最終話 改革
そして僕はというと、今まで通り大学に通いつつ、休みの日にはゴッドランドに顔を出し政策提言を行う、という食客的な立場になった。
王からは「大学を中退してフレイヤと結婚し、こちらの世界に移住されてはいかがですか」と提案されたのだが、国政に携わるのであれば、大学で法、政治、経済、そして専攻分野である歴史について学んでおいたほうが長期的にはプラスになるだろうと考え、謹んで辞退したのである。
もっとも、辞退した理由はそれだけではなく、「ゴッドランドで食事をすると毒を盛られそうで嫌」だとか、「スマホもエアコンも冷蔵庫もない生活など考えられない」だとか、口には出せないようなものもいくつかあったのだが。
とはいえ、王女であるフレイヤさんと一夜を共にした以上、いずれ責任は取らなくてはならないだろう。
無論、彼女と結ばれること自体は、僕にとっても本望ではあるのだが、利便性や安全性のことを考えると、「通い妻」ならぬ「通い夫」になれはしないものかと、どうしても考えてしまうのだった。
それはさておき、バルファスと交わした「ゴッドランド人の意識を変革する」という約束をどう実行したら良いか、僕は、いや、僕たちはなかなか答えを出せないでいた。
人民の意識改革というのは、上からの強権によって実現できるものではないからだ。
いや、厳密に言えばできないこともないのかもしれないが、国家による思想の押し付けや反発者の弾圧など行っては、ろくなことにならないのは歴史が証明している。
最悪、テロの嵐が吹き荒れたり、内戦に発展したりする可能性すらあるだろう。
バルファスとの約束を果たすために、そして彼にゴッドランドを滅ぼす気を起こさせないために、改革を行う必要があるのは確かだが、だからといって、そのような事態を招くわけにはいかない。
ゲルズさんが行った「人々の性欲を奪う」という行為もそうだが、急進的すぎる改革というものは得てして、無視できない副作用を生み出すものだ。
とはいえ、何もせずにいてはバルファスの不興を買いかねないので、僕たちはひとまず、日本における
この国家事業に対し、聖書派が猛反発したのは言うまでもないが、意外なことに勇者派の中にも、反対する者がそれなりにいた。
だが、考えてみればそれも当然のことかもしれない。
バルファス神殿とは、彼ら、彼女らが崇拝する信義の所業を否定するための施設に他ならないのだから。
勇者派のうち、僕たちの行動に理解を示してくれたのは、フレイヤさんの支持者、信義を育んだ日本の文化に興味がある者、柔軟性に富んだ思考をしている者などだった。
彼らを「新勇者派」と、信義への個人崇拝の気が強い者を「旧勇者派」と呼ぶ動きもあるそうで、このまま分断が進めば、ノルダン教の三派による内戦が勃発してしまう可能性すらあった。
それだけは、なんとしてでも避けなければならない。
改革には犠牲と痛みが必要だ、と主張する者は多いが、僕はそうは思わない。
むしろ、そんなものは余計な遺恨と軋轢を生むだけであり、ないほうが良いに決まっている。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言うように、「歴史を学ぶ」という行為の本質は、「失敗から学ぶ」ことにある。
故に、僕たちはゴッドランドにおける先人の失敗――信義やゲルズさんの失敗に学び、可能な限り流血を避け、
君と僕の融合変身(メタモルフュージョン) うつせみ @semi_sora_
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