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「おっと、ここで『ハインカーツ』が前に出るっ! ですが、ゴッドフリードは後ろに付けたままっ!」
「まだ、勝負所ではないということでしょうね」
「ですが、もう陽はだいぶ傾いていますよ? 日が暮れてからの飛箒は禁止というのが大会の規則では?」
「ええ。ですからあと四半刻で決めるつもりなのでしょう。あ」
「ここで『オルコック』が追箒してきたっ!! 並ぶかっ!? 並ぶかっ!? 並んだっ!! 『ハインカーツ』の逃げを許しませんっ!!」
「こちらもテンパートンとスウィングラーは温存していますね」
「はい! さぁ、この競い合いの勝者はどちらかっ!? あ、いや、まだですっ! 砂面をなぞる『ノッティーユ』とやや高度を取った『アマーリオ』も猛追していますっ!」
「二ギルドとも一人少ない状況なんですが、微塵も劣勢さを感じさせませんね」
「まったくです! その『ノッティーユ』と『アマーリオ』も並びましたっ! これはすごいことになりましたっ! 四ギルドが横一列っ!! 一歩も譲りませんっ!!」
「私も長年バレ・ド・リュシュテリアを観てきましたが、この状況は初めてですね。大変見応えがあります」
実況と解説の興奮気味な声が響き渡るのを聞き流し、ソルドは自室に展開した
互いに
「ほら、そこだよっ!!」
「いけっ! いけーっ!」
用もないくせに来ていたキトリと、己の職務を忘れているルチアが仲良くソファに並び、前のめりになっている。
ややはしたないので注意したほうがいいのだろうが、今、このときを一瞬でも見逃すわけにはいかない。
結成から一〇余年。
カルロの意志を継ぐと大見得を切ってみたものの、バレ・ド・リュシュテリアでの優勝はおろか、
それでも付いてきてくれた古い仲間や、若く新しい仲間に支えられて今日までやってきた。
そして、それが実ろうとしている。
無論、四日間の
しかし、
(頼むぞっ!)
もう
その想いを込めるかのように、ソルドの拳は知らず知らずの内に硬くなる。
と、そこで、
「盛り上がってるところを申し訳ないんだけど」
現われたのはリーチャ・サヴォナローラとミック・チェスターの二人であった。
リーチャは、かつて『ピッカルーガ』で苦楽を共にした仲であり、現在は記者をしている。ミックは彼女の助手である。
「取材ならあとにしてくれっ! というか、お前も応援しろっ!」
「いや、あたしは『アマーリオ』には一切関わってないんだけど……?」
投影像から目を離せないソルドに、リーチャが嘆息した。
「……出直したほうがよさそうですね」
ミックがリーチャに耳打ちするが、リーチャは首を横に振る。
「こっちだって遊びで来てるわけじゃないでしょ」
「ですが……あ、ちょっと」
記者を目指すにしては強引さにかけるミックを置いて、リーチャはソルドの目の前に立つ。
「おい、邪魔をするなっ! 今、大事なところなんだっ!」
「あたしだって大事な用を済ませに来たんだ。ほら」
鼻を鳴らすリーチャが、執務用の机に丸めた羊皮紙を放る。
「なんだこれは?」
「ヘンダーソンの爺さんからの
腕を組み、ふくれっ面になるリーチャは今も変わらず可愛いが、その名を聞いて背筋が寒くなった。
ジェームス・ヘンダーソンといえば、ソルドの一回り上の世代の
彼に憧れて飛箒士になった者は少なくはない。かくいうソルドもその一人である。
だが、今の彼は
「老人に好かれる趣味はないんだが……」
現役を退いてなお立ちはだかるヘンダーソンが文を寄越してくるとはよっぽどのことなのだろう。ソルドはアリスたちの奮闘ぶりが気になったが、羊皮紙を広げた。
「………………あのクソジジイっ!」
読み終えたソルドは羊皮紙をくしゃくしゃに丸めて壁に放った。
「あの、なんて書いてあったんですか?」
恐る恐る聞いてくるミック。
強引さに欠けるが、好奇心だけは人一倍あるらしい。
「どうせ〝ほうき星〟を
答える前にリーチャが肩をすくめるが、ソルドは小さく首を横に振った。
「駒の依頼だ。『オルコック』を勝たせてくれたら、来年の〝グリフォン杯〟と〝グラン・ウルド〟で協力するとのおぼし召しだ」
錬金術師によって人工的に造られた雲上の経路を行く〝グリフォン杯〟と、
「返事は……って、聞くまでもないわね」
リーチャは憤怒の形相になるソルドに苦笑する。
すると、ミックが小さく手を挙げる。
「あの……」
「なんだっ!? まだなにかあるのかっ!?」
「す、すみませんっ! で、でも、どうしても聞いておきたくて……」
「手短に言えっ! このとおり、忙しいんだっ!」
投影像を指すソルドにミックがビクッとなりながらも続ける。
「勝てますよね? 『アマーリオ』は……」
彼らが属する
地方紙ならいざ知らず、どこかのギルドに肩入れするような記事は書かないのが暗黙の了解である。
しかしながら、記者も人である。個人的に応援したいギルドはあるはずだ。
ミックは今回のバレ・ド・リュシュテリア――それも二日目からリーチャの助手を務めており、知り合ってまだ日も浅いが、なるほど、『アマーリオ』の
ソルドは眉間のしわを緩めた。
「ああ。そのための準備はしてきた」
「そうですか……」
ソルドが力強く頷くと、ミックは胸をなで下ろした。
(ん?)
愛好家らしからぬ反応だ。
大口を叩いてやれば、大抵は喜んだり興奮したりしたのちに、キトリやルチアのように、こちらの会話も気にならないほど応援に精を出すはずだ。
「では、まだ仕事が残ってますんで失礼します……ほら、リーチャさんもいきますよ!」
一礼し、リーチャの背中を押して退室するミックを、ソルドはなおも訝しむが、すぐにキトリとルチアの歓声が沸き、
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