全部話すさかい、〝ほうき星〟はアランを頼むで』
エイブラハムは、やや戯けた調子で手をひらひらさせる。
これも先ほどの話と同じだ、とジノは思った。
勝たなければ、明かすことは憚れるのである。
だから「はい」と力強く答えるのだ。
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