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 泣いても笑ってもこれが最後の一周。


 『アマーリオ』は、当初の予定を延長してまで風除けを務めたウーゴと、二番手のオッジが脱落し、アリスとジノの二人になっていた。


 それは他も同様で、四名全員残っているギルドはいない。

 主力飛箒士エース独箒どくそうしているところはまだ良い方で、完箒かんそうできずに終わったギルドも多数ある。

 そんな壮絶極まる競箒レースの先頭を行くのは『ハインカーツ』であった。

 開始からの大逃げが功を奏したのだが、その代償は大きく、主力飛箒士ゲルハルトを残すのみである。


 その隙を突こうと、王者『ノッティーユ』が追箒ついそうする。

 飛箒王ひそうおうアランを大事に守るように、ウスターシュとロメオが併箒へいそうして風除けしている。


 それから二箒身にそうしんあけて、『オルコック』の二大主力飛箒士が続くが、こちらは『ノッティーユ』から使い潰された所為で、魔力切れ寸前であった。


 さらに四箒身ひらいたところにジノたちはいるのである。

 おそらくここからじゃ届かない。

 ジノは感じ取っていた。


 後ろに控えながら、『オルコック』に露払いさせていた『ノッティーユ』には、十分な余力があるだろうが、それだけじゃない何か、勝利への確信めいたものがあった。

 二周ほど前に、眼中にない、と言わんばかりに自分たちをスルスルと追い越していったのだ。


 競箒前に何か仕込んだのか。

 いや、それを暴いたところで勝てなければ、ただの言い訳だし、ウィルフォードという巨大な後ろ盾の前では、もみ消されるのが関の山だろう。


 とにかくブチ抜いてやるしかなく、そのためには、結局、ほうき星に頼るしかないのだが、消魔病しょうまびょうかもしれないこの身体では、正常に発動させることができるか不安だ。


 そうでなくとも、もう少し距離を詰めておきたい。


『ジノ。前に出るわよ』


 勝つための最低条件である距離を考えてか、アリスが加速しようとする。


 しかし、


『待って』


 未だに併箒し続けている『ウルリーカ』のセルマから制止を喰らう。


 ちなみに『ウルリーカ』は主力飛箒士と熟練補佐飛箒士アシストが揃って脱落している。


『なっ!? どきなさいっ!! 進路妨害は重大な規定違反よっ!!』

『違う。ここは共箒きょうそうするべき』

『そうね。ジノには〝飛箒王〟に勝ってもらいたいし』

「へ?」


 セルマの後ろに付くバネッサが妙に殊勝なことを言うので、思わず振り向いてしまう。


『って、別に深い意味はないわよっ!? あくまで同級のよしみというか、あたしたち世代の代表っていうか、とにかくぶちかましてきなさいよっ!!』

『せやな』

『その話、わたくしたちにも噛ませていただきたいですわ』


 前にいたエイブラハムがセーラを伴って、いつの間にか並ぶ。


「え? でも『オルコック』は……」

『確かに〝ノッティーユ〟と共箒って、けったいな契約はある……でもな、そんなもんクソ食らえや! 飛箒士の魂まで売り渡すほど、俺らは落ちぶれとらんで』


『テッテが言ってましたわ。〝星の人、最後、王様になる〟と。知っていますか? 彼女の予言ってよく当たるんですのよ』


『この前の長距離競箒を思い出してしまうけれど、二人とも魔力は大丈夫なのかしら?』


『心配あらへん! あと十周でも飛んだるわ!』

『〝銀嶺の魔女〟に気遣っていただけるとは光栄ですけども、わたくしも問題ありませんわ』


 先ほどまでの虫の息な飛箒は、ブラフだったと思えるほど、二人はけろりとしている。


『あと途中で〝蒼の稲妻〟も拾ってええか?』


 アリスとジノの前に並ぶエイブラハムが振り返ってくる。


『構わないけれど、戦力になるのかしら?』

『その辺は、正直はかりかねますが、連れていくべきだとわたくしは思いますわ。彼もやられっぱなしでは沽券に関わるでしょうしそもそも〝銀嶺の魔女〟が頼めば二つ返事だと思いますわ』


 アリスの問いに、エイブラハムの前についたセーラが苦笑交じりに答えた。


『ま、わたしはどっちでもいいわ。要はジノを先頭まで送り届ければいいんでしょ?』


 〝チェイン〟の先頭は譲らないとばかりに陣取ったバネッサに、後ろのセルマも頷く。


『任せて。もし、ロメオが邪魔してきたら私達で潰す』

『ほな、俺らはウスターシュの野郎をやったるわ。あいつが全ての黒幕やからな』


「え? どういうことです?」 

『終わったら全部話すさかい、〝ほうき星〟はアランを頼むで』


 エイブラハムは、やや戯けた調子で手をひらひらさせる。


 これも先ほどの話と同じだ、とジノは思った。

 勝たなければ、明かすことは憚れるのである。


 だから「はい」と力強く答えるのだ。

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