第53話 決戦前夜

 その後、僕、フレイヤさん、公爵の三人は「覚醒魔法をバルファスにどう当てるか」を話し合い、魔法や組手の訓練を行った後、バルファスとの決闘の二日前に日本へと帰還した。


 公爵をゴッドランドに置いてこなかったのは、いくつかの場所を調べてもらいたかったためだ。


「先日、戦いが行われた場所は、復元魔法によって修復されていました。後日、戦いが行われる予定の場所にも、今のところ罠は仕掛けられておりません」


 彼がホテルの電話を使ってそう報告してくれたのは、バルファスとの戦いを翌日に控えた夜、僕とフレイヤさんがアパートの自室にて、体力と魔力の回復に努めていた時のことだった。


「ありがとうございます。引き続き監視を続けてください」


 僕がそう答えると、公爵は「承知いたしました」と言って電話を切った。


 調査に向かってから連絡までに時間がかかったのは、僕からの伝聞でしか日本のことを知らない上に、フレイヤさんとは違い、翻訳機能を搭載した「フュージョンクリスタル」も所持していないからだろう。


 そんな彼を一人で行かせたのは、僕やフレイヤさんが一緒だと、バルファスに余計な刺激を与えてしまうかもしれないと判断したためだ。


 下手をすると、こちらが罠を仕掛けたと疑われてしまう可能性すらある。


 だが、魔法に関する知識こそ豊富だが、性欲を奪われてしまっており、魔法を上手く扱えない公爵の単独行動であれば、そうした疑いを持たれるリスクは低いはずだ。


 それにしても、彼は罪滅ぼしのため、ここまで協力してくれているというのに、あのバカ王子と来たら……。


「驚きました。結人さまの推測通り、バルファスにも良心が残されている……ということなのでしょうか」


 呆れによるため息を漏らしそうになっていた僕に、フレイヤさんがそう尋ねてきた。


 彼女が公爵の報告に反応することができたのは、僕が通話中、スマホのスピーカーをオンにしていたためである。


「はい。そうじゃなければ、壊れた道路や建物を復元魔法で直したりはしないでしょう」


「ですが……バルファスがあなたさまの命を狙っていることに、変わりはないのでは?」


 そう尋ねながら、フレイヤさんは布団を敷き始めた。


「それはそうですけど……何をしてるんですか?」


 スマホの時計は、今が十九時過ぎであることを示している。


 まだ、眠るには早い時間だと思うのだが。


「明日、戦いに赴けば、生きて帰ることができるかどうかはわかりません。ですから……」


 おもむろに服を脱ぎ始めるフレイヤさんを見て、僕はようやく彼女の意図を察した。


 最後の戦いの前にこういうことをするのは、俗に言う「死亡フラグ」なのではないか。


 そんな考えが一瞬、頭をよぎったものの、僕は即座にそれを否定した。


 くだらないジンクスなど、今は気にするべきではない。


 それよりも、パートナーの意志を尊重することや、自分の感情に正直になることのほうが大切だろう……。




 この夜、僕とフレイヤさんは初めて、「融合変身メタモルフュージョン」ではない方法で一つになった。

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