第54話 ゲルズ救出作戦
あらかじめ「
生身の状態でここに来なかったのは、ゲルズさんとは違い、バルファスは変身を妨害してくる可能性があると判断したためだ。
「……来たか」
こちらの魔力を感知したのだろう、バルファスはそう呟くと、その背中に堕天使を思わせる漆黒の翼を生やした。
(フレイヤさん、あれは……?)
(おそらく、お
以前戦った時のバルファスは、ゲルズさんによって力を押さえ込まれている状態だったが、今は違う。
ゲルズさんと自身の魂を同調させ、「
菖蒲色の長髪をなびかせて、堕天使が飛翔する。
それは僕が通行人であれば、見とれてしまっていたと思われるほど優雅な光景だったが、当事者としては、そうも言っていられない。
というか、この状況はかなりまずい。
こちらはバルファスに肉薄し、「覚醒魔法」を叩き込まなければならないのだ。
当然、向こうもそれは予測しているだろうだから、遠距離攻撃を仕掛けてくることは想定していたのだが――まさか、空を飛んでくるとは。
バルファスが手のひらから、エネルギー弾を発射した。
夜空と同じ色なので、視認性が非常に悪い。
回避は困難だと判断し、頭上に防御魔法を展開する僕に、バルファスは機関銃のような勢いで、怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
「くっ……」
このままではジリ貧だ。
何か、何か手はないのか――
その時、僕はフレイヤさんと出会った時のことを思い出した。
彼女が空の上から落ちてきても無事だったのは、防御魔法のおかげだった。
あれを応用すれば、あるいは――
熟考している時間などない。
僕はタイミングを見計らって、バルファスの攻撃魔法を防ぐために展開していた防御魔法を解除すると、そのまま跳躍した。
「
だが、翼を持ち、空中を自在に飛び回ることができる相手に、直線的な動きだけで肉薄できるはずもない。
実際、バルファスは闇の攻撃魔法によって、こちらを狙い撃ってきている。
だが、直線が
僕はエネルギーを魔力を込めた手で弾きつつ、空中で自分の足元に防御魔法を展開し、それを踏み台にして更に跳躍した。
この機動は予想外だったのだろう、バルファスの動きが一瞬――ほんの一瞬だけ硬直する。
その隙を僕は見逃さず、もう一度空中ジャンプを行い、バルファスに肉薄し――
相手の胸部に、「覚醒魔法」を込めた掌底を見舞った。
仰け反った姿勢のまま、バルファスの動きが止まる。
そして、永遠にも思える刹那の後――
その背中から翼が失われ、まるで染料が抜けていくかのように、菖蒲色の髪が銀髪に変化した。
この色はゲルズさんの父親、スノリエッタ公と同じ色だ。
ということは、こちらが彼女の地毛なのだろう。
「……ゲルズさん!」
自由落下しながら、僕はその肉体の本来の持ち主の名を呼んだ。
「坂上……結人?」
「意識が戻ったんですね、良かった……」
安堵しながら、僕はゲルズさんを下からすくい上げるようにして抱きかかえた。
いわゆる、「お姫様抱っこ」の姿勢だ。
「バルファスは……?」
「……もう、私の中にはいないみたい」
胸のあたりをまさぐりながら、ゲルズさんが答える。
その瞬間、僕は体から急激に力が抜けていくのを感じた。
おそらく、救出の成功を確信したことによって、僕とフレイヤさんの目的が一致しなくなり、「
「大丈夫……?」
「ええ……想定通りですから」
腕から力が抜けたことを感じ取ったのであろうゲルズさんが心配してくれる中、僕は防御魔法を飛び石を渡るように、防御魔法を小刻みに展開して、ゆっくりと地上まで戻った。
そう。
自らをゴーレムと化したバルファスが、待ち構えている地上へと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます