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『デスパロ』と『ギャリンガ』を難なく抜き去り、先頭の『ノッティーユ』を捉えたのは、残り四分の一を切った地点であった。
左に曲がりつつ、緩やかな坂を登る
彼の魔力は人並み以上にはあるが、怒濤の追い上げでかなり消耗しているはずだ。
事実、穂先がふらつき、箒路の取り方も微妙に甘くなってきている。
「ソルドっ!」
「まだだ! 奴らの尻に食らいつくまではっ!!」
風除けを代わろうとするオッジを前に出すまいと、ソルドは先行していく。
「いい加減にしなさいよ! 今回は前哨戦でしょ? 無茶したら本番に響くわよっ!!」
リーチャの言い分はわかる。
目標は、あくまでバレ・ド・リュシュテリアでの総合優勝である。ここで力を出し切って、バレ・ド・リュシュテリアへの調整が失敗してしまったら元も子もない。
しかしながら、
「前哨戦だからこそだ! ここで勝つことに意味があるっ!」
ソルドの反論もまた理解できる。
ここのところ負け無しの『ピッカルーガ』であるが、大競箒での勝利は未だにない。
ゆえに、規模こそ小さいものの、名だたる強豪がひしめく、このルオズ国際競箒で勝ち、自信をつけたいのだ。
「そうだな」
カルロはソルドの意見に一票投じる。
リーチャの言には、温存することでバレ・ド・リュシュテリアまで手の内を晒したくないという思いも含まれているかもしれないが、隠せるほどのモノを持っている自覚はない。
「俺たちは、まだ挑戦者だ」
臆して退くくらいなら、前のめりに倒れるほうがいい。
技術で敵わないなら、気持ちで飛ぶ。それがカルロの飛箒士としての矜持であった。
「相変わらず箒の上だと、立派な
「うるせえっ! 茶化すなっ! それよりも早く尻に噛みついてみやがれっ!」
「言われなくてもっ!」
ソルドは
彼に引きずられるように、オッジとリーチャが続き、カルロも付いていく。
そこからは直線である。
『ノッティーユ』との距離は十五
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
渾身の魔力を注ぎ込むソルド。
『ノッティーユ』はこちらに気づいたが、彼らが逃げおおせる時間は与えない。
すぐさま左隣に並び、ソルドが離脱した。有言実行とはこのことだ。
「あとは頼んだぞっ!」
「まっかせなさいよっ!」
遠ざかるソルドが右手を挙げると、リーチャが親指を立て返した。
「一つ聞いておきたいんじゃが……」
「なんだよ、こんなときに!」
オッジが風除けをする時間は限られているが、この局面では、たとえ重要な話であっても、やめてもらいたいところである。
しかし、オッジは意に介さず不敵に笑う。
「ワシで決めてもいいんじゃよな?」
この老人、やる気である。
カルロは笑いを堪えるのに必死だった。
「いいんじゃないの? 決めちゃっても」
リーチャも煽ると、オッジの速度が上がる。
だが、『ノッティーユ』もしっかりと併箒してくる。どことなく余裕があるようにも窺えるから不思議だ。
「ぬぅっ! ここまでやるとはっ!?」
「オッジっ! 無理しないでっ!」
「なんの、まだまだっ!」
粘りをみせようとするオッジであったが、現在の風除けを務める『ノッティーユ』の二番手からの体当たりを喰らう。
「ぬおっ!?」
オッジは、二番手共々体勢を崩し、失速してしまう。
「「オジーっ!?」」
すり抜けたリーチャとカルロは、オッジを心配するが、彼は無事であり、〝構わず行け〟と
「カルロっ! あんたはわたしが終着点前まで送り届けるわっ!!」
「頼んだっ!!」
気を取り直し、再び風除けとなったリーチャが発奮する。
それでも『ノッティーユ』を突き放すことはできない。
二対二の対等であるにもかかわらず、こちらが不利であるような気がしてならないカルロは、それを気の迷いだと断じた。
己には、秘中の秘である〝ほうき星〟がある。
炸裂すれば、悲願のバレ・ド・リュシュテリア優勝も夢じゃない。
過信していると言われればそれまでだが、カルロは信じて疑わなかった。
「さぁ、行ってっ!!」
リーチャが離れ、視界が開ける。
『ノッティーユ』の三番手も離脱したようだ。
距離にして二〇〇。
カルロは、この無名の主力飛箒士との一騎打ちに、〝
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